嘘は異世界を救うのか、滅ぼすのか

ノベルバユーザー183896

第7話 嘘で始まり終わる世界⑥

「ユイ調子はどうだ?」


俺は買い物袋を持ちながら、少し気分が悪そうなユイに尋ねた。こればっかりは必然的こうなることが分かっていたため。気をつかわなければならない。


「酷い状態よ、結末はおそらく最悪のパターンよりマシってところよ。」


空間魔術を使用し続けること自体ならユイは一か月でも余裕のはずなんだが、使用している以上中の様子がリアルタイムで分かるらしい。


「そうか、俺の人を観る目が落ちてしまっているのかもしれんな。12年はあまりに長すぎたな。」


ユイはあの神域でも記憶改竄が行われていたとはいえ力はそのままであったため、あまりブランクがないかもしれんが、俺に限ってはすべて封じられていたため、全く使えん。というより失ったと断言すべきだな。


「じゃあやはりもう観えてはいないんですね。魔の流れが。シンドウさんの場合は気というやつでしたか。」


俺が失ったものの一つである観る力だ。この力が他を圧倒するほどに秀でていたため、俺はかつて挑戦したのだ。仲間を部下を配下を従え、だが敗れた。その代償は大きかったようだ。


「手に入れた暴かれた力で戻せないんですよね。シンドウさんの観る力は?」


こればっかりはどうにもならん。この力は俺自身のことを俺以上に知っている又は持っている必要がある。要は俺と同等の能力を持っている人間が暴かねば戻らないらしい。


「お前は女神の時、すごいテンションで馬鹿騒ぎしていたが、これはユイが思ってたような能力じゃないんだぞ。相手が俺は空中を自在に飛べる人間だと思い込んでいたとしても、飛べる能力が身に着くわけではないんだよ。流石に俺も学園にいたころに真面目に他の能力値上げやっとけばと後悔してるよ。」


俺は基本一点集中型なんだ、ひたすら極めようとするだけなので必然的に弱点が多い。よくあるだろ数学の点数はやたら高くても他が低いそんな生徒だった。


「シンドウさん、さっきかららしくないじゃないですか?傲慢不遜の俺TUEEE丸だしのナルシストなシンドウさんはどこにいったんですか?」


確かに俺らしくないとは思っている。だが現状を打破するピースがどうしても足りないのだ。マカベが持っている以上どうしようもないのだが。


「ユイ言っていいことと悪いことがあるぞ俺はナルシストではない!なぜなら俺が自分のことを好きになれることなどあると思うか?」


こんな嘘にまみれた陰惨な過去を受け入れることなど到底できない。


「ユイ改めて言う。俺の気分は今、超絶に悪いからデートでもして慰めてくれ。」


ユイもそうだと思うが、今ノンストップでことを動かし続けているのだ。かつて敗北を決した時点で残された猶予がないことは分かっているが休息を取るべきだろう。


「シンドウさんは素直じゃないですね。どうせ私の心配をしてくれているのでしょう。いらないと言っても聞かないのでしょうから甘えさせていただきますね。」


ったく。こちらがプライドを捨ててでもそう言わせないようにしたのに、器用貧乏はつらいもんなんだぞ。


「んじゃまずは。ショッピングにでも行くか。さっきの買い物から2時間経過したな、もういいだろ。」


「なんかこの2時間で変化でも起こしたの?」


この小さな変わり映えのない村でいつもとは違った日常が起きたらどうなると思う。伝染するもんだよ噂、世間話で俺達のことがな。年寄りは話好きだからな。


「デートを盛り上げてくれるさくらが満載だってことだよ!」





通りを歩いて5分。
ショッピング通りに行くと期待通りの結果となった。


「あなたがロウチさんかい?ジロちゃんの孫だとか。」


「はい。ロウチです。ここには綺麗な服がたくさんありますね娘に試着させてみてもよろしいでしょうか?」


「まぁまぁ可愛い娘さんだことぜひとも試着していって頂戴。」


服装もこれから必要となるだろうからな。ユイにはいつでも可愛い姿でいて欲しいもんだ。





1時間ほどは試着を楽しんだ。
個人的にはなぜかおいてあった日本にしかこの文化がないのではと思っていたネコミミとメイド服があり。試着を頼んだんだが断られた。


「シンドウさんの趣味が趣向が地球で悪い影響を受けたことがわかってしまったわね。」


「いやいや、あれはどの世界であろうと男を魅了する服だって!ユイが来てる姿想像するだけでそそるものがあるんだよ。」





二店目は喫茶店だ。
しかもねこだらけの喫茶店


わりと動物好きな自分としては癒される。なによりユイと戯れているネコを観るのはさらに癒される。


「私は動物なんて飼ったことないのですが。シンドウさんはありますか?」


「動物はネコだけ飼っていたことがある。他種族を飼っていたのは。また別のくくりでいいはずだよな。」


2時間ほどティータイムを過ごした。





日が暮れてきて夜が近づいてくる。


村から少し離れた草原で寝ころびながら星を見上げる


「星座は異なるが、星がきれいに見えるというのは変わらないんだな。」


「そうですね。傍目からしか地球を観察はできていませんでしたが、夜空に浮かぶ星たちは綺麗です。」


そんな他愛無い雑談を2時間ほど繰り返し。


終わりの時は来てしまう。あの赤い輝きによって。


「乱咲待たせたわね。そして電報にあった通り例の人口ヒューマノイドを持ってきたよ!」


突然の来訪者は愛華 紅姫まなか べにひめあだ名は マカベだ。


「マカベさんどうしてここに!シンドウさんが呼んだんですか?」


そうだ呼んだ。既に場所は伝えてあったんだ。後はこちらの世界に来たことを合図すればよかったんだ。
なぜそれをユイに伝えなかったのか。それは..


「ユイ、君とはここでお別れだから。マカベのことは言う必要がなかったんだよ。俺の嘘を決して許さなくていい。」


「ど、どうしてお別れなんですか!私達は仲間でしょうシンドウさん!」
そうユイは仲間だ。それは変わらない。


「お前はユイではないんだよ。嘘はやめろ、俺には通用しない。」


嘘であって欲しかったよ。本当に今回だけは。


こちらの世界に来たとき俺の思い過ごしかと何度も疑った。ユイの気が全くべつの者と入れ替わっていると、だからこそ何度も探りをいれた。記憶は確かにユイのものだ、だが記憶改竄より食い違いが生じていることに本人が気づいていない。


俺の観る目は失われていないんだよ、言えるわけがない!確かにユイではないさ、だが俺の計画のためには本当のユイである必要がある。偽物ではなく俺がこの世で最も愛した神藤結でなければ計画の意味すらなくなってしまう。


「そんな嘘ですよ、確かに私は神藤結のはず。亜神種に捕まり守護役に祭られた。」


「お前はあの亜神種に、一回は魂を食われかけたんだよ。俺は自分の身を犠牲にしてでもお前の魂だけはマカベに託した。正直死にもの狂いだったから託せたかどうかも半身半疑だったがな。」


んじゃこいつはなんなんだよって話になるよな。あいつら人の魂を記憶をなんだと思っていやがるんだか、そしてあの戦いを敗北と悟った自分の出た行動は、あいつらの考えすら生ぬるいさらにどす黒いものであったことを思い出してしまった。


「ようは優秀な神藤結の魂をコピーし利用されたのがお前だ。..そしてそうなることを予測した上でこの状況を描いたのは俺だ!正直お前に殺されるんだったら俺は喜んで死んでやるよ!寂しくないよういつまでもそばにいてやるよ」


そんなことを言っても結果は変わらないことは、俺もユイも分かっている。本当に自分のクズさに嫌気がさす。


「シンドウさん..いや乱咲さん、そんな泣きそうな顔しながら言われても説得力皆無ですよ。いつもの傲岸不遜の俺TUEEEでいてくださいよ。はぁ私まで地球に悪影響与えられてしまってますね。」


すまない。これは乱咲擾が生まれて3番目に償いきれない、犯してしまった大罪だろう。


「あぁ~だから急にデートしようなんてわがまま言ったんですね。本当に心配性であり、実は優しいんですよね。そういうとこ無駄に気を遣われているようで本物も偽物も等しく、乱咲さんの嫌いなとこですよ。」


そうだよな。仲間なんだから遠慮はなしだよって初めに言ってくれたのもユイ、君だったな。
絶対これだけはなにがあっても忘れないよ。


「では乱咲さん暴いちゃってくださいよ私の正体を、確信はありませんが元の魂はこの身に宿ると思います。そういう設計をしたんでしょ。技術者であり最速の異名をもつマカベさん」


「そんなとこまで知られちゃってるんだ、ユイの記憶を持ってるのは本当なんだね。技術者として保障するよ。」


そんなかつての友人同士のような会話を繰り広げる。俺にとってはかけがえのない、いつもと同じ風景のはずなのに、やはり許すことができない。


「俺が言うのもなんだけど、そんなあっさり納得しないでくれよ。お前は消滅するんだぞ、死ぬんだぞ。もっと俺に恨みごととかあるだろ。俺にとっては、俺が傷つかないように必死で取り繕う姿が一番耐え難いんだぞ。十字架背負わせるな地獄に引きづり落とすくらいでやれよ」


みっともないことこの上ない、どうして黙って見送ってやることができないのだろう。俺が招いた結末なのになぜ俺が駄々をこねているのだ。


「はぁ~人が折角やせ我慢しているのに乱咲さんは最低ですね。本当にクズですね。..それでも乱咲さん。あなたのことが好きですよ。世界で最も愛してます。乱咲さんは私のことどう思ってますか?」


そんなの決まっている


「...あっ俺別にユイのこと恋愛対象として1パーセントも見てないから勘違いするなよ....俺が最も愛したのはお前ではなく本物のユイだ。敵うわけねーだろ永久に二番止まりだよ。」


「残念です。最後くらい一番って言ってくれてもいいじゃないですか。もう許しませんから!..」


いきなりであった。いや今のは俺が悪い正直逃げる気がこれっぽちも起きなかった。はぁまた俺は嘘を言ったのかもしれない。口づけしにきやがって、テンプレかよ。でもこれを断れるやつなんていないだろ。


口づけが終わると
「お前はユイではない偽物だ。だからお別れだ。敵は必ず取ってやる。乱咲擾の名にかけて」


ユイは微笑みを浮かべながら
「乱咲さんらしいですね..では...」


ユイの体から何かが気化したかのように抜けていく。


あいつの全ての始まりと終わりを俺は描き心に刻んだ。あいつがいたことは俺が覚えてるし決して忘れない。嘘になんてしない。俺はこの世界を救う、いや間違ったこの世界を滅ぼすため計画を進める。

          

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