勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

魔眼さん

 闘技大会場が地図から消滅させた張本人たちは
 今日も今日とて優雅にゴロゴロとだらけていた。
 あの大会から一週間が経っているが、特に変わったことは起きず、
 皆いつも通り城の中でだらけている。

 別にそれに関してとやかく言うつもりはないが、
 もう少し神との戦いが近いということに緊張感を持ってほしいものである。
 と言っても俺も大して緊張感を持たずにポチをもふっているのだが……
 あれ、今思ったら俺もみんなと大して変わらないぞ!?

 いかいいかん!

「さて、俺はちょっと特訓してくるかな」

『我も付いていくか?』

「いや、ポチはゴロゴロしてていいよ」

 一瞬もふりながら特訓したらなんて有意義な時間になるのだろうか
 そんな事を思ったが、今回は集中する必要があるため、
 一人ではないと気が散りそうなのだ。
 特にポチのあのモフモフを前にしたら理性を保てる自信がない。

「ちょっと外行ってくる」

「いってらっしゃ~い」

「気を付けるのじゃ~」

 後でねちねち言われそうなのでしっかりとゴロゴロしている
 ヘリムとご主人さまにも外に出る事をつたえておく。
 横になった状態で顔だけこちらに向けてくるのだが、
 意外と可愛くて少しムカついてしまう。

 そんな事を思いながら外に出て、早速特訓を開始する。
 特訓と言っても大した事はしないのだが、
 ポチと戦った時に閃いた事を実践するだけだ。
 この一週間それをする時間はたっぷりあったのだが、
 ゴロゴロとポチのモフモフによって阻害されてしまっていた。

「さて、やるか――魔眼発動ぅ!」

 少しかっこつけながらポーズをした後に
 直ぐに周りの目がないかきょろきょろと確認する。

「よし、みてない!」

 今回魔眼を発動した理由はポチとの戦闘時に
 正確に未来が見えていたのは一秒先のみで正直に言って
 戦闘に使えるものではない。
 あの時はそれ以外にポチとやりあえる方法が思い浮かばなかったが、
 神との戦闘では別の方法、または魔眼を強化する必要がある。

 まぁ、ということなんだけどさ、どうだい?

――はぁ、どうだいと言われましても……これ以上私の能力を引き出すなら
  確実に寿命を削ることになるますよ?

 結構久しぶりだが、魔眼さんとしっかりと会話出来た。
 不思議な力によって土に文字が薄っすらと書かれる。
 正確には土の上に文字が浮いて見えている。

 あれ、俺の体質の事知らないんだっけ?

――いえ、私は常にソラ様と共に居たのである程度の事は知ってますよ。

 少し衝撃的な事実、俺が能力を取り戻す前から
 魔眼さんはずっと俺と共にいてくれたらしい。
 なんだか嬉しい様で恥ずかしい。

 知ってるなら、なんでそんなこと言うんだ?

――少し脅してみて反応を楽しみたかっただけですよ、気にしないでください

 あれ、魔眼さんのキャラってもっと冷静でクールのイメージなんだけど、
 こんな可愛い事言う性格だっけ?

――ソラ様が変わるように、私も変わりますよ。

 んんん、そういうものなのか。

――はい、そういうものです。

 俺が変わったように魔眼さんも変わったらしい。
 俺としては前の堅苦しい感じより今の冗談を言う様な
 性格の方が何倍も良い。

 俺は死なないし寿命なんてないからな、いくらでも強化していいぞ

――簡単に言ってくれますね。本音を言うとすっごく面倒なんですよ?

 おぉ……本音まで言う様になってるぞ!
 これはこれで新鮮でものすごく良い!

 頼むよ、もう少しでエリルスとも会えるんだぞ

――むぅ、そう言われると弱いですね。
  まぁ、今の宿主はソラ様ですから別に会いたいという訳ではないですが、
  たまに会ってみたい気もしますね。

 会いたい訳ではないが会いたいと。
 うん、結局は会いたいということらしい。
 俺も滅茶苦茶会いたい。

――結構ソラ様に苦痛を与えることになります――って、
  痛み感じないんでしたね、すいません。
  では、行きますよ!

「っ」

 一瞬だけ物凄い疲労感に襲われて膝を付いてしまったが、
 その疲労感は本当に一瞬で消えて直ぐに平常運転に戻った。
 何か変わったかと問われれば特に何も変わってないと答えるだろう。

 ……何か変わったか?

――はい、かな~り変わりましたよ。
  はぁ、疲れました、早くポチさんのことをもふもふしてきてください。
  実はあれ、私も結構気に入ってるんですよ。
  こう、こっそりと感覚を共有――おっと、喋りすぎましたね。

 ……なんだかとても残念な風になってきたが、
 そこは気にしないようにしておこう。
 それにしても、感覚を共有とか魔眼さん色々出来るな。

 出来れば詳しく変わった点を教えてほしかったのだが、
 まぁ、明日ポチに手伝ってもらえばわかる事か。

――ええ、そうですね。きっと驚きますよ。
  さぁ、行きましょう!モフモフパラダイス!!

 はいはい

 こんな身近なところに同士がいたとは驚きだ。
 これからはもっとポチの事をモフモフして魔眼さんにも
 十分にポチを堪能してもらうことにしよう。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く