勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ポチの抱き枕

 痴女神から逃げるようにしてポチがいる部屋にやって来た。
 先ほど訪れてからあまり時間が経っていないが、
 貞操の危機が迫っていた為、仕方がない事だ。
 きっとポチも事情を知ったら許してくれるだろう

「と言うわけなんだ」

『そうか、そんなことより此方にこい』

「んー?」

  部屋にはいると擬人化ポチではなく、もふもふポチがいた。
 近くには出来上がったのであろう執事服が畳まれており、
 早く着てみたいと言う衝動にかられながらも呼ばれた通りに
 ポチの目の前まで移動した。

『我の腕を枕にして良いから横になるんだ』

「え!やった!」

 もふもふ枕に頭を押し付け幸せな気分になる。
 すりすりと擦り付けているとポチが俺の体を抱き抱えるように
 手足を絡めてきた。
 暑さは一切感じず全身がもふもふに包まれそこはもう、
 天国、楽園そのものだった。

「どうしたんだポチ?」

 全然嫌なことではなく寧ろ物凄く嬉しい行動なのだが、
 ポチの急な行動に疑問を浮かべる。
 何時もは俺がポチを抱く側なのだが今回はその逆だ。
 抱くって言うのはそのままの意味でいやらしい意味ではない。

 『慣れない事をして少し疲れてしまった
 一晩ぐらい体を貸してもらうぞ』

「う、うん。お疲れ様、ありがとね」

『気にするな、ソラの為に何か出来て我は嬉しいんだ』

「そ、そうか……ははは、照れくさいな」

 面と向かってそんな恥ずかしいことを言われ、
 ポチに顔を見せられないほど顔が赤くなってしまった。
 俺も心のなかで思ったりした事はあるが、
 改めて声に出してみると此処まで恥ずかしいのかと
 言葉の重みを思いしる。

「そ、そういえばね、今度アルデンで闘技会みたいなのが
 開かれるらしくて参加することになったんだよね。
 ちなみにポチも参加することになってるけど、問題ないかな?」

 このままだと気まずい雰囲気に呑まれそうだったので
 慌て違う話題に切り替える。

『そうだな、別に問題はない
 一つ聞いても良いか?』

「なに?」

『本気を出しても問題ないか?』

 ポチは冗談でそう質問してきたのだろうか、
 何時も通りの声調で軽く笑い混じりにそう言ってきた。
 ヘリムやエキサラの本気はどれ程のものか大体予想はできるが、
 ポチの本気は全く予想できず未知数だ。

 どうせならこの機会にポチの実力、本気を知るのは
 物凄く良い機会なのではないか。

「勿論だ。俺も本気を出すつもりだ。
 だけど、決してやりすぎるなよ?」

『本当か……ああ!ふふ、それはーー楽しみだな』

 喜んだかと思うと何か閃いたらしく
 意味深な笑いを溢していた。
 実に嫌な予感しかしないがきかないでおくことにした。
 聞いてしまって内容によっては、ポチが本気を出すのを
 阻止しなくてはいけなくなる可能性があるからだ。

『ちなみに、勝ち続ければソラとも戦えるのだろうな?』

「!!」

 詳しいルールは知らないが、勝ち抜き戦の様なものだったら
 ポチの言う通り戦う事が可能だ。
 その可能性があると言うことをすっかり忘れていた。
 ポチの実力を第三者としてみるつもりだったが、
 自分自身がサンドバッグになって実力を確かめることになってしまう。
 勿論ヘリムやエキサラとも戦う可能性があるが、
 未知数のポチと戦う方が何倍も恐ろしい。

『どうした?』

「や、やっぱりさ、手加減しーーんんん!!」

『言わせないぞ』

 ポチのもふもふの手が俺の口へと素早く移動し、
 言葉を遮るように口を塞いできた。
 騎乗を使っていないのだが、ポチには何を言うか分かったようだ。

「んんんん!んーんーんー!」(ふざけるな!はーなーせー!)

『こらこら、あまり暴れるなよ
 疲れていると言っただろう』

「ん、んん……」

 ポチが疲れてしまった原因は此方にあるわけで、
 そう口に出されてしまうと非常に申し訳なくなってしまう。

『そうだ、それで良い。今日はもう寝るぞ』

「ん、んんんん?」(え、このまま?)

『おやすみだ』


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