オレンジの片割れ。

七瀬杏樹

桜、吹雪。

ホームに入ってきた電車に私とオオヤは乗り込む。見慣れたクリーム色の車体に、今日も電車の側面に茶色と色のラインが引かれた、なんとも言えないデザインのローカル線。結構、私はこのデザインが結構好きなんだけど、うちの父親は変な顔をみせて、母親は気にも留めない。
オオヤと、私は向き合うように座席に寄りかかる。ドアの端と端によって正面に立つ。つり革を握って隣に立とうとか、疲れたから座席に座ろうとか、そんな言葉を交わさずにオオヤが左に、私は右に別れた。
その様子がおかしくて思わず窓の外の茜色に目を細めつつ「なんだかなぁ」なんて言葉が漏れて、正面から「なにが?」って笑いを含んだ声がするので、そちらを向く。目が合ってまたまた私とオオヤは笑い身悶えた。今なら箸が転がっても大笑い出来るわ。
「あ、みてみてオオヤ。桜の木もうちょっとで開花しそう!」
「どの辺り?……あっ、ほんとだ。薄いピンクの靄がかかってるみたいだね」
「オオヤって桜、よくみてるよね」
オオヤが気づく気はしないけど、『オオヤって桜の花が好きなの?』っていう問い。なんなんだかわかんないけど、こういう付き合うだの好きだのちょっとでも恋愛方面のことになると、へんな言い回しをしてしまう。
オオヤはそんなことに全く持って関心なんてないのはよく分かってるのに。単語だけには意味はない。文脈とか状況とかで理解されるんだから、ただの同級生と対して特別な意味のない会話で、告白されているんだって思うほどに、オオヤはナルシストでも恋愛至上主義でもないんだから。
「そんな桜見てる?」
眉間に皺を寄せて考え込むオオヤに私は意見をする。今、明るく無邪気に笑おうとすると、空元気なの丸わかりなので淡々と言葉をまとめていく。
「みてるね。だってさ、中1の時に私らが初めて話した時のこと覚えてる?」
オオヤは数秒間宙をじっと見つめて記憶をまさぐっていたようだったけど、諦めたのかこちらにゆるゆると首を左右にふった。一般的に考えてこれは否定の意だろう。
私は、珍しくため息も漏らさずに角がまあるく切り取られた縦に長いガラスに手を置いた。特に意味はない。
オオヤのいる方を横目で見てから心の中で一言呟く。さぁ、昔話を始めよう。

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