オレンジの片割れ。
春の雷の音を刻む。
「意外と、肝が小さいよね」
自分の口から出た言葉に頭を抱えたくなる。あー、そうじゃないよ私の馬鹿野郎。
反射的に出る声は抑揚もなく、ただ冷淡さを伴うのみ。
「……間違ってても責めないでね?」
「善処する」
彼が、ひとつ苦笑いをして珍しくそのまま言葉を投げかけてきた、六年間の付き合いで初めて。今まではもう『触らぬ神に祟りなし』って感じで、線を引いてしまう彼が、だ。
「えと……サクライ、さんでしょ?」
周りの音が遠く、彼のその声だけが鮮明に、克明に耳に響く。思わず、その声の残響を心ゆくまで味わってしまうほどに、それは大きな落雷でしかなくて。だから言葉が出ないのも、当たり前だって主張したい。
「____ごめん。びっくり、して」
手で顔を覆う。そうすれば、彼に私の表情は見られないはずだから。
頰を主体として、耳もきっと赤く染まっている。
あー!心臓うるっさい、黙ってても自分の仕事を全うできるでしょ、なんでいま、私に構うの!?ウザいったらありゃしない。
自分のことでいっぱいいっぱいになって、正面を……彼のいる位置を見ることが出来ない。というよりも、それを言い訳に見ずに逃げてしまいたい。
「あってる?」
「あってますけど。君はちゃんと覚えてくれてたんだね……。なんか、その、ありがと?」
「結構、嬉しい」そう囁く声は私の本音が溢れた音なのだろうと思う。存外、彼は耳が遠いので聞こえている保証はどこにもないけどね。聞こえていなくても、余計なひと単語を追加してしまったとしても、本音を言ったという事実だけは、変わらないまま。
「あのさ、こっちは苗字で呼んだのにサクライさんは代名詞のままなの?」
「え?君……オオヤ、くんも気にすんだ」
「いやさっきまで、名前のことを話してたじゃん。……ツッコミって柄じゃなくて疲れるから、交代してよ」
彼____オオヤは泣き言を言って私に呆れた表情を見せた。マスクで覆われているのに、なぜだかよく伝わった。いわゆる、これが以心伝心とかいうやつだろうか。いや、違う気がするな。
そんな、どうでもいいことを思いつつ、私は笑ってオオヤに言葉を投げてみる。
キャッチボールをしたかった。一人じゃあ、絶対にできないことだったから。
正面のオオヤの目を見つめる。オオヤはいつものようにふいと目をそらさず私に微笑み返してくれた。思わず不意を打たれて数秒間フリーズして、なにもなかったかのようにふざけた口調でボールをオオヤの手の平目指して投げた。
「くん、さん付け省略ね?めんどいし」
「異論なし、サクライ」
「よろしい」
ふたり顔を見合わせて、あははと笑い合ったその音は、いつの日に落ちた春雷によく似ていた。
          
自分の口から出た言葉に頭を抱えたくなる。あー、そうじゃないよ私の馬鹿野郎。
反射的に出る声は抑揚もなく、ただ冷淡さを伴うのみ。
「……間違ってても責めないでね?」
「善処する」
彼が、ひとつ苦笑いをして珍しくそのまま言葉を投げかけてきた、六年間の付き合いで初めて。今まではもう『触らぬ神に祟りなし』って感じで、線を引いてしまう彼が、だ。
「えと……サクライ、さんでしょ?」
周りの音が遠く、彼のその声だけが鮮明に、克明に耳に響く。思わず、その声の残響を心ゆくまで味わってしまうほどに、それは大きな落雷でしかなくて。だから言葉が出ないのも、当たり前だって主張したい。
「____ごめん。びっくり、して」
手で顔を覆う。そうすれば、彼に私の表情は見られないはずだから。
頰を主体として、耳もきっと赤く染まっている。
あー!心臓うるっさい、黙ってても自分の仕事を全うできるでしょ、なんでいま、私に構うの!?ウザいったらありゃしない。
自分のことでいっぱいいっぱいになって、正面を……彼のいる位置を見ることが出来ない。というよりも、それを言い訳に見ずに逃げてしまいたい。
「あってる?」
「あってますけど。君はちゃんと覚えてくれてたんだね……。なんか、その、ありがと?」
「結構、嬉しい」そう囁く声は私の本音が溢れた音なのだろうと思う。存外、彼は耳が遠いので聞こえている保証はどこにもないけどね。聞こえていなくても、余計なひと単語を追加してしまったとしても、本音を言ったという事実だけは、変わらないまま。
「あのさ、こっちは苗字で呼んだのにサクライさんは代名詞のままなの?」
「え?君……オオヤ、くんも気にすんだ」
「いやさっきまで、名前のことを話してたじゃん。……ツッコミって柄じゃなくて疲れるから、交代してよ」
彼____オオヤは泣き言を言って私に呆れた表情を見せた。マスクで覆われているのに、なぜだかよく伝わった。いわゆる、これが以心伝心とかいうやつだろうか。いや、違う気がするな。
そんな、どうでもいいことを思いつつ、私は笑ってオオヤに言葉を投げてみる。
キャッチボールをしたかった。一人じゃあ、絶対にできないことだったから。
正面のオオヤの目を見つめる。オオヤはいつものようにふいと目をそらさず私に微笑み返してくれた。思わず不意を打たれて数秒間フリーズして、なにもなかったかのようにふざけた口調でボールをオオヤの手の平目指して投げた。
「くん、さん付け省略ね?めんどいし」
「異論なし、サクライ」
「よろしい」
ふたり顔を見合わせて、あははと笑い合ったその音は、いつの日に落ちた春雷によく似ていた。
          
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