勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

いざ、迷宮へ

「お?おぉ!!」

 試験を終えた後、水の都から出て一目の付かないところで転移を使い、ルネガ王国の近くに移動していた。
 周り全体が壁に覆われている王国だ。懐かしい風景なのだが、どこの国も大体大きな壁があると言う印象の為、なんとも言えない感じだ。
 門兵にギルドカードを提示して門の中へ進む。

「どうですか?懐かしいですか?」

「ん~まぁ、懐かしいっていえばそんな感じもするんだが、どの国も同じような感じだからぁ、
 水の都みたいに特色があれば良いだけどこうも壁があって人が沢山いてって感じじゃなぁ……」

「まぁ、それもそうですよね。ささ、早く冒険者ギルドに向かいましょうか」

 人混みを避ける道を通って冒険者ギルドに向かう。数年ぶりだがしっかりと覚えている様だ。
 足が自然と目的地へと進んでいく。石煉瓦造りの二階建ての建物。
 そして入り口にはようこそ!と可愛らしい文字で書いてある。

「此処は何も変わっていないんだな」

「ええ、あの時から何も変わってませんよ。どうです?ここなら懐かしいと感じるでしょ?」

「ああ、そうだな。此処は懐かしく感じるよ」

 そんなやり取りをしているなか、後ろにいるポチの視線が殺気を持ち人を殺す勢いで突き刺さってきた。
 少し考えてみればわかることだが、先ほどからの会話は俺とスラ二人だけの世界に入り込んだ会話だ。
 ポチが居るのにも関わらずこの会話をするのは少し酷いものだ。

「ポチよ、此処は俺が始めて訪れた冒険者ギルドだ。どうだ?」

「ふん、そうか、随分とちっぽけな建物だな。手が滑って壁を殴ってしまっただけで崩壊してしまうそうではなか」

「……やめろよ?絶対やめるんだぞ?」

 ポチに話を振ってみるが冗談に聞こえない冗談が聞こえてしまい思わず本気で止めに入ってしまう。
 ピキついている今のポチならば本気で、手が滑った。とか言って壁からすべてを破壊してしまいそうだ。
 この冒険者ギルドには結構世話になったし、今も尚すらが世話になっている為、迷惑になる行為は絶対にダメだ。
 注意を受けたポチはそれを鼻で笑い飛ばし視線をずらす。

「では、行きましょうか。私は奥で報告等を済ませてきますので、酒場で待っていてくれると嬉しいです」

「ああ、分かったよ。ジュースでも飲んで待っているさ」

 懐かしの建物へ足を踏み入れる。
 スラがカウンターの奥に向かっていくのを確認してから周囲を見渡す。
 ふと、始めて此処にやってきた時と似ている光景が目に入り、懐かしい気分に浸る。
 わいわいと騒ぎながら酒場で酒を飲んでいる若者達。どこから迷い込んだのか泣いている幼い少女。
 ガラの悪そうなお兄さんがその幼い少女に近付いて、
 先ほどの怖い顔とは比べ物にならないほどの笑みを浮かべ、幼い少女と話をする。

「あっ」

 視線をカウンターに戻すとそこには見覚えのある容姿の受付嬢がいた。
 褐色で腰まで届いてあるだろう長く鮮やかな黒髪、優しげな目をしており、
 そして何といっても耳が尖っているのだ。
 闇精霊人ダークエルフのリーザ = キャンベルという者だ。最初に世話になった受付嬢だ。
 相変わらず仕事熱心だ。何も変わっていなくて何だか安心する。

 ポチと共に酒場に向かい、カウンター席に座って適当なジュースを注文する。
 
「なぁ、ポチさんやい」

「なんだ?」

 互いにジュースを口にしながら会話を始める。
 
「これから行く場所は未知だ。最初は余裕かもしれないが深くなればなるほど敵は強く、
 罠は極悪なモノになっていくだろう。間違いなく一度や二度は死ぬことになるだろうな」

 あくまで予想だが、かなり下層になると流石に俺とポチでも一度や二度死ぬことになる。
 死ぬと言っても死なないのだが。そんな小さいことは置いておこう。
 即死の罠や理不尽な魔物の配置。強化された魔物。序盤ですら耳を疑いたくなるほどの魔物が出現しているという情報がある。
 下層に行くにつれそれはもっと凶悪なモノになっていくのは当然のことだ。

「そうか、そんなこと関係のない事だろ?強敵と戦えるのならばそれだけで良い。
 我とソラは死なないのだ。必ずその迷宮とやらを攻略して見せよう」

「そうだな、まぁ、俺とポチ良いとしてもスラは俺たちの様に死なない訳じゃない。
 ポチも見たからわかるとは思うが強さは保証する。だけど命はしっかりと存在している。
 だから俺とポチの仕事は彼女を守りつつ迷宮を攻略することだ。
 まぁ、かなり下に行くまではそんなこと気にしないで戦っていられるだろうがな」

 スラはかなり強くなっているが、それでも命は限りある存在なのだ。
 俺とポチはエキサラの力によって特殊な命が宿っているが、、彼女は違う。普通の命しかないのだ。
 やっと再会したと言うのに迷宮を攻略した時には欠けているなんてことは許さない。
 そのことを伝えるとポチは一瞬すごく嫌な顔をしたが、一気にジュースを飲み干した後、
 力強くコップを置き、口を開く。 

「あの女の事は気に食わないが、奴の強さと仲間であることは認める。
 仲間である以上は死なせるわけいかないな。気が向いたらだが、守ってやる」

「ふっ、ありがとな」

 何だかんだ言ってスラの事を仲間意識して認めている様で安心だ。
 此方もジュースを飲み干した時にスラが奥から戻ってきて此方にやってきた。
 酒場にいた冒険者たちがスラの姿に気が付いて声を掛けている。
 それを何時も通りに笑顔で流していく。知らない間に人気者になったものだ。

「お待たせしました。無事休暇を取ることが出来ました」

「そうか、それは良かったな。では早速だが、行くとするか」

「あっ、でもその前に依頼を受けておきませんか?どうせなら依頼を受けて攻略しちゃった方が得ですよ」

「それもそうだな、では受けていくとするか」

 依頼の手続きを済ませてからネルガ王国を後にする。
 依頼を受ける際に受付嬢からも周りの冒険者からも無謀だと言われていたが無視安定だ。
 特にスラに関しては周りからの人気も、受付嬢たちからの人気も凄いモノで必死に止められていた。
 特にリーザは『ソラさんはそんなことを望んでいません!』と、俺の名前を出して止めていた。
 俺の事を覚えてくれていたことに関して驚き感動もしたが、残念ながらソラさんはそんなことを望んでいるのだ。

「なぁ、迷宮の場所ってどこにあるんだ?」

「此処からヘルノリア王国を目指してそこから草原を進んで森の中へ進んだところにありますよ。
 私たちが昔通ったことのある場所ですね。転移を使って移動することも可能ですよ」

「そうだな……」

 一瞬歩いてゆっくりとでも行こうと思ったのだが、ふとポチに視線をずらしてみると
 体をうずうずとさせており今すぐにでも戦いたいと口にはださないが体は正直だった。
 
「転移で行くか。取り敢えずヘルノリア王国の草原の先に転移する。そこからは歩きだ」

「うむ、早くするのだ」

「はいよ」

 一度行った場所ならば転移することは可能だ。一瞬にして森の目の前に移動する。
 森中へ足を踏み入れる。魔物の気配を多く感じるがポチが先ほどから殺気を垂れ流しにしているお陰で
 こちらに敵意を向けてくる魔物はいない。スムーズに森の中を進んでいく。

「これか……随分と普通だな」

「ええ、普通ですね」

「止まれ、ここから先は――ってスラさんではないですか!?」

 目の前に広がるのは巨木に穴が開いている形の迷宮だ。森になじんでいてとても良い感じだが、
 なんだが見た目が普通過ぎて少しがっかりだ。その迷宮の周りには複数の兵士が立っている。
 頻繁に魔物が襲ってくるのだろう、彼らの武器には血がべっとりと付いている。
 それもまだ滴る新鮮なものだ。
 
 それでも彼らは与えられた仕事をしっかりとこなす。
 こちらに向かって来たのだが、スラの顔はかなり広いモノらしく兵士たちにも知られている様だ。

「はい、そうですよ。今日は依頼を受けてこの迷宮の中に入らせていただきます。
 一応ギルドカードを提示しますね。この方たちは私のパーティです。実力は私以上です」

「Sランク……確認しましたけど……本気ですかスラさん。この迷宮は――」

「ええ、分かっていますよ。受付嬢で、Sランクなのですからそこのところはしっかりと理解してますよ」

「そ、そうですか……無理はしないでくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 スラが全てやり取りを済ませてくれたお陰ですんなりと迷宮の中に入り込むことが出来た。

「さてさて、さくっと攻略しますか!」

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く