いずれ地に咲く

作者 ピヨピヨ

花の話 五話

ガコッと大きく私が乗っている馬車が揺れた。
思わず、びっくりして背筋をシャンと伸ばした。
すると、ちょうどそこに木の出っ張りがあって、そこに後頭部が勢いよくぶつかった。
ゴンッ

「イタッ!」
「何やってるんだ?」

前に乗っているカロンが紫の綺麗な目で、こちらを見た。

「頭ぶつけた…というかカロンが馬車の運転下手だからだよ!おかげでふたつもこぶができちゃった。」
「あらあら、大丈夫?」

カロンの隣に座っているフリージアさんが、心配そうにこちらを見ている。
ああ、やっぱりこの人いい人だ。
カロンも見習えばいいのに…。

「大丈夫だろ、どうせ寝てただろうし。」

う、まぁ、寝てたけど…。
それにしても、綺麗なところだなあ。
私は馬車の荷台からあたりを見回す。
少し霧深い森、新緑のみずみずしい葉をつけた細い木々が生い茂り、あたりを囲っている。
その木々の幹は白いため、白と緑のコントラストが目に優しい。
乙女的には、結構そそられるかも…。
そんな風にあたりを眺めていると、ふいに足元がムズムズした。
見てみると、何か小さい小人が足元にいる。
頭にどんぐり帽子を被った、可愛い小人だ。

「え、あ、こ、こんにちは。」
「…。」

ひとまず挨拶してみると、小人はコテっと首を傾げた。

「あ、お前までついてきたのか。」

カロンが振り返ってその小人を見た。
お怒りのようだ。

「オマエ、テダスナ、イッタ、テダサナイ、カラ、ツイテイク、オモシロソウ、オモシロソウ。」

この小人喋るんだ…。
とゆうか、何の話?
てゆうか、私聞き流せなかったからね、お前までって…。
完全に私も入ってるよね。
どうなんですか?

「なんかしたら、馬車から放り投げてやるからな。」

カロンはそう言うと、再び前を向いて馬車を走らせた。
小人はヨジヨジと私の膝の上に登ってきて、コロコロと鳴いた。
可愛い、小動物みたいだ。

「オンナノコ、オンナノコ。」
「こんにちは、可愛い小人さん、私はカルミアっていうの、お花を売ってるんだ、あなたの名前はなんていうの?。」
「カ、カル?…カ、カ、カル?」
「だめよ、カルミアさん、そんなに言葉があると、混乱してしまうわ。」

フリージアさんにそう言われて、私は名前だけ一言ずつわかりやすく小人に伝えた。

「カ、ル、ミ、アだよ。」
「カ、カル、ミア?」
「そう!もう一度言ってみて!」
「カル、カルミア?」
「そうそう!私カルミアだよ!」

小人はコテっと首を傾げ、何度も名前を呼んでくれた。
フリージアさんがそんな私たちを見て、ふふ、と笑った。

「その子はね、木霊という木の妖精なの、少し言葉が拙いけど、私たちよりも大きい魔法が使えるわ。」

魔法って言われても、いまいちピンとこないけど、とにかく普通じゃないということはわかった。
カロンも、そういうものなんだろう。

「おい、忘れてないだろうな?はしゃぐのはいいが、仕事の邪魔はするなよ。」

はいはい、わかりましたよ。
少し乱暴な物言いに、ムッとしていると、

「返事は?」

と言われて、

「はーい…。」

と答えた。






北欧目指しての旅。
かれこれ丸一日かかっているんだけど、つく気配はまだない。
フリージアさんいわく、あともう一日くらいと言ってるんだし、耐えられる程度なんだけど、さすがに座りっぱなしだとお尻が痛い。
そのため、やっと一息ついたときには、お尻がかなりゴワゴワした。
一夜を明けるため、少し広い洞窟の中で夜ご飯を食べた。
あれは美味しかった、シンプルなトマトと豆のスープだけど、塩気と旨味が絶妙で、豆の味もしっかりあって、あれを、あの無愛想なカロンが作っているから、世の中は不思議だ。
お腹いっぱいになって、フリージアさんがカロンに話しかけようとしたその時、カロンは立ち上がって、

「少しあたりを散歩してくる。」

と言い、スタスタとどこかに行ってしまった。
カロンの狙ったかのような、済ました態度に私はあっけにとられた。

「なんなの、あの態度。」
「…まぁ、仕方ないわね。」
「?…でも、あれはダメだと思いますよ、あんな突き放すような接し方は、友達できなくなります。」
「あの方は、わざとそんな風にしているのだと思うわ。」

?…わざと?
私は、その言葉の意味がわからなかった、なぜわざわざそんなことするのか、わからない。
だって、友達はいた方が楽しいのに。

「貴方に彼の仕事のこと教えなければ、ね…。」

フリージアさんは、目を細めて話し始めた。





今日は、見事な満月だ。
そのせいか、気持ちが落ち着かない、月の魔力によって、精神が高ぶっているようだ。
ただ、こうやって慣れない北の大地を歩いていると、少し寒々しい。
吐く息も白く凍り、やがて空気に溶けてゆく。
ふと、胸のあたりがもぞもぞしていることに気づいた。

「…。」

歩んでいた足を止めて、ふぅ、とため息をつく、そしてガッと胸の異物をひっ掴み、目の前に見えるように取り出すと、見覚えのあるドングリ帽子が見えた。

「お前は、気配を消すのが得意なようだな?」
「…ホメタ…?」

ガチャ、と愛用してる拳銃を取り出して
木霊に向けた。

「お前の存在も消してやろうか?」

木霊は一瞬ビクッと身を竦ませた。

「なんでついてきたんだ?本当にあの娘目当てじゃないのか?」

そう言って、拳銃の先で木霊を突く、無論差し金に指をかけたままで。
木霊はふるふると首を振った。

「まぁ、この際どうでもいい。」

パッと掴んでいた手を離し解放してやると、ポソッと下に木霊は落ちた。
少しほっとしたのか、しばらくの間あたりをキョロキョロと見渡し、こちらを見た。
しかし
私は、銃を下ろしていなかった。
あたりに一瞬張り詰めた空気が漂う。

「死ね…。」

私は、
引き金を引いた。

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