嘘は異世界を救うのか、滅ぼすのか

ノベルバユーザー183896

第16話 嘘の若獅子の夢は紡がれる⑨

ミッシーとのゲーム開始日から三日後。


流石に飽きるな。周りからの視線が痛い。怯え、緊張感、委縮、絶望。村全体で負の感情が漂ってくる。回復させてはやってるが毎日ヤマタケを馬として扱ってるため、疲労で死にそうだな。体は治っても精神的にはかなり辛いだろう。それでも耐えるのだからこいつなりに何か思うことはあるのだろう。


「さて三日目にしてやっとお出ましか。」


この三日間何をやってたか知らんが、やはり助けに一度も訪れなかったってことは。忙しなくしてたか、兄が潰れても構わないということだろうか。


「ロウチさん流石にお兄ちゃんが死にそうなので、今日のところは止めて頂けないでしょうか。お願いします。」


ミッシーは土下座して懇願してくる。この人目に付く公道でミッシーが言うのだから仕方ない。


「はぁ?何言ってんだ小娘がぁ!お前この馬鹿の妹なんだってなぁ?こんなになるまで放置して今更助けて欲しいだと。それは優しい優しい兄思いな妹だなーおい!」


「ごめんなさい。でもどうしても足が竦んでしまって。でもお兄ちゃんが死んじゃうのは嫌なんです。お願いしますから許してください。」


周りからの視線が動揺の色を表し始めているな。計画通りだがまだパンチが足りない。それは今後に期待だな。


「まさかとは思うけど、私が悪いとでも言いたいのかな。これは仕置きだよ。たったの1週間だけの。なにも今後もずっと子供達にこんな真似をし続けるわけではないよ。」


そう俺の計画の第一段階としては、クズヤロウ達がやってることをクズヤロウ達に認識させるためだ。ここまでではないにしろ自分達の行いが何を意味しているのか、結果どうなるかを。


「それでも!」


ミッシーは涙目になりながらも訴えかけてくる。


「くどい!どけ!邪魔だ!一週間で人がそう簡単に死ぬわけないだろ。仮にこいつが死んだとしてもそれはとっても不幸な事故でもあったのだろうよ!」


俺はヤマタケか降りミッシーを蹴りあげ引き離す。かなり手加減しているから見た目ほどのダメージはないはずだ。そしてまた乗り直す。


「行け!無駄な時間を過ごしてしまった。」


ミッシーを放置して、ヤマタケを誘導する。倒れたまま動かないということは、この一連のやり取りは演技なのだろう。ホント迫真の演技すぎて、こいつなら部下にしたいと思わせられたよ。





次の日。


また人目に付く公道でミッシーがやってきた。


「ゲームは私の勝ちですよ。100枚署名付きで持ってきました。これでお兄ちゃんを解放してください!」


やはり成功したな。このゲームに関してはこいつが勝とうと思えば簡単にできると思った。


「おうそうか!100枚集めたか!凄いじゃないか!署名もしっかりしてある。だが本当に内容を確認して書いた証拠はどうする。内容は伏せ偽装した可能性があるぞ。」


俺はその可能性はないと分かっていても確認をとる。ミッシーがそれを想定していないわけがないと思うからな。


「はい、全員ではありませんが半分ほどの人数はこの場に来ていただいています。確認を取ってください。そしてこの署名を書いたからと言ってロウチさんに反発したいわけでは皆なのです。だから確認を取っても、お願いします許してください。」


ミッシーは土下座しながら懇願してくる。いや~最高の結果だな。やっぱりミッシーは部下にする。


「そうか来ているのか、それなら話が早いな。...おっと手が滑っちまった。」


俺はあたかも偶然かのように署名用紙を破いていく。


「すまんな不幸にも確認する前に紙が破けてしまった。紙はいくらでもやるからもう一回もってきてくれ。100枚300円で買えるからな10000枚でも20000万枚でも用意してやるよ。さぁ行くぞ、動いていいぞ。」


周りから絶望の感情が漂い、そして一部からは凄まじい怒りの感情が読み取れる。


ミッシーは膝から崩れ落ちた。


「...そんな、..うぅ.お願い..お願い!誰か助けてください!誰か私のお兄ちゃんを助けてください!!!」


魂を揺さぶられるほどの、感情がこもった叫びがこだまする。流石にミッシーも想定外だったか。


「おい!てめぇ!よくも詩歌ちゃんを!」
「このクズが!お前ら武器もってこい!こいつだけは殺す」
「このこと伝えろ!仲間呼んで来い!」


子供たちが咆哮している。想定外があるとしたら。やはり人ではない異物ゴブリンはいないのか。


喧噪が広がっていく。怒りの限界点を突破したか。署名活動とは仲間を増やすことだ、仲間ではなくとも応援者にはなる。ただただ言葉だけで応援よろしくお願いします!とか言ってるやつは無駄ではないと思うが、効率が悪すぎる。署名という形で自分から書かせることで、他者が応援者に変わる。それは安易に証拠として残るし、内容への印象や同意を得られやすい。今回は大分手助けしてやったんだ。ゲームの勝利はいただくぞ。


「皆どうして...だめよ。やっぱりだめ。私のせいで..逆らったら皆が!」


「詩歌や掛のことだけじゃあないんだもう!この村には我慢ならなかったし、なによりコイツのようなクズがまた現れたらもう俺達は終わりなんだよ!」


「そうだ!もう反逆するしかないんだ!さあ武器だ。こんなことさせたくはないがもうやるしかない!」


くくッははは、いいぞ!その目は皆明日に絶望しているような、腐った目をしてやがったのに今はどうだ!皆活き活きした良い目してんじゃないか!さぁぁてぇクライマックスだ!悲劇と反逆をおりなす最低なショーを俺に見せてくれ!

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