勇者になれなかった俺は異世界で
恐怖体験
「ああ……助かった。ありがとう」
ヘリムに抱きかかえられたまま商店街を歩く。
今回ばかりは本当にヘリムの助けが来なければ危うい所だった。
初めて覗かれていてよかったと思った瞬間だ。
見知らぬ人物に襲われ、汚されるという未知の恐怖を感じていた俺にとって
ヘリムが現れたあの瞬間は本当に神々しくまさに救世主と言った感じだった。
何時もならヘリムに抱っこされると嫌がるのだが、
今回は先ほどの恐怖体験もあり、ヘリムに触れていると自然と落ち着くのだ。
傍から見ても小さな少年がお姉ちゃんに抱っこされているという別に不思議な光景ではないだろう。
出来ればもうしばらくはこうしていたい。
「ふふ、ソラ君何か食べるかい?」
「いや、今はそういう気分になれない……ごめん」
先ほど串を食べたというのもあるが、流石に今の状態では何も食べたいとは思わない。
物凄く弱気になってしまっている俺を慰める様にヘリムは頭を撫で始める。
物凄く子供っぽい扱いをされているが、これが物凄く落ち着くのである。
「ソラ君は可愛いなぁ。今日は家で大人しくしてようか」
「……うん」
人目のない場所まで移動して城へ転移した。
城の中に入るとエキサラが腕を組み待ち構えていた。
何やら文句を言ってきそうな雰囲気だが――
「む?何かあったようじゃのう。
ヘリムが突然消えたから驚いたのじゃが、そういうことだったのかのう」
俺の事を抱っこしているヘリムを見てご主人様がそう言った。
俺はしっかりと昨日のうちにアルデンに行くと伝えてある為、
姿が見えなくても何の問題も無かったが、どうやらヘリムが俺の事を助ける際に、
転移を使い、エキサラの前から突然消えた事に対して少し不満があったようだが、
状況を一瞬で判断して不満を口にすることはなかった。
「あははは、何も言わなくてごめんね~
ちょっとソラ君がピンチだったからさ、
居ても立っても居られなくなっちゃって」
「うむ、何があったんじゃ?」
「えっとね――」
ヘリムはエキサラに俺が置かれていた危機的状況を詳しく説明してくれた。
それを聞いたご主人様は神ビィチアに激しい憤りを覚え、
今にも飛び出していきそうな勢いだったが、手を強く握り拳を作り必死に抑えていた。
「なんて奴じゃ!許せんのう!」
「そうだよねぇ、許せないよねぇ……あ、勝手に消えたお詫びとしてソラ君貸してあげる」
「お、良いのう良いのう!!」
俺の意思は関係なしに勝手にヘリムへと渡されてしまった。
小さな身体だがそれでも十分暖かく落ち着く。
「ほうほう、これは良いのう。
出来ればずっとこの状態が良いのじゃ」
「そうだね~」
「ソラよ災難じゃったのう、今度から何処か行くときは必ず妾達と行くのじゃ」
「……ああ」
今回の件で本当にそうしたいと思った。
もうあの神ビィチアが襲ってくることはないのだろうが、
ああいった輩がまだいるかも知れない。
次もまたヘリムが助けてくれるという保証は無い。
またあんな恐ろしい体験をするぐらいのならば
ヘリムたちについて来てもらった方が百倍マシだ。
「うむ、今日は休むが良いのじゃ」
ヘリムとエキサラに連れられ寝室に向かい、優しくベットに寝かされた。
戦争が近いのにも関わらずこんな事をしていても良いのだろうかと疑問に思うが、
流石に今の状況では訓練どころでは無い。
俺は大人しく目を瞑り、恐怖体験を忘れ去ろうとした。
ヘリム達が寝室から姿を消し暫くしてからポチが寝室にやってくると、
事情を聞いたのか何も聞かずにベットに潜り込み
俺の身体を包み込むように添い寝をしてくれた。
エキサラやヘリムの抱擁も落ち着くのだが、
一番落ち着くのはやはりポチのモフモフだった。
俺は自分から更にポチに抱き着き、
モフモフを堪能してさっさと今日の出来事を忘れ去って
明日からは何時も通り、平常運転に戻ろうと決意して意識を闇に落とした。
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