勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

 扉を開けまず目に飛び込んできたのは
 立派な鎧を身に纏った人獣が口を開けて
 此方を呆けた面で見て来ている姿で、その次に
 血が溢れ出て見ているだけでも痛々しい右腕を
 苦痛に顔を歪めながらも押さえ此方を見て来ている妖精族の女。

 もう一人の妖精族は短剣を構え此方を見ているが
 呆けた面からは戦意感じられない。
 そして、人形の様な妖精族の少女。

 俺は現状を一瞬でそれとなく把握した。
 立派な鎧を身に纏っているのが人獣の王で
 妖精族の三人の内一番綺麗な衣装を身に纏っている
 人形の様な少女が妖精族の王なのだろうと。

「目的の二人が揃ってるとは有難いな。
 ん……あれ、どっかで……」

 ポチの足元に骸骨さん達が倒したのであろう
 人獣の無残な死体から大量の鮮血が流れて来ているが、
 そんな事は気にせずに俺はそんな事を思った。

『我とソラが出会った日に逃した獲物の事か?』

「ああ、そうだった!
 ポチって意外とそういうの覚えてるんだな」

 あの少女がまさかの妖精族の王という事にも驚いたが、
 それ以上にも人間は勿論他種族事など餌としか思っていないポチが、
 彼女の事を覚えていたと言う方が驚いたかもしれない。

『当たり前だろ。あの獲物を逃がしたお陰でソラと出会えたのだからな』

「なんか照れるな」

 物は言いようなのかもしれないが、
 確かにあの少女のお陰でポチと出会えたのは事実だ。

「貴様、何者ですか?
 さっきからブツブツと一人で、狂人ですか?」

 ポチの声が聞こえていない相手からすれば
 確かに俺は狂人なのかもしれない。
 見た目も幼くしかも獣の上に乗っている、
 よく考えてみれば確かに普通ではない。

「一応聞くけどさ、人獣の王と妖精族の王で間違いないかな?」

「はぁ、そうですが?」

「ど、どうして貴方が……」

 どうやら妖精族の王も俺の事を思い出したらしく、
 目を見開きそんな事を呟いた。
 再会を喜びたいところだが、
 生憎そんな暇はないのだ。

「イシア達、妖精族の事は取り敢えず任せる。
 治療でもしてやってくれ」

 俺はドバドバと鮮血を流している妖精族を横目で見て
 このままでは不味いなと素人の勘と言う奴だが、そう思い
 後ろで待機していたイシアにそういった。
 妖精族の事は妖精族である二人の方が詳しい。

「「「イシア?!」」」

 今まで後ろに居た為、姿が見えていなかったのだろう。
 指示通りにイシアが動き出し前まで来ると
 その姿を確認した妖精族たちは口をそろえてイシアの名前を呼んだ。

「詳しい話は後で、取り敢えず今は大人しくしてて欲しいのよ」

 三人共イシアにどういう状況なのか聞きたい
 そんな様な表情を浮かべていたのだがイシアの緊迫した感情が伝わったのだろう、
 言葉を飲み込んで無言で頷いた。

 流石は……なんとか直属のイシアだ。
 中々の信頼がなければかなわない光景だ。

「ちょっと勝手に困りますよ、お前達やってしまいなさい!」

 イシアが前に出て三人の事を連れて行こうと近づいたが、
 流石にそう簡単にはいかせてもらえずに
 何か策はあるのか冷静な口調で誰かを呼んだ。

「ん?」

 だが、王の声には誰も反応せずに
 只々沈黙の時間だけが過ぎて行った。

『10人の気配が現れたが一瞬で消えたぞ。
 ソラの部下たちは優秀だな』

「ああ、そういう事か。
 骸骨さん達働き者だな、感謝しないと」

 どうやら王が部下を呼んで俺達の事を片付けようと
 していたらしいのだが一瞬で骸骨さん達によって無力化されたらしい。
 休んでいいと言ったのに確りと守ってくれるあたり
 本当に骸骨さん達は良い部下だ。

「……何をしたのですか?」

 流石に策が潰されて余裕がなくなってきたのか
 王の声色に焦りが現れ始めた。

「何って……そうだなぁ、教えてやっても良いけど
 あまり驚くなよ?」

 余裕ぶって居る奴を絶望のどん底に叩きつけるのが一番楽しい。
 そんな感情が俺の中でふつふつと沸き始めて
 この男が絶望する姿を一目見たいと思い薄ら笑みを浮かべてそう言った。

「と、その前にイシア今のうちに後方へ連れて行ってくれ」

「ん」

 人獣の王が完全に此方を警戒している為
 今の内に意識の外に居るイシア達に妖精族の事を
 取り敢えず安全な後方へと移動させる。

「さて、じゃあ種明かしと行こうか
 骸骨さん達悪いけどちょっと姿を見せてくれ」

「「「御身の御心のままに」」」

 何重にも重なった声が聞こえ若干心地よい。
 一回瞬きをすると既にそこには大量の骸骨さん達が
 カタカタと骨を鳴らしながら立ったり跪いたりしていた。
 近くにいる骸骨達は跪いているが離れ王の近くにいる
 骸骨達は警戒を怠らずに何時でも戦えるように構えていた。

「あ、あ……」

 今まで数人しかおらずスカスカだった部屋が
 一瞬にして巨悪な魔物であるスケルトンに埋め尽くされると言う
 明らかに異常で絶望的な光景が広がり
 冷静を装っていた王も言葉が出せずに金魚の様に口をパクパクとさせていた。

「うへぇ~凄いね、こんなに居たんだね」

「うむ、驚きじゃな」

 王とは裏腹に化け物さん達は平然と
 そんな感想を述べていた。
 前方では絶望のオーラが漂い後方ではのほほ~んとした
 穏かなオーラが漂っている。

「な、何なんですか一体?!」

「何だって言われてもな……まぁ、人間かな?」

 正直人間かどうかと問われれば自分でも
 本当に人間なのかと思う時が多々ある。
 そんな訳で疑問形だ。
 そもそも改めて考えてみれば人間ではなく
 アンデットでゾンビなのではないか。

「人間?ふざけるな!貴様の様な人間が居てたまるか!!」

 どうやら完全に化けの皮がはがれた様だ。
 敵意むき出しで怒鳴り散らしてきた。

「まぁ、お前がそう思うなら俺は人間じゃないんだろうな。
 そんな事よりも本題だ――おっと」

 さっさと本題に入ろうと思ったのだが、
 タイミングが良いのか悪いのか、新たな骸骨さんが
 姿を現し跪いて来た。

「報告に参りました」

「早いな、どうだったんだ?」

 どうやら俺が頼んでいたあの子が
 発見されたらしい。
 これが人間ならば表情からして報告を聞かずとも
 残念な報告なのか良い報告なのか大体分かるのだろうが、
 皮膚の無い骸骨からは一切表情が読み取れない。

 新たな骸骨が現れた事で王の表情は一層絶望に染まっていき
 その場から一歩も動けない状況の為、
 ゆっくりと報告が聞けそうだ。

「生きている事は確認できましたが、四肢を切り取られ
 台の上に置かれ完全に道具として使われていました。
 意識はもう完全に別の所に行っていると思われ、
 正常ではないと判断できます。
 一応その場にいた者は全員下半身向きだしの状態で無抵抗だったので
 無力化はしておきました。他にも――」

「もういい!……十分だ」

 骸骨の報告を聞き俺の心はすっかり怒りに染まっていた。
 一度怒鳴り骸骨の報告を止めたお陰で少しは冷静になったが、
 それでも怒りは収まらずに殺気がこみ上げてくる。
 だが、怒りに身を任せたりはせずに殺意を噛み殺し冷静になる。

「済まない、後でそちらに向かうからどうにかしてやってくれ。
 アルデラが作った部下なんだ、それ位余裕だろ?」

「はい、御身の御心のままに」

「お前達もあっちに行ってくれ、
 俺が行く頃には全て解決している様に頼んだぞ」

 かなりの無茶ぶりを言っているが、
 それでも骸骨達は首を横には振る事は無く
 一斉に姿を消した。

「さて、お前には特別にあのスキルを使ってやるよ」

「は?スキル?何をいっている?」

 骸骨が消え再び寂しくなった部屋の中で
 俺は王に対して殺害予告を放った。

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