勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ケモミミ、エルフ……最高だぜ。

「おぉ!やっと起きたか、心配したぞ!」

「ん……お父さん」

 どうやら俺はあの真っ白な空間から戻って来たらしい。
 俺が先程声を出し、それに反応したお父さんが泣きそうな顔をしながら、
 俺の事を覗き込んできていた。

「あれ……?」

 そう言えば俺って訓練所で力尽きて倒れたんだった。
 あの後俺はどうなったんだろうな。

「何だ?何も覚えてないのか?」

「……うん」

「そうか……じゃあ俺が知っている事だけ説明するぞ。」

 俺が困った顔をしていると、
 お父さんはそう言って説明をしてくれた。

 お父さんは凄く詳しくその時の状況を教えてくれ、
 俺が突然森の中からボロボロの状態で出て来て、
 そこにたまたまいたゴウル達がその場で折れている足を固定し、
 急いで治癒魔法が使えるルヌイ婆さんの所まで連れて行き、
 治癒魔法を掛け体力などを回復させてここまで運んでくれた。

 と教えてくれた。
 お父さんの話を聞く限り、どうやら俺は沢山の人にお世話になったらしい。
 特にゴウルには感謝しないとな、流石紳士さんだぜ。
 あと、ルヌイ婆さんにも。

「目覚めたばかりで悪いけど、聞いてもいいか?」

「何?」

「覚えてたらで良いんだが、森の中で何があったか話してくれないか?
 別に怒る気はないから正直に話してくれると助かる。」

「分かった。」

 別に隠す理由は無いので何が在ったか詳しく話す事にした。
 この俺が珍しく、詳しくだ。

 その理由は、黙っているのは危険だと判断したからだ。
 あのスライムが弱かったら俺は簡潔に話していただろう。
 だが、あのスライムは強すぎる。

 まぁ、この世界の魔物自体強すぎるが、

 あんな奴が森にいるとは知らずに誰かが森の中に入り、
 俺みたいに奴に襲われるかもしれない。

 最悪の場合殺されるだろう。
 いや、最悪の場合じゃなくても殺される。
 俺が生きて居るのは只運が良かっただけだ。

 嘘でもそうだと信じたい、不味くて吐き出され生き残った何て嫌だ。

 今の俺はここで世話になっている身だ。
 出来るだけ此処の者達が傷付く事は避けたい。

・・・・

「そ、そんな事が……」

 俺が詳しく森の中で起きた出来事に付いて説明すると、
 お父さんは眉間にしわを寄せて何やら思いつめた顔をした。

「これは、不味いな……」

 お父さんは誰にも聞こえない様な小声でボソっとそう呟いた。
 だが、この俺には聞こえていた。
 まぁ、物凄い近くで呟いてたから聞こえるのは当たり前の事なんだけど。

「兎に角ソラ、お前が生きてて良かった!!」

「え?う、うん。」

 お父さんはそう言って抱き着いてきた。
 まさか、男に抱き着かれる経験をするとは思わなかった俺は、
 少しテンパってしまった。

 お父さんの力は想像以上に強く、
 けが人の俺の体力を奪って行く

「ちょ、痛い痛い。」

「おっと、それはすまなかったな。」

 お父さんは慌てて俺から離れてくれた。

「本当に良かった……所で腹、空いてないか?」

 腹か……言われて見れば空いてる感じがするな。
 折角だし作ってもらうか。

「お腹空いた!」

「おお、そうか!じゃあ、作って来るから大人しくしてるんだぞ?」

「はーい」

 大人しくか、
 足がこんな状態じゃ、何もできないけどな。
 あの真っ白な空間では折れてなかったんだけどな、足。

 はぁ、これからどうしようかな。

 今の状態では、外に出歩く事は許されないだろう。
 つまり俺は暫くの間、部屋の中に引きこもってなくては行けない。
 部屋の中にはベッド、鏡、タンス、机しか置かれていない。

 やる事が無い。
 せめて本が在れば暇を潰せるが……
 あっ、そうだ。

 ここに沢山本を持ってきてもらおう。
 本なら寝ながらでも読めるし、色々と勉強になる。
 よし、後でお父さんに頼んでみるか。

 ……そう言えば、

 俺は真っ白な空間でヘリムが言っていた事を思い出していた。
『ソラ君の心――魂は高理ソラ――ソラ=バーゼルドの時と同じ物何だよ。』
『これだけは覚えておいて、例え転生してもソラ君はソラ君なんだよ。』 

 あれはどういう意味だったんだ?
 途中で現実に戻って来ちゃったし……
 魂は前の俺と同じ物……転生しても俺は俺……

 んー、全く分からん。
 何が言いたかったんだ?

「作って来たぞ~」

 俺が悩んでいると、
 お父さんが下から出来立てホヤホヤの料理を持ってきてくれた。

 ヘリムの件はまた今度にして
 俺はお父さんが持ってきてくれた料理を食べる事にした。 

「いただきます!」

 お父さんの事だからまた量が多いのかと思ったらそうでもなかった。
 今回の料理はお粥の様な物が入っている茶碗一つだけだった。
 茶碗も普通のサイズだ。

 なんか意外だな。
 気を遣ってくれたのか。
 まぁ、俺としても何時もこの量の方が良いが。

 茶碗を持ってスプーンでパクリと一口食べてみた。

 おお、お粥だ!
 懐かしいなこの味……
 もう二度と口にしないと思ってたがこの世界にも存在してたんだな。

「どうだ?」

「美味しい!」

「そうか、良かった。少なかったら言ってくれよ?まだまだあるからな!」

 うわぁ、まだまだあるのか……
 作った量は何時もと変わってないのか。

「ねぇ、お父さん。」

「ん?何だ?」

「お願いがあるんだ。」

「何だ?言ってみろ。」

「足が治るまでの間だけで良いからこの部屋に本を持ってきて欲しいんだ。」

「本か……別に良いがそんな物で良いのか?」

「うん、本が良い。」

「そうか。分かったぞ!お父さんに任せとけ!」

「うん、ありがと!」

 流石お父さんだな。
 何の本を持ってくるかはあえて指摘しないで
 お父さんがどんな本を持ってくるか楽しみに待ってようか

 ぼけーと空を眺めてみたり、頭の中で魔法の復習をしたりしてヴェインが本を持ってきてくれるのを大人しく待つ。

「ほーら持ってきたぞ~」

「わーい!」

 お父さんは大きな袋を持って部屋の中に入ってきた。
 袋は彼方此方に出っ張りがあり、
 袋の中には沢山の本が詰まっているのだろう。
 と予想できた。

「ソラの読みたい本が分からなかったから
 取り敢えず、図鑑とか戦術の本を持ってきたぞ。」

「うん、ありがとう。」

 おお、いいね。
 流石はお父さんだ俺の読みたい本が分かってるね。
 欲を言えばそこに種族の本とかこの世界の歴史の本とか
 あったらもっと良かったのに。 

「よいしょ……ここに置いておくな。」

「うん。」

 お父さんは俺のベッドの上に袋をドンと置いてくれた。
 お父さんが軽々とその袋を持っていた為、
 軽いんだな~と思っていたが、
 ベッドに置いた時の振動から察するにかなり重い。

「じゃあ、訓練行ってくるな。大人しくしてろよ?」

「うん!分かってるよ。」

「おう、良い子だ。じゃ!」

「いってらっしゃーい!」

 お父さんが部屋から出ていくのを目だけで見送った後、
 俺は早速、ベッドに置かれた袋を開け、
 中から本を取り出して並べてみた。

「ふーむ……」

 取り敢えず並べて見た物の……
 全部読んでみたいな。

「おっ?これは……」

 俺は数ある本の中から一冊の本を手に取った。
 タイトルは魔物の殺し方図鑑と言う本だ。
 表紙は骸骨に沢山の武器が突き刺さっている物騒な絵だ。

 魔物の殺し方……
 読んどいて損は無いかもな。
 この本を読んで次魔物に襲われた返り討ちにしてやる!

 そう思い、早速本を開いてみた。

 本の内容は、魔物の弱点が細かく書かれていた。
 例えばスライムであれば体の中にある核が弱点だ。

 そして、この本には弱点の狙い方も書かれていた。
 スライムは液体状なので手を突っ込んで核を引っ張り出す。
 と書かれていた。

「これって……」

 俺がやってた事じゃん。
 まさか、この世界でも通用するとはな……
 でも、あんな化け物にこんな単純な技が通じるのか?

 手を突っ込む前にやられそうだ。
 それに、あんな素早いんだぞ
 手を突っ込むなんて無理だろ。

 そもそも、あんな不気味で大きな口がある以上そう簡単に手を血がつけることはできないだろう。
 頭の中で様々なパターンを浮かべるがどれも大きな口によって悲惨な結末に導かれ、身体をプルプルと震わせる。

 ……何だかこの本に書かれてある事信用できないぞ。

――コンコンコン

「?」

 突然部屋の中にノックの音が転がり込んできた。

 誰だ?
 お父さんだったらノックなんてしないで入って来るし……
 取り敢えず、声かけてみるか。

「誰ですか?」

「ソラたんお見舞いに来たよ!」

 と言いながら勢い良く部屋の中に入ってきた。
 黒髪で真っ赤な瞳をしてすらっとした女性……

「ジブお姉ちゃん!」

「うんうん、愛しのジブお姉ちゃんだぞ~
 あら?なーに難しそうな本読んでるの?」

 ジブお姉ちゃんはそう言って俺が読んでいた本を横から覗き込んできた。
 顔を近づけられ頭から髪や服から良い匂いがしてくる。

 ……ゴクリ
 って、落ち着け俺。
 冷静になれ。

「ああ~この本読んでたんだ。」

「うん。」

「でもね~」

 ジブお姉ちゃんはそう言いながら顔を遠ざけ、
 ベッドの上に腰を下ろした。

「その本あんまり信じない方が良いよ~」

「え、どうして?」

 やっぱり、信じない方が良かったのか。
 と内心思いながら、
 此処は子供らしく何も分からないフリをしながら聞いてみた。

「ソラたんもスライムと出会った事があるから分かると思うけど、
 あんな化け物がそんな簡単に殺せると思う?」

「……思わない。」

 本音を言えば殺せると思う。
 だって、スライムの核って魔石みたいな物だろ?
 言っちゃえば魔物の心臓的な物だ。

 実際に俺が初めてスライムを倒した時だって
 スライムの魔石を引っこ抜いて倒したんだ。
 だから、こっちの世界のスライムだって魔石的な核を引っこ抜けば殺せる。

 ……と思うのだが、それ大前提としてスライムよりも強いという場合のみだ。


「それに、その本を書いた人はね~
 大罪人なんだよ。」

「ええ?」

 こりゃ、ビックリだ。
 まさかの大罪人かよ。
 こんなに細かく書いてあるからてっきりどっかの研究者かと思ったぞ。

 それにしても、大罪って……
 一体どんな事をしたんだよ。

「気になるかい?」

「うん。」

 俺の表情を見てジブお姉ちゃんはそう声を掛けてくれた。

「ん~、ソラたんに分かりやすく簡単に説明するね。」

「ありがとう!」

「まず、昔々ある所に大賢者タナカと呼ばれる者が居ました。
 大賢者田中はとっても強くて頭のいい人でした。
 時には災害を防いだり、時には国を治めたり……
 所が、ある日彼は何を思ったのかたった一人で世界を相手に戦争を始めました。
 彼の力は強大であらゆる種族を次々と無力化していきました。
 ですが、そんな彼も長々と戦い続けやがて体力が尽き
 捕まってしまいましたとさ。」

「えぇ、終わり?」

「うん、そうだよ?」

「そっか……」

 大賢者タナカ……田中……
 此奴は絶対に俺と同じ異世界人だ。
 俺以外にも居たんだな……会って見たかったな。

 それにしても、どうして世界を相手に戦争何て始めたんだ?
 田中は相当頭が良いらしいし、考え無しでそんな事をするとは思えない。
 しかも、たった一人だと?
 何を考えていたんだ……

 俺だったら分かる気がする。
 同じこの世界に召喚された異世界人だ。
 ……っ、情報が少なすぎるな。
 その事が書いてある本があればもっと詳しい情報が得られるんだが……

「ねぇ、さっきの話の本って無い?」

「う~ん、確かあったような気がするよ、興味あるのかい?」

「うん。」

「そっか、じゃあお姉ちゃんに任せなさい!」

・・・・

「お待たせ~」

「ありがと!」

 ジブお姉ちゃんはちゃんと本を持ってきてくれた。
 タイトルは大罪人タナカと言う本だ。

「じゃあ、ソラたんが本読んでいる間に昼ご飯作ってるね~」

「うん、ありがとう!」

「ふふふ、期待しててね!」

 さて、読むか。

・・・・

 本にはジブお姉ちゃんが説明してくれた事が
 より詳しく書かれていた。

 長々と書かれていて見るだけでめまいがするが、
 俺は何とかその本から必要な情報を見つける事が出来た。

 俺が探し出した必要な情報はたった二つだ。
 種族、それと戦争を始めた時期

 これだけの情報が手に入っただけで十分だ。
 寧ろこの情報が鍵だ。

 田中の種族は人間だ。
 そして、戦争を始めた時期は世界改変と丁度同じ。

「なるほどな。」

 つまり大賢者田中は世界改変から人間を守ろうとした訳か。

 世界改変、力が全ての世界では人間と言う種族は奴隷同然だ。
 田中はそれを阻止しようとして世界を相手に戦争を始めた。

 ……田中って本当に頭良かったのか?
 相当頭が良いならもっとマシな考えは生まれなかったのか。

 でもまぁ、その気持ちは分からなくもないな。
 同じ種族が奴隷にされるって気持ち良い話じゃないもんな。

 あと、そう言えば
 この二つの情報探している時に変な物を見つけたんだよな……

 タナカ最期の言葉
『ああ、これが憧れの異世界生活か。
 ケモミミ、エルフ……最高だぜ。』

「田中……」

 何だか此奴となら仲良く出来そうな気がする。

「あって見たかったな……」

「会えるよ?」

「え?」

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