勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

1秒先攻略

『続いての試合は――!!
 謎の仮面奴隷ラソVS仮面のお姉さんチポだ!!
 一回戦目では見た目に反した化け物染みた力を示したこの二人!
 一体何者なんだ――!?』

 やかましいアナウンスと共に俺はステージに入場する。
 一回戦目とは全く異なった歓声が聞こえてくる。
 奴隷だと馬鹿にして力があることが分かれば手のひら返し、
 俺はそういうのが非常に気にくわない。

 そんな事を思いながらステージに行くと既にポチがおり
 仁王立ちして堂々と俺のことを待ち構えていた。
 全くスキル等は発動していないが物凄い圧を感じる。
 後退りそうになるが、堪えてこっそりスキルを発動する。
 先ほど騎乗スキルの所為で作戦がバレてしまったが、
 今更その作戦を変えるつもりわない。

 今は騎乗を解除しているがどうせどのような作戦を組んでも
 ポチにとっては些細な事でしかなく直ぐに対策されてしまうだろう。
 何時もは流石ポチだと言いたいところだが、今に限っては
 ふざけるなポチ。と叫んでやりたい。

「へっへへ、この瞬間を待っていたぞ!」

 ステージに立つと何故だかポチが悪役の小物臭がする様なセリフを吐いてきた。
 へっへへってお前……。

「おう」

「なんだ、冷めた反応だな」

「今は戦いに集中したいからな」

 ポチと話していると彼方のペースに持っていかれてしまい
 戦いに集中できなさそうな為、出来るだけ会話をしないようにしているのだ。

「そうか……なら我も集中だ」

『試合開始――!!』

「いくぞ――っ!!」

 先手必勝!なんて事は無いが、開始と同時にポチに重力操作と殺気を使う。
 ガクンとポチと体が若干地面に押されるのを確認し――爆発をお見舞いしてやる。
 ドッカーンッ!と激しい音と衝撃を放ち巨大な爆発を起こす。
 更に光創で具現化した武器を――

「っ……」

 俺は具現化した武器を投げるのをやめて手で握りしめた。
 魔眼で未来が見えてしまっていたのだ。
 全力で撃ち込んだスキルや魔法をすべて避けることは無く、
 全て受けたポチだったが、傷一つ付いていない未来を。

「なんだ、やめてしまうのか?」

 煙の中から姿を現したポチが魔眼で未来を見た通り
 全く攻撃が聞いておらず仁王立ちのまま立っていたのだ。
 それも一歩も動かずに。

「辛いなぁ」

「ふっ、では行くぞ!」

 ポチの姿が視界から消え去った。
 急いで目に集中して未来を読み取る。

「――っ!」

 読み取った未来は全方向からの攻撃。
 一発でも当たれば即死の未来だ。

 くそっ!初っ端から本気すぎだろ!
 完全防御を使うか?いや、それだと一発しか耐えられない。
 こうなったら――

「ふんっ!」

 盾を幾つも作り出し自分を囲むように具現化させた。
 長い間訓練していたかいがあって見事全方向からの攻撃を防いでくれた。
 だが――

「上か!!」

 急いで手にしていた短剣で上からの攻撃を弾く。
 確かに弾いた――が、

「ぐぅ――!?」

 ポチの攻撃は確かに弾いたはずだが、腹部に衝撃が走り
 数メートル吹き飛ばされてしまった。
 魔眼では読み取ることが出来なかった未来。
 今の力ではポチの動きを正確に読み取ることは不可能らしい。

「くそっ……」

 今の出来事でポチとの力の差を嫌でも実感してしまう。
 力の差があることは分かり切っていたことだが、
 魔眼の未来予知が使えないのは非常に不味い。

「まだまだ行くぞ?」

 ポチの背後に何重にも重なった魔法陣が形成される。
 明らかに非常に危険な攻撃が来ることがわかる。
 俺は急いで未来予知を使用する。
 正確には読み取る事は出来ないが多少は読み取れる為、
 使用しないよりは使っていた方が良い。

 魔法陣から放たれるのは巨大な砂時計だ。
 そしてそれが宙に浮きグルりと回転し砂が落ち始める――
 取り敢えず即効性のある攻撃ではない事に一安心。

「先に言っておくぞソラ。
 この砂が落ち切った時、それが我とソラの負けを意味する
 どうせ殺し合ったところで決着は着かない。
 だったら制限時間を設けてその時間内で思う存分戦った方が気持ちが良いだろ?」

 ポチがとんでもない魔法を発動させていた事が本人の口から暴露された。
 確かに互いに死ぬことは無い為、どれだけやりやっても決着は着かない。
 そんな曖昧な戦いよりもポチの言う通り時間制限を設けて戦い、
 勝敗関係無く思う存分戦った方が気持ちが良い。
 だが――

「ポチよ、場外と言う勝ち方もあるんだぞ?」

「ふっ、互いにそれをするとでも思っているのか?」

 少し想像すればわかる事だが、
 例えばポチが場外が出たとしてもすいすい~と泳ぐようにして帰ってきて
 地面に足が付くことは一生ないだろう。
 ちなみに、俺の場合でも転移を使って帰ってくるだろう。

「まぁ、そうだな」

「じゃあ、制限時間内、思う存分戦おうではないか!」

「ああ」

 常時魔眼で未来予知をしつつ俺は行動に出る。
 作戦と呼べる作戦は無いのだが、思う存分戦うには
 頭を空っぽにしてやった方が上手くいくことが多い。
 短剣を力強く握りしめてポチ目がけて飛び出す。

 身体強化で最大限まで強化された俺は風の如くポチの懐に飛び込み
 短剣で切り裂く――それをポチに避けられる事は知っている為、
 短剣を逆手で持ち直ぐに自分の真後ろに突き刺す。

「おぉ、やるな」

 肉を刺した感触を確認しすぐさま距離を取る。
 ポチの事を見ると腹部にしっかりと血が付いていた。
 この方法ならいけるかもしれないと俺は頬の端を上げてニヤリと笑う。
 今ので確信した。

 一秒先の未来は確実だ。
 ならば3秒先まで見るより1秒先の未来を見て行動した方が良い。
 名付けて1秒先攻略だっ!

 再びポチに向かって飛び出し、攻撃をして
 避ける先に重力操作を使いポチを地面に押しつぶす。

「!?」

 流石のポチも予想外の出来事には弱いらしく、
 最初の様に顔色一つ変えないで立っているなんて事は無く、
 しっかりと地面に倒れこんでくれた。
 これなら戦えるぞ!!

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