始祖の竜神と平凡の僕。

深谷シロ

21.最奥の間 Ⅱ

 ルカとミシェルが寝静まった頃。僕は静かにテントを出た。テントが違うため、気付かれることは無いと思うが、余計な心配をさせて寝られなくなっては困る。起きる前に帰ってくれば良いだけの話だ。

 僕は自分に【防水】を発動させる。そして泉に飛び込んだ。泉の水は夜でもあまり温度が変わっていない。以前来た時は冬だったが、この時も温度は変わっていなかった。これも女神の力か何かなのだろう。泉の中を泳いでいく。

 今は石版が光っていない。転移できないのでは無いか、と少しばかり考えたのだが、石版に触れるとすぐに転移できた。転移した先は最奥の間の魔方陣だ。一度、辿り着くと魔方陣に接続される仕組みらしい。

 最奥の間に置いてある椅子に座って、僕は資料を読み始めた。正直、ここには資料が多いが、あまり良い情報は無い。後から来た〈女神の祝福者〉の主観によって内容が追加されているためだ。情報の真偽すら分からないのである。残念な限りだ。

 ふと蒼き竜が言った言葉を僕は思い出した。

『この奥は〈最奥の間〉と呼ばれる所だ。女神の残した財産がある。手に入れていくと良い。お主の仲間は最奥の間の地下の牢におる。本来、この遺跡に入れるのは〈女神の祝福者〉だけなのだ。それが二人も巻き込みおって。』

 そう言っていた。後半部分は関係ないが、問題は前半部分だ。この最奥の間には女神の残した財産がある。この資料がそれに当たるのかと僕はずっと思っていたが、資料を読んでみると明らかに女神本人が残したものでは無い。という事は〈女神の祝福者〉が蓄えた資料なのだ。

 要するにこれ以外に・・・・・女神の残した・・・・・・財産がある・・・・・・という事だ。それはどこにあるのだろうか。見た限りではそれらしいものは無い。

 僕は資料を棚から全て取り出してみた。棚に何かの仕掛けがあるのだろうか、と考えたからだ。しかし、それらしいものは無かった。この棚も〈女神の祝福者〉が遺したものなのだろう。机
 と椅子も含めて。これらには関係がない所にある筈である。

 では棚や机で隠れている所だろうか、と疑った。実際にずらしたりする事で何かないか探したが、何一つ、埃一つさえ無かった。今は何も無いのが恨めしい。結局、この部屋のどこにも女神の残した財産は無かった。

 そこで僕は発想の転換をすることにした。自分で探して無いなら、自分で探さなければ良いのだ。ここでは蒼き竜に尋ねるのである。

「女神の残した財産はどこにあるの?」と。

 急いで最奥の間から出ると、広間は真っ暗であった。誰もいない時は何も灯らないのか。随分と魔法を節約しているな。ケチなだけかもしれないが。

 蒼き竜はどこにいるのだろうかと、部屋中を見回ったが、どこにもいなかった。女神の残した財産だけでなく蒼き竜もいなかったのだ。本当にどこに行ったのだろう。

「おーい!」

「何だ?」

 突如、声が背後からした。驚いた反動で飛び上がってしまった。背後に蒼き竜が────いや、誰だ?

「────誰ですか?」

「何だ、その間は。私は蒼き竜だ。戦っただろう?」

「いや、姿が違うから。」

「あ、そうかそうか。すまぬな、寝る時に大きな身体は色々と辛いのだ。寝る時は寝やすい生物に身体を変化させている。」

「それが人間だと?」

「うむ。」

 蒼き竜は何故か人間の女の子になっていた。確かに身体はなるべく小さい方が寝やすいだろうけど、子猫とか子犬で良いじゃないのか?何に固執しているのだろう。

 まあ、いいや。要件はそれじゃないし、本題に入るとしよう。

「何だ?お主との戦いは楽しかったから、出来ることなら助けてやろう。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。女神の残した財産ってどこにあるの?」

「見つけられなかったのか?お主も行ったことのある場所の筈だが。」

「それはどこ?」

「────地下牢だ。二人が閉じ込められていたあの牢。あまりにも不自然な牢だったのではないか?」

「確かに牢だけが急いで拵えられたものだったからね。」

「その通りだ。後は自分で確かめるのだな。我は寝る。」

 そう言ってどこかへ去っていった。瞬きした次の瞬間にはいなくなっていた。不思議な竜だ。

 僕は言われた通りに最奥の間から地下牢に行く。そこには誰もいない。魔法で拵えた牢。入口すらも〈女神の祝福者〉しか開くことが出来ない。どうして気付かなかったのだろうか。

 入口に触れて、地下牢に入る。そして地下牢の中に隠されているであろう、何かの仕掛けを探した。だが考えてみると、ここは地下牢としても使っていた。捕まっていた人が気付くような仕掛けがあるのだろうか。恐らく、そうではないのだろう。

 発送を転換して、この牢の中自体が何らかの仕掛けになっているのではないか、と考えてみることにした。という事は何かしらに触れれば良いのではないか。泉にある、あの石版のように。

 その発想は正しかったようだ。壁が動き出し〈女神の祝福者〉を招待するが如く、地下への階段が姿を現した。

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