のっとぱーふぇくと!!〜異世界転生の特典は呪いでした〜

琉凛猿

一章 一話 死神の呪い

魂には重みがあるらしい。確か、どこかの国で実験した医師がいる。人の死に際に立ち、生きている時と、死後の体重の変化を計測したらしい。
6人の患者と15匹の犬を対象とし行った実験なのだが、たしか最初の患者が、21g減ったのだという。
これには諸説入り乱れるが、科学的ではないし、正確さが証明されておらず、後に発汗によるものだと別の医師が言い、その説が濃厚である。

だが俺は、自分自身の体から何か大事なものが抜けて行くという喪失感を味わった気がする。あれが「魂」というものであるかは確証はないのだが、何か形あるものが自分の体から離れて、他の何かへと誘われていったところを見た気がするのだ。

「思ったより楽に死ねたなぁ。」

そう口にした。ん?待てよ?なんで喋れているんだ?
ていうか、ここどこだ?
見渡す限り、終わりの感じられないような広い草原と、耳元をヒュンッと通り過ぎる風が気持ちがいい。だが、今、何故、どこに立たされているのかわからず、呆然としてしまう。

「天国に来ちまったかな、こりゃ。」

そう呟き、今までの人生を振り返って見ても、天国に行けるような行いはしていないと思った。
身を呈して他人を守ったこともないし、電車やバスなどでも席を譲ったりもしない。高校に行かなくなったのも、いじめや成績の不振などが理由ではなく、ただ1人が嫌だったからで、誰が悪いと言われれば、十中八九俺だと、自分でも思う。

地獄なのか?とも思ったが、こんな人の心を安らかにするような景色から地獄であるはずがないと思った。いや、正確には思いたかった。これについては、思い当たる節がいくつもあったのだ。
俺は孤独が怖い。だいたい、家で一人で居られたのも、ネトゲで知り合ったやつらと、毎日毎日ゲームをして過ごしていたからなのだ。だから、この状況を1秒でも早く、なんとかしたかった。

正直、考えれば考えるほど、どんどん訳が分からなくなり、怖くなっていったので、頭より体を動かすことにした。要するに、行き先もわからない中、ただひたすら走ったのである。呼吸が苦しくなるまで走り続け、ちょっと休み、なお走り続けた。

…そこで、一軒の小屋を見つけた。
なぜだか、そこには近寄ってはいけないような感じがした。
「行くしかないよなぁ、ずっと走ってたってキリないし。」
正直、怖いもの見たさという部分もある。だが一番大きいのは、誰かに会いたい、ここがどこなのか知りたい、安心したい、という気持ちだった。

「すいませーん、だれかいますかー?」
返事が返ってくるという期待はせず、とりあえず呼び声をかけてみた。
待つこと十数秒。ドアが開き、男の老人が顔を出したのである。

「お前はだれだ?どこから来た?」

と、怪訝そうな顔で訪ねてきた。人に会えた喜びや安心感が溢れ出して、顔に出ようとするのを抑え、返答する。

「千堂 紫苑です。よくわからないのですが、目覚めると草原で寝てました。」

と、流石に、親から仕送りを止められ、自殺しようと飛び降りて、目が覚めたらここにいて、とか言うのも嫌だったので、自粛した。

「センドウ シオン?珍しい名前じゃな。ここが何処か、わかっているのかね?」

なぜか老人も嬉しそうだと思ったが、多分気のせいだ。珍しくはないと思うのだが…

「まったくわかりません。どこなのですか?」

「ここは死の世界。そんでもって儂が死神。ハデスじゃ。ここに来るものは大抵、魂のみで来るものしかおらんのじゃが、稀に、深い後悔をし、もう一度人生をやり直したい、という気持ちから、別世界に自分の虚像をつくり、そこに移ろうとするやつがいるのじゃよ。大抵、自分が望むような能力や容姿になっているから、そういう奴には、呪いをかけて送ってやるのが決まりなのじゃよ。」

「は、死の世界?で、あんたが死神?」


思わず声に出してしまった。目の前の老人は、とてもじゃないが悪い人に見えなくて、死神と言われてもピンとこない。何?俺、異世界転生しちゃうの?でも、呪いってなんだ?

「あの〜、呪いって、ちなみにどんなのですか?」

「死ねない呪いじゃよ。老いなどもほとんどなくなる。致命傷を負っても、痛いには痛いのじゃが、再生し、死ぬことはない。」

「それって呪いなんですか?いいことにしか思えませんが…。」

「年を取れば分かることじゃろ。それより、お主、なぜ…。」

そこからいろんな話をした。ハデスはどのくらいここにいるのかとか、普段何をしてるのかとか、他の神々はいるのかとか。勿論、俺の話もしたりした。

ハデスはもう死神となってから、何年経つのか、覚えてないらしい。軽く何十万年は越えてるとは言っていた。相当退屈だとは思うのだが、神にとっては時間というものは、さほど意味を成さないらしい。普段は、他の世界を覗いてみたりだとか、迷い込んだ魂などと念話をしたりしているらしい。

ハデス以外にも、たくさん神はいるらしい。だが、ほとんどの神とは交流がなく、唯一交流があるのは戦いの神アレスだという。なぜ交流があるのかというと、色々あったのじゃと隠すようなのだが、戦いの神と交流があるということは、ハデスはやんちゃしていたのであろうと思った。

そうこうしているうちに…

「さて。もうそろそろ行くのじゃよ。お主みたいな体のある人間との話は、やはり楽しいのう。こっちへ来なさい。呪いを授けるぞ。」


ハデスは俺の手に杖をかざし、呪文を唱えた。
手の平に何か紋章がつけられ、俺が中二感に浸っていたところ、ハデスは寂しそうな顔で、俺にこう言った。

「ドアを開けば、その先は人間界につながっておる。儂に本当に会いたいと思えば、すぐ会うことができるから、何か困ったらくるがいいじゃろう。気をつけてな。」

多分、ハデスも寂しいのだろう。
それが、手に取るようにわかった。
定期的に会いに来てあげよう。そう心に決め、ハデスに別れを告げた。

「意外といい人だったなぁ。」

そう呟き、ドアを開けた瞬間、目の前が真っ暗になり、意識が飛んだ。



その後…

「あの小僧、とんでもない魔力量じゃ。下手すれば神々を超えるじゃろう…。 あれほどの魔力量は、一万年ばかり前に見たあの娘が最後だと思っておったのじゃが…。」

誰もいない広い草原で佇む老人の背中には寂しさが残る。

  

意外と描くのに時間がかかりました。
次回から本格的に異世界ファンタジーです!
どうぞよろしくお願いします。







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