勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

洗脳

 ソラ達に食事をおごった後、水野静香は再び警備の仕事に戻る。
 先日、商店街が何者かに襲撃され人々が気絶した件があった為、その調査を含めての警備活動だ。
 正直シズカはそんな事どうでも良いし眠たいから寝てたいと思っているのだが、
 勇者として良い待遇を受けているのだから多少嫌な事でも従わなければならない。

 まだ魔王リリに襲われた時の恐怖感を克服した訳では無いが、
 死んでいった人達の事を考えると何時までも止まっては居られない。
 そう思い勇者三人は前に進むことを選んだのだ。

「ふぅ」

 本人は知らず、ステータス表示にも表れていない為、
 魔眼を使用したソラ以外は知らないシズカのスキルである眠たいネムタイの影響で
 大して働いても居ないのだが、目がしょぼしょぼとする為、建物の壁を背に休憩をする。

「大丈夫ですか?シズカ様」

 警備をしていた国の兵士がシズカにそう声を掛けた。

「ん、ああ、ちょっと人混みに疲れたみたい」

 眠気の原因とは全く関係ないのだが眠たいネムタイの存在を知らない為、
 慣れていない所為にしてしまう。真の勇者ならばレベルが上がれば
 そのうちソラの魔眼同様に自分の隠しステータスを見れるようになるのだが、
 まだその域に達するにはレベルが足りない。

「そうでしたか、なら後は我々に任せてシズカ様は休んでいてください」

「助かる。ありがとう」

 後の事を任せてその場を去るのだが、決して寝る為に何処かに行くのではない。
 彼女の向かった先にはまだ警備をしている二人の真の勇者が居た。

「ん、シズカさんどうしたのですか?」

「誠、竜之介、ちょっと付き合って欲しい事があるの」

 彼女が二人に付き合って欲しいと言うのは先ほど
 ソラに言われた状態異常耐性のスキルを取ると言う事だ。
 あんな子供の言う事普通なら簡単には信じないだろう、
 だが、彼女たちは一度ソラとポチによって救われ、
 その際にまるで時でも止まったかのような体験をしており、
 あの二人が只者では無い事は理解しているのだ。

 だから、今回ソラが言っていた事も恐らく正しいのだと。
 そう判断した彼女は二人を誘う。

「構わないよ。誠はどうする?」

「俺も行くよ。警備抜け出せるならね」

「わかった。じゃあ俺が言って来るよ」

 そう言ってタツノスケは兵士たちの下へ行き、上手い事、事情を説明すると見事に許可が下りた。
 それからシズカは二人に目的を話して商店街の人々に聞きながら目的地へと到着した。
 様々な本が売られている出店だ。

「すいません、状態異常耐性を覚えたいのですが」

「はいよ、状態異常耐性ね……あったあった」

 店員は本の山から迷うことなく状態異常耐性の本を取り出した。
 ちなみに本と言うのはスキルの書と呼ばれており、そこに書いてある文字を唱えれば
 簡単にスキルが覚えられると言うものだ。ただしとても高い。

「ありがとうございます。それを三冊お願いできますか?」

「はいよ。流石は勇者様だ。お金あるんですなぁ」

 三冊も買うお金があれば数年は遊んで暮らせる程だ。
 それを何の迷いも無しに買う勇者達。相当お金をもらっているのだろう。

「はい、丁度ね。使い方はわかるかい?」

「読むだけじゃないの?」

「基本的にはそうだよ。だけどね、スキルの書と言うのは呼び名を決めれるのさ」

 呼び名、それはシズカで言うなら眠たいをネムタイと言う感じだ。
 ちなみに、状態異常耐性はスキルを取得した瞬間から効果が発動するのだが、
 呼び名を叫びスキルを使うと、一時的に効果が倍になるのだ。

「なるほど、ありがとうございます」

「頑張って魔王を倒してくれよ~」

 三人は場所を変えて早速スキルの書を読み、呼び名を決める。

「僕は普通に状態異常耐性で良いかな」

「俺はまだ考えてるぞ」

「私は魔王を倒すのは私だ!にしようかな」

「なんだそれ?」

 シズカは先ほどソラが言っていたおまじないの言葉を呼び名に設定した。
 何か形として残しておかないと忘れてしまうそうだからだ。

「おまじない」

「変なの。ん~俺はどうしようか……」

 そんなこんなで全員が状態場耐性を取得し、明日の神との面会に備えるのであった。

 翌朝、三人の勇者たちは神との面会がある為王座の間に訪れていた。
 何時もなら王や兵士たちが居るのだが、今日は誰も居ない。
 事前に誰もつけないと言う事は伝えられている為、
 三人は大して疑問に思う事なくその場で神とやらを待つ。

 待つこと数十分、突然王座に神々しい光が天から降り注いだ。
 王座の間全体を照らすその光を見た三人は遂に神が来たのだと認識する。
 同時に途轍もない存在感が出現し思わず身構えてしまう。

「――」

『やぁ、勇者達。君たちと会える時を待っていたよ』

 神々しい光の中から現れたのは白い翼を生やした青髪の少年だった。
 そう――ソラが知る憎きショタ神だ。だが。身長は170㎝程に伸びてショタとは呼べなくなっていた。
 顔つきも凛としており見た目だけならば途轍もないイケメンだ。

『まぁ、別に話がしたいとかは思ってもいないんだけどね』

「「「――!?」」」

 突然、三人を神の理不尽な力が襲う。
 途轍もない力に押しつぶされ強制的に地面に頭を付けさせられる。
 声を出そうにも叶わず呼吸をするのがやっとの状況だ。
 一体何が何なのか何故神に攻撃されているのか理解できない三人は必死に状況を整理する。

『そんなに睨まないでくれよ。直ぐに楽になるから我慢してくれ』

 床に降り立った神はゆっくりと三人に近付き、掌を向けた。

『君たちの目的は魔王討伐だ。そして我々の駒となる存在だ。
 駒には意思など必要ない。我々の指示通りに戦い続けろ』

「――」

 神の掌から魔法陣が現れ、同時に三人の頭部に魔法陣が現れ収縮していく。
 激痛を最後に三人の意識は途絶えた――

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