勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

再びアルデン

 全員が揃いあの長い距離を再び移動するのかと思い
 ポチに乗って待機していたのだが、その必要は無かったらしく、
 エキサラがんじゃんじゃと言って転移の様な魔法を使って
 一瞬でアルデンに到着してしまった。

 そういえばご主人様もテレポート使えるんだったと思い出し
 前回のアルデンから家に戻る時には何故使わなかったのだと
 少し不満に思ったりしたが、そんな事を言い始めたら
 俺やヘリムだって転移を使える訳なので結果皆が悪いという事になってしまうので
 何も言わずに心の奥底にしまっておくことにした。

 アルデンは相変わらずの賑わいで上位序列が戦争を起こそうとしているのが
 嘘のように様々の種族が商品を値切ったり、それを楽しそうに見てたり
 友達同士で話したりと和気藹々としていた。
 実際この中で戦争の事を知っている者は恐らくいないのだろう。

 そんな人混みの中を堂々と歩き始めると、
 あら、不思議、一瞬で静まり返り恐ろしい者を見た様な顔をして
 人が勝手に左右により道が開けて行くではありませんか。
 一体なぜ?その答えは物凄く簡単である。

 やらかしたなポチ。

『知らん』

 まさかいきなり転移でアルデンに行くものだとは思ってもみなかった為、
 いつも通りのモフモフ状態のポチのままで来てしまったのだ。
 巨大な獣が街中を歩いていれば恐れ道を開けてしまうのだろう。
 楽しんでた人や買い物をしていた人には悪い気もするが、
 人に揉まれなくて済むのでこのままでも良い気がする。

 どうしたいポチ?

『この場で人の姿になれる訳ないだろ
 余計に怖がられて此処にいられなくなるぞ』

 確かに、行き成り大きな獣の体が内部からボコボコと動き出して
 人間の姿になっていまえばトラウマ確定だろう。
 正直に言ってあの光景は中々グロテスクなものだ。
 こう、なんと表現したら良いのだろうか、
 体の中で寄生虫が暴れている……兎に角グロイ。

『おい、全部聞こえるという事を忘れるよ』

 あはは、すまんすまん。

「ん~どこが良いかな」

「ん、あそこなんてどうじゃ?」

 俺とは全く違いエキサラ達は全く周りの様子を気にして無く
 何処で下着を買おうかと迷っている様だ。
 男の俺にとっては下着なんて何でも良いと思っているので、
 一体何を迷っているのか良く分からない。

『我も分からないぞ』

「おぉ、良いね、此処にしようか!」

「うむ!」

 何が楽しいのか二人でニコニコしながら店を選んでいる。
 遂に下着だけで笑えるようなヘリムになってくれて俺は嬉しいよ。

『変態みたいなこと言うな』

 ……そんなつもりはないからな。

「ほれ、ソラも来るのじゃ!」

「おいでおいで!」

 何時の間にかに店の中に入って
 此方に振り返り俺の事を呼んで来る二人。
 だが、俺の考えが分かっているポチは店の中に入ろうとはしない。

「そこは男が行くようなところではない
 俺達は例の作戦を伝えにいってくるから、
 その間に二人で買い物を楽しんでいてくれ」

「ぶ~けち~」

「気を付けるのじゃぞ」

 エキサラ達と別れて俺達は少し道を外れ人気の無い場所へ移動する。
 先程からポチが人の姿になりたいなと少し思っていた為
 擬人化出来る場所までやってきたのだ。

『要らぬ気を回しよって』

 そんな事を言いながらポチが擬人化を始め
 内部から何かがボコボコと暴れだした――俺が乗っている状態のままで

「ちょ、これ大丈夫なのか?」

 掌で感じていたモフモフ感の中に
 ボコボコが混ざり物凄く不安になり思わず口にする。

『問題ない――』

「うおぃ――……」

「どうだ?問題ないだろ?」

 俺は大人の姿に擬人化したポチに負ぶさる形になっていた。
 ポチの背中に居る事は変わりは無いのだが、
 何だか容姿が変わっただけで結構恥ずかしく感じる。

「降ろしてくれ」

「何でだ?」

 魔力で繋がっている為俺の考えがダダ漏れになっており、
 ポチは意地悪そうな笑みを浮かべながら
 再び人混みの中に入り込んだ。
 獣姿のポチが消えた為か先程の静けさが嘘のように賑わっていた。

 そんな人混みの中をポチに負ぶられながら進み
 誰も此方を注目していないのだろうが、
 周りの目がどうしても気になり恥ずかしくなる。

 ポチ覚えてろよ!

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