勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

写真撮影

 俺とポチは人混みの中を泳いで
 ガラクタ屋の様な出店に来ていた。
 他の出店には少なくとも一人や二人客が居たが、
 このガラクタ屋には一人も客がおらず、
 なんの疑いもせずにチャンスだと思いこの出店にしたのだ。

「これなんかどうだ?」

「あー、良いかもな」

 ポチが手に取って見せてきたのは
 シルバーロケットペンダントだった。
 網上の模様が無数に入って多少不気味な気がするが、
 それ以上に何か厨二心がくすぐられてしまう。

「全員分買ってくか」

 何だか自分の分も欲しくなってしまったが、
 この際なので全員でお揃いにしようと思いそう口にした。

「うむ、そうだな。皆でお揃いだ。
 ソラよ手だしてくれ」

「……はい」

 お金を払ってくれるのはポチであって、
 この手を差し出す意味が無い事も知っているが、
 俺は立場からして奢ってもらう位置なので
 仕方なくポチに従い手を差し出した。

 さっきのお釣りはないのだろうか……

「ウゲゲゲガガガゲアゲゲ」

 汚ぇ音と共に綺麗な金貨が一枚手に吐き出された。
 もういっそのこと全部吐き出して財布にでも入れとけよ。
 ちなみに、店員には見えない様にしっかりとしゃがんでいるので問題ない。
 店員に金を渡して商品を買い、早速ポチは自分の首に掛けだした。

「ちなみに、この中に入れる写真ってどうやって撮るかしってるか?」

 俺のポケットに入ってるあのロケットペンダントの中には
 普通に写真が入っていたが今思えばその写真はどうやって
 撮ったものなのだろうか。
 この世界にカメラなんて物があるとは思えない。

「写真なんて撮るのか?あれは色々と面倒だぞ。
 魔法で撮るのではないのか?」

「え、そうなの?魔法で撮れたのか……」

「ああ、確か一部の時空を切り取り永久に固める魔法だった気がする」

「へぇ、そんなのがあるのか」

 一部の時空を切り取るって何か怖いな。
 でもカメラを知らない人に詳しく説明すると
 同じ様な説明になりそうだ。

 俺もロケットペンダントを身に着けてから
 エキサラとヘリムの分をポケットに入れて
 再び人混みの波に呑まれて宿屋へと帰る。
 宿屋の人に初めて会った時とは異なるポチの姿を見て
 物凄く驚いていたがそういう種族だと言ってごり押しといた。

「すっかり大きくなったことを忘れていた」

「だな、今の姿が似合いすぎて俺もすっかり忘れてたぞ」

「……はやくペンダント渡してこい」

「はーいよ」

 今さっきあまりからかわない様にしようと誓ったばかりだが、
 これは決してからかったと言う訳ではなくて
 俺が思っている事を口にしただけである。
 ポチの頬が赤くなって目を逸らす仕草が可愛い。

 そんな事を思いながら俺はエキサラとヘリムが
 泊まっている部屋にノックをする。

「誰じゃ」

 行くとき同様に少し警戒した声が聞こえてきた。
 俺も行くとき同様にその声に応える。

「俺じゃ」

「やっと帰ってきたのかのう、遅いのじゃ」

 何時もの声色に戻り警戒が解けた事を確認した。
 扉が開くとそこには少し頬を膨らませて
 不満気なエキサラがおり、その後ろにニコニコしている
 ヘリムが立っていた。

「ただいま」

「おかえりなのじゃ……その後ろにいるのはポチなのかのう?」

「うん、良く分かったな。
 色々とあってポチには大きくなってもらったんだよ」

 本当は只服を買いに行っただけだったのだが、
 本当に本当に色々な事が起きてしまった。
 まぁ、半分はポチが大きくなったこととは関係ないけど。

「うわぁ、大きくなったねぇ~」

「うむ、服も似合っているのじゃ、可愛いのう」

「ソラ、さっさとあれ渡せ」

 どうやらポチは褒められるのは苦手らしくて
 照れ隠しにそんな事を言い出した。
 何故後ろに居るポチの事が分かるのかって?
 それは、ポチが今俺の服をツンツンと引っ張っているからだ。

「これ、お土産」

「妾にもあるのかのう!!」

「おう」

「うはーい!」

 どうやら先ほどから少し膨れていたのは
 お土産を頼み忘れていたかららしい。
 お土産があると分かった瞬間膨れ顔が
 パァーッと笑顔になった。

「ありがとね~」

「皆でお揃いにしてみたんだ。
 なんかポチから聞いたんだが写真を撮る魔法?
 だれか使えるか?」

 これで誰も使えなかったら
 ポチが言う面倒くさい方法で撮るしかない。

「それなら我が使えるから安心しろ」

「おぉ、流石ポチだな、じゃあ早速撮ろうぜ」

 皆で部屋の中へと入り写真を撮る準備をした。
 並びはヘリム、俺、エキサラ。
 そして俺の後ろにポチだ。
 別に横に並んでも良いと思ったが、

「魔法を使うなら真ん中に居ないと駄目だ」

「じゃあ、変わるか――」

「いいや、駄目だ。そこに居ろ、我がソラの後ろに行く」

 との事で後ろになったのだ。
 まぁ、ポチは俺以外に心を許していないから
 あまり近づきたくないのかもしれない。
 幸いにも俺よりも身長が大きいので隠れる事は無くて、
 意外とバランスもとれている。

「じゃあ、使うぞ」

 ポチがそういうとうわぁ~んと黒くて一つ目の物体が飛び
 俺達から少し離れた正面に行きピカッと光を発し、
 収まると一つ目が分離して皆のロケットペンダントに
 飛び込んで消えて行った。

「終わったぞ」

「本当か?」

 ロケットペンダントの中身を開くと、
 そこには俺達が写っているカラー写真が埋め込まれていた。

「おぉ!凄いな、ありがとなポチ」

「気に入ったのじゃ」

「良いね~大事にするよ」

 二人も気に入った用で嬉しそうにしながら
 ロケットペンダントの中身を見て微笑んでいた。
 そんな二人を見て、ポケットに入っているもう一つの
 ロケットペンダントの持ち主の事を考えてしまった。

 きっとこんな感じだったんだろうな……

「さて、明日は早いしさっさと休むことにするか」

「うん、そうだね、おやすみソラ君」

「おやすみなのじゃ~」

「おう、おやすみ、行くぞポチ」

 そういって俺達はわかれ、部屋に戻り体を休めた。
 ベッドに横になっていると二人に能力の事を
 話し忘れたという事に気が付いたが、
 別に明日でも良いので気にしない。

「それに、まだ完全に使える事を確認してないしなぁ」

「ん、あのエクスマキナの力か?」

「うん、そう。一つのスキルは試してみたんだが、
 他のは試してないから本当に使えるのかどうかは分からん」

 魔眼と魔眼さんは使える事は確認できたが、
 他のスキルは一切触っていない。

「今試してみるか?」

「んーいいや。どうせ明日になれば使う機会が沢山あるだろ」

「そうか」

 会話が途切れ、俺は目を瞑りゆっくりと明日に備え
 眠りについた。

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