オレンジの片割れ。

七瀬杏樹

Symmetry

高校の最寄りの駅の、灰色のコンクリートむき出しのそこそこの大きさのホームに黒い影がふたつ。大きいものと、少し小さいもの。
三年間履いてすっかり革靴にも足が慣れて、気にしなくなったのに、私は足元の黒いローファーを見ていた。
それはそういうセンチメンタルな気分だったからで明確な理由とか目的はない。
……随分土埃で霞んでるな。家に帰ったら布で拭いておこう、明日は卒業式だし、一応。そんな風に家に帰ってからの予定をなんとなく決定しておく。
家に帰ってからすぐやるかどうかはわからないけど、母さんにやれって言われるだろう。
「サクライ?」
静寂しじまななか突然自分の名前が呼ばれて、肩を震わせる。声のした方にはオオヤ。人のこと言えた身分じゃないんだけど、影薄すぎじゃない?もっと自己主張してこ?そういうの社会に出てからも大事だし、大学でも必須だから。どこいくんだか知らんけど。
「びっくりした……え、なんか驚かされてばっかりじゃない、私?」
「ああ、確かに」
「突然苗字なんて呼んでどうしたわけ?」
「体調でも悪いのかなって思ってさ」
はて、と首を傾げる。この行動を取ってから思うのだけど、こんな所作は可愛い子か、可愛い子ぶっている子しかとらないな。とかなんとか。
「なんでまた?私、体調普通だけど?」
「そっか、なら別に」
下を向いてたからてっきり。と言葉が続けれられてようやく成る程、と膝をうつ。こっちのことが視界に入ってないなぁって、諦めることのがオオヤに関しては多いのに、ふと外れた時に限ってよく見ているのだ、この男は。
こういうところだろうな、六年間忘れられなかったのは。
でも、好きな奴に心配されて悪い気はしない。でも、気を使われるのも嫌なので視線を前にする。
「成り行きで駅まで一緒に来ちゃったけど、オオヤの方は平気?」
「え?いや、特に断る理由はないし目的のとこは同じだし、別に」
そっか。とだけ呟いて横目でオオヤを見た。口が勝手に昔ばなしをしたがっていた。せっかくの機会だしとオオヤ、と短く苗字を呼ぶ。ん?と自然にこちらを向いたオオヤは首を傾げた。その様子は私と全く同じで思わず笑ってしまった。
笑う私につられて単純なオオヤも「突然どうしたの?」って双眼をふっと優しく細める。そんな私とオオヤのだいだい10センチぐらいの隙間を春の、柔らかい南風が走っていった。
風なんて目には映らない。でも、オオヤの目には見えているんじゃないかなぁ。
どこか遠くを見ているめをしたオオヤが、春に溶かされて消えてしまうんじゃないかって、右手を伸ばしかけて、やめた。
そして、もう一度大きな風がさっきの風を追いかけるように、私の背中まで下ろした黒い硬い髪を揺らしていく。あいも変わらずどこか遠くを見たままオオヤの左手が、なぜだかこちらに伸びて引っ込んだのは、どういう意図があったのか、私はわからない。


ああ、どうして私らはこんなにもsymmetry対称の所作をしてしまうんだろうね。________昔っからさ。

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