のっとぱーふぇくと!!〜異世界転生の特典は呪いでした〜

琉凛猿

一章 六話 戦慄

〜アストレア視点〜

「ユリスお姉様!ただいま戻りました!戦況はどうなっておりますか?」

息切れを瞬時に整えたが、あまりにも唐突な隣国の暴挙に、心が落ち着こうにも落ち着かない。城内にある本部には、物々しい甲冑を着て、深刻そうな顔をする姉がいた。

「アストレアか。かなり劣勢だ。何の用意もしてなかったということもあるが、クネヴィア軍の様子がどうもおかしい。あれほど平和的な国が、まるで何かに駆り立てられたかのようで、兵士の士気が異常なほどだ。」

「何か、精神魔法でもかけられているのでしょうか?」

「その可能性は低い。クネヴィア兵全ての士気が高まっているのだ。この世にあれほどの大人数に、魔法をかけられるやつなどいない。もしいるとすれば、それは神か何かだろう。」

だとすればなぜ、あの平和的で戦いを好まないクネヴィアの人々がいきなり先制攻撃を仕掛けてくるというのか。いくら考えても、答えは出ない。

その後すぐに、伝令役が状況を報告しに来た。事態の深刻さを、表情が物語る。

「ユリス団長!国境警備軍が破滅寸前!至急、増援を要請する!とのことです!」

「もう国境が突破される、か。さて、流石の私も、この異様な状況から逃げ出したくなってきたぞ。」

「それと、もう一つあるのですが…。例の大賢者様が、少女を連れて城の前でウロウロしていたので、ついでに連れて来たのですが…。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「シオンさんとリィさん?一体何をしに?通してあげてください。」

しばらくして、2人はやって来た。

「シオンさん。この国から出てくださいと言ったじゃないですか。何故ここにきたのですか。」

突き放すようなセリフを吐くのだが、内心はその逆である。

「アストレア。俺も手伝いたい。俺には大賢者と言われるほどの力があるんだろ?なんとかできるはずだ。」

私は、心底嬉しかった。シオンさんは、優しい。いや、優しすぎる。だから、このような争いに巻き込みたくはない。だから、突き放してでも、この国から出て行かせるべきだと思った。

「シオンさん。お気持ちは嬉しいのですが…。」

「大賢者さんが加勢してくれるとは、本当に心強い!アストレア。いつ、こんな人と知り合ったのだ。」

横槍を入れてきた姉に、少しばかり、苛立ちと不快感を覚える。私の家族はいつもこうだ。母も、姉も、妹も、兄までもが、空気が読めないというかなんというか、おかしい。

「ユリスお姉様!大賢者と言えども、魔法にまだ慣れておりません!つい先日に私が教えてたくらいなのですよ?」

「大丈夫だから。任せてくれ。絶対迷惑はかけないし、力になるよ。」

「まあまあ。大賢者さんもこう言ってるんだし。無理に断る理由もないだろ。」

「…っ!それもそうですが…。」

「アストレア。大丈夫だよ!リィもついてるから!」

「リィちゃんは流石にダメですよ!!シオンさんも、なんで連れてきたんですか!!」

「リィは強いから大丈夫だよ!シオンを責めちゃダメ!」

「アストレア。リィはすごい人の孫で、本がないのに魔法も使える。だからリィの心配はしなくていい。」

「それ、初めて聞きましたけど!!数千年に一度生まれるという、『神の子』ってやつじゃないですか!」

結局、納得できないままシオンさんと、あとリィちゃんも一緒に国境へ行くことになってしまった。

〜シオン視点〜

リィって結構すごかったのか。ていうか、『大賢者』っていうのより、『神の子』って言う方がかっこいいし。いいなあ。それを見透かしてるかのように見せてくるドヤ顔、うざいなぁ。

「さて、行こうか。『テレポート』を使うから、私のどこかに触れておけ。国境付近まで飛ぶぞ。」

アストレアのお姉さん?がそう言ったので、纏っているごつい甲冑に触れた。

「おい、大賢者さん。生の体に触れなければ一緒に飛ぶことはできんぞ。」

そうなのか。どこに触れば…。顔しか出てないのだが。ていうか生っていい方、なんかエロい。

「ユリスお姉様!からかうのはおやめください。シオンさん、装備も体の一部として見なされるのですよ。」

やっぱりそうか。おかしいと思ったんだ。リィもアストレアも、甲冑を触ってるのに。

「そんな怒るなって。冗談じゃないか。それじゃ、下噛まないように口閉じて!」

見慣れない風景へと変わるのは、一瞬だった。怒声や悲鳴が飛び交っていた。それはもう、嵐のように。戦場など見たことがないグロ耐性のない俺は、それを見た瞬間、吐き気が襲ってきた。

両軍がぶつかり合ってできた死体を踏み潰し、原型をとどめてない死体が山ほどあった。体に何本も何本も弓を射られても、倒れぬ者がいた。そして、あたりの地面がそれらの惨劇を物語っており、本来、茶や緑であるところが、赤黒く染まっていた。

「これは、やばいな…。」

他の3人は見慣れているのか、動じる様子がない。そして俺もなぜか、吐き気はあったものの、恐怖心はなかった。

「マズイな。この様子じゃあと30分もあれば、国境は突破される。なんとかしなければ…。大賢者さん。なんとかできないか?」

「俺かよ。とりあえず、やってみる。」

敵軍の中心地に、目眩がするほど魔力を込め、魔弾を打った。多分、80パーくらい使っただろう。魔弾は、とてつもない速さで線を描き、着弾した瞬間、とんでもない爆発を起こした。そりゃあもう、形も残らないレベルで。

その瞬間に、五万の兵の大体八割、四万くらいの兵士たちが、たった1人の賢者の魔法により、一瞬で灰と化した。







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