勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

拷問部屋

「ふぅ」

 そろそろ満足しポチの背中から顔を上げると
 そこには大きな城の我が家があった。
 久しぶりに真面目に戦闘したからだろうか、
 物凄く久しぶりに戻ってきた気がする。

「すごいおっきい……」

 後方から感嘆の声がちらほらと聞こえてくる。
 これで使用人とかが出て来て出迎えてくれたら
 物凄く驚いてくれるのだろう。
 だが、そんな贅沢は出来ないし、やりたくない。

「到着じゃ――うむぅ!?」」

 エキサラが城の扉に開けると、
 まるで銃弾の様な速さでヘリムが飛んできた。
 そんな高速で飛んできたヘリムの事を驚きつつも
 ご主人様は華麗に避けた。

 そして、そのままヘリムは後ろに居たポチにぶつかった。
 モフモフの毛がクッションとなりお互い痛い思いする事は無かった。
 それを見ていた俺は、危ないとかではなく
 寧ろ、勢いよく飛び込んだ方がモフモフが
 包み込んでくれて気持ちが良いのではないか
 そんな事を考えていた。

「あれ~ソラ君どこ?」

 狙いは予想で来ていたが俺だったらしい。
 勢いよく飛んできたのは良いがどうやら俺の姿を捉えていなかった様だ。
 今は顔をうずくめたりせずに普通にポチの上に乗っているのだが、
 何せ身長が低いためポチが首を上げるとほとんど隠れてしまうのだ。

「ここだよ」

 ポチの首を避けるようにぴょこっと頭を右に出した。
 すると、ヘリムがパァっと明るい笑みを浮かべ小走りで近寄ってきた。
 そして、徐に両手を上げ飛んで来いというような素振りを見せた。
 抱き着くつもりだろう。何時もの俺なら回避するが、
 今回はそれを利用することにした。

 ポチから離れたくはないが、
 これから尋問を行う為には一旦降りなけば行かない。

「降ろしてくれるのか、ありがとな」

「え、違……」

「よいしょ」

 無理矢理押し切り、ポチから降りようとすると、
 確りとヘリムは俺の体を掴んでくれて地面まで降ろしてくれた。
 途中で目が合いジト目で何か言いたげそうに見つめられ、
 非常に気まずかったが目を逸らし何とかその場を凌いだ。

「ありがとな」

「うん……」

 物凄く不満そうに頬を膨らませて
 ジトーと此方を見て来ているが気にしないで置く。

「ソラ君の意地悪……」

「あはは」

 子供の様に拗ねているヘリムに思わず苦笑い。
 エキサラは何やら楽しそうにくすくすと笑っており、
 ポチは温かい目で此方を見て来ていた。

「むぅ、後で覚えて置きなよソラ君……」

 ヘリムはそう言ってから軽く咳払いをし、
 気持ちを切り替えた。
 後ろにいる捕虜達の方を向き、

「さて、君たちが捕虜か。既に尋問部屋は用意してあるから、
 五人ずつ部屋に来てくれないかい」

「え」

 仕事が早いと言えば良いんだろうが、
 正直に言ってかなり心配である。
 俺の想像している尋問部屋とヘリムが想像している尋問部屋が
 同じだと良いのだが、性格からして絶対に違う様な気がする。

「どうしたんだい?」

「いや、ちょっと気になることがあってな。
 俺の事を捕虜達より先に尋問部屋に連れて行ってくれないか?」

「良いよ~」

 何の疑いもせずに了承してくれた。
 尋問部屋に行く前に捕虜達を城の中に入れ、
 取り敢えずエキサラとポチに見張りをお願いして
 ヘリムと共に尋問部屋に向かった。

 案内されるがままに付いていき、
 階段を登り部屋だらけの通りの一部屋の前で足を止めた。

「ここだよ」

「ほう、此処か」

 見た目は只の部屋の扉だ。
 問題なのはこの中がどのようなふうになっているのかだ。
 恐る恐る扉に手を掛けヘリム曰く尋問部屋を開ける。

「どうだい?」

「ああー……」

 予想通りと言えば予想通りなんだが、これはひどすぎるぞ。
 部屋の真ん中にはポツリと椅子が一脚。
 その椅子の足には足錠が付いており、肘掛けにも手錠が付いていた。
 外からの光が差してきていた窓には木の板が貼り付けられており、
 一切外からの光を通さない。

 壁には沢山の拷問器具とみられるものが掛かっている。
 斧やらノコギリや良くわからない装置など様々だ。
 一体これのどこが尋問部屋なのだろうか。
 誰もがそう疑問に思うだろう。

「なぁ、ヘリム」

「なんだい?」

「尋問って何か知ってるか?」

「僕の事馬鹿にしてるでしょ。知ってるよそれぐらい」

 胸を張って威張って来るが、
 尋問の意味を知っているのなら、
 今、目の前に広がっているこの部屋は何だと言うのか。
 本当にこれが尋問部屋だと言い切るならヘリムが
 尋問の意味を勘違いしているに違いない。

「一応だ。俺が間違ってるかも知れないから
 一応ヘリムの知っている尋問の意味を教えてくれ」

「仕方が無いな~、えっとね尋問と言うのは、
 そこにある椅子に拘束してね、痛め付けて情報を吐かせるんだよ」

 言い切ってやったぜ的な顔をしているが、
 ヘリムさんよ、それは拷問というのです。

「じゃあ、拷問の意味は?」

「ん~、そこにある椅子に拘束して、痛めつけて……あれ?」

 やっと自分の言っている事がおかしいと気が付いたのだろう。
 人差し指を頬に当て「あれあれ?」と首を傾げだした。

「さっきからヘリムが言っていたのは拷問の意味だぞ
 ちなみに、尋問は口頭で情報を聞き出したりすることだ
 ……多少痛めつける事があるかもしれないが」

「えぇ!そうだったんだ……楽しみにしてたのに」

 少し残念そうに下を向き、
 何やら後半に小さな声でとんでもなく物騒な事を呟いた気がする。

「折角用意してくれたに悪いが、
 今回はこの部屋は使う予定はないな」

「うー、残念」

「まぁ、そのうち使う日が来るさ」

 絶対に来ないでほしいけど、
 ヘリムが頑張って用意してくれた部屋を無駄にするのも
 何だか気が引けるので、一応そう言っておくことにした。

「部屋は沢山ある事だし、ここはこのままにしとくか」

「うん!」

 取り敢えず、この部屋は放置しておく事にして俺達は部屋から出た。
 尋問部屋なんて作らなくてもそこら辺の部屋を使えば何の問題も無い。
 拷問する訳でも無いのだから。

「さて、始めるとするか」

「そうだね、頑張ろっ!」

 捕虜達を迎えに二人で城の中を歩きながら、
 ヘリムは何やら楽しそうにウキウキとしていた。
 まさか尋問と言いながら言葉を聞いただけで
 苦しんだりする魔法を使う気ではないのだろか
 と嫌な事を考えてしまうが、流石のヘリムでもそこまではしないだろう。

 そもそも、そんな魔法あるのだろうか……

「なぁ、ヘリム。
 もし、捕虜達が嘘を付いたら気が付けるか?」

「うん、そんなの当たり前じゃあないか」

 俺から、いや全生命体からしてみれば
 それは当たり前ではなく異常と言うのだが。

「じゃ、もしも嘘を付いているようなら教えてくれないか?」

「分かったよ、でもどうするつもりなんだい?」

「んー、そいつ次第かな」

 どうやっても口を割らないのならば
 それは少し痛い目を見てもらうかもしれない。
 流石に死ぬまでは痛み付けたりはしないが。

「そっか、楽しみだなぁ」

「……そう」

 本当にこの神様はサイコパスなのではないかと
 最近疑いだした自分がいる。
 一体何が楽しみなのかは聞かない。
 恐ろしいので聞きたくない。

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