始祖の竜神と平凡の僕。
19.水の女神の遺跡 V
蒼き竜は竜魔法を使った。どうしてそれを考えていなかったのだろう。酸のブレスを放つばかりだから、酸のブレスしか攻撃手段が無いと思っていた。だがそれは考えでしか無かったのだ。浅はかだった。竜が魔法を使えるなど誰もが知っている常識だった。
旅人だから。竜の対処方法を知らないから。そう言って逃げようとして。誰もが、大人が、子供が知っている常識を懸念していなかったのだ。僕の負けだ。見るまでもない敗北だ。終わり、か。
自然と僕の頭の中には短い日々か流れた。ルカやミシェルと旅をした記憶が。楽しく話した記憶が。走馬灯だろうか。人の身体って嫌だな。死ぬなら痛覚的にも精神的にも苦しまずに死にたいな。
竜は座ったまま動かない僕を見て、口を開く。酸のブレスがその口から放たれる。それは容赦無く僕に向かってくる。そして僕に当たる────
────何だ?
世界が無音になる。音が無くなった世界に僕は驚き、目を開く。輝きを放つ光に僕は包まれていた。竜の放ったブレスはその光に遮られ、僕には一切当たらなかった。外界を阻み、全てを遮る。せめてもの慈悲とでも言うように視界だけはハッキリしている。それ以外は何も感じない。
酸のブレスを放ちきった竜は再び僕を見る。そして驚愕した。僕が纏う光を見て。
驚く僕と驚く竜。世界は時を止めたようにどちらも微動だにしなかった。そこへ一つの声が響く。
『……Dispel of the Firstlimit。Start the Cooltime due to dispel。Three……Two……One……Zero。All Complete。』
聞いた事の無い言語が流れた。竜も再び驚く。次の瞬間、僕の脳内に同じ声の言葉が響く。
『……第一極限解呪。解呪によるクールタイム。3……2……1……0。無事に完了しました。……脳内干渉します。成功しました。命令を実行し、言伝を伝えます。『第一極限解呪による記憶再生をします。』成功しました。記憶再生を開始します。』
同時に大量の情報が頭に流れてくる。僕は苦しみに悶えた。
「ウワァァアアアア!!!」
それは暫く続いた。それが終わると、再び脳内に声が響く。
『記憶再生が完了しました。命令を実行し、言伝を伝えます。『今流れたと思う記憶の中に僕の事が残っている。それを思い出せば、君のするべきことなども分かると思う。後は頼む。』成功しました。これで第一極限解呪による命令実行を全て完了しました。〈能力封印プログラム〉終了します。』
「はぁはぁ……何だ?」
言われた通りに流れてきた記憶を見る。そこには明らかに僕と思われる人の記憶が残っていた。これが僕?まさか同一人物なのか。僕はさらに記憶を見る。
「これは自分の記憶として残すために話している。未来の自分へ。僕は自分の力を封じる為にとある魔法を作り出した。それが〈能力封印プログラム〉だ。これを使えば、記憶も失うと思う。だけど君は今、記憶を思い出した筈だ。そうでなければこの記憶があるはずが無いからね。第一極限解呪の条件は死ぬ事だ。死ぬ寸前に〈記憶封印プログラム〉が作動して第一極限を解呪すると思う。第二極限以降も用意するつもりだけど、まだそれは良いだろう。その第一極限には魔力一部解放と能力一部解放を封じてある。君の更なる力となるだろう。」
そこで記憶中の僕は一旦区切った。そして再び話し出す。
「この力を使って世界を救って欲しい。────初代勇者。」
初代勇者。僕の記憶は僕に対してそう言った。確かに記憶の中にもそれらしい記憶がある。だが僕の記憶が正しければ、初代勇者は何千年も前に消息を立ったはずだ。まさか史実を塗り替えたのか……。
まあ、いい。目的はルカと同じだ。これは必然なのだろう。僕は立ち上がる。まずは目の前の敵だ。竜を倒す。
立ち上がると僕を包んでいた光は消え去った。それを見て竜は酸のブレスを放つ。近付いてくるブレスに自然と避ける気はしなかった。そのまま僕は手で薙ぎ払う。無詠唱での【消去】。ブレスを強制的に消し去る。ブレスは魔法だ。魔法ならば魔法で対抗出来る。僕は【複製】の魔法を使う。【消去】も【複製】も究極魔法だ。
僕は魔方陣を展開する。そして酸のブレスを竜に放った。竜は躱す。そこへ同時展開していた魔方陣を発動。【制御】で酸のブレスを竜に追尾させる。竜は酸のブレスの速度に勝てずに攻撃を喰らう。体表が少し溶けたようだ。
そのまま僕は百本の【火矢】を同時展開する。全方位からの滅多打ちだ。さらに同時展開で【花鳥風月】を手に纏う。【火矢】を竜が対処する頃には【重力】で僕は竜の側にいた。
「……終わりだ、竜種。」
そして僕は竜に触れる。三度、【花鳥風月】は竜に対して零距離射撃をする。巨大な光線は竜に直撃した。背後の壁に穴が開く。
それを確認すると【重力】を解除して、地面に降り立った。これだけの魔法を使用して魔力の千分の一も消費していない。究極魔法を何百発も放てるだろう。これは封印してもおかしくない力だ。記憶の中の僕の気持ちが分かったような気がした。
そこに一つの光が差し込む。何だろうか、と僕がそちらを見ると、竜魔法によって再生した竜だった。どうやらこの遺跡の魔法らしい。まだ戦闘が続くのか……。
『落ち着け、人間。』
「……え?」
『吾だ。蒼い竜だ。念話で話している。』
「ああ……はい。」
『納得していないだろう。吾とて負けたのは屈辱なのだ。吾が生き返ったこの魔法は吾が死ぬと作動する魔法だ。竜魔法は吾にも使えるが、死んだ後には使えぬからな。吾は昔、人々に〈酸の竜〉や〈アシッドドラゴン〉と呼ばれていた。吾自身は〈蒼き竜〉と名乗っていたが、誰もその名前を使ってくれはしなかった。』
そりゃあ、酸ばっか吐いてたら酸の竜って呼ぶでしょ。自分悪いよね、それ。
『まあ、それは良いのだが、この奥は〈最奥の間〉と呼ばれる所だ。女神の残した財産がある。手に入れていくと良い。お主の仲間は最奥の間の地下の牢におる。本来、この遺跡に入れるのは〈女神の祝福者〉だけなのだ。それが二人も巻き込みおって。』
「……すみません。」
それよりも〈女神の祝福者〉って何だ?僕がそれに当たるみたいだけど。初代勇者と関係があるのか?知りたい事が増えてしまったな……。
「〈女神の祝福者〉って何ですか?」
『そのままだ。女神に祝福された者をそう呼ぶ。お主もその一人だ。昔は勇者とか言う人間共に〈女神の祝福者〉が多かったが、最近は一人も出なかったからな。久しぶりで吾も張り切っておったのだ。』
どうやら本気の戦闘だったらしいです。竜と本気で戦うとか僕が馬鹿でした、勝てる訳無いじゃん。竜だよ、竜。
『まあ、良い。さっさと行け。お主は人間だったが、面白いやつだった。また戦いたいな。』
僕は押されるままに最奥の間へと入るのだった。
旅人だから。竜の対処方法を知らないから。そう言って逃げようとして。誰もが、大人が、子供が知っている常識を懸念していなかったのだ。僕の負けだ。見るまでもない敗北だ。終わり、か。
自然と僕の頭の中には短い日々か流れた。ルカやミシェルと旅をした記憶が。楽しく話した記憶が。走馬灯だろうか。人の身体って嫌だな。死ぬなら痛覚的にも精神的にも苦しまずに死にたいな。
竜は座ったまま動かない僕を見て、口を開く。酸のブレスがその口から放たれる。それは容赦無く僕に向かってくる。そして僕に当たる────
────何だ?
世界が無音になる。音が無くなった世界に僕は驚き、目を開く。輝きを放つ光に僕は包まれていた。竜の放ったブレスはその光に遮られ、僕には一切当たらなかった。外界を阻み、全てを遮る。せめてもの慈悲とでも言うように視界だけはハッキリしている。それ以外は何も感じない。
酸のブレスを放ちきった竜は再び僕を見る。そして驚愕した。僕が纏う光を見て。
驚く僕と驚く竜。世界は時を止めたようにどちらも微動だにしなかった。そこへ一つの声が響く。
『……Dispel of the Firstlimit。Start the Cooltime due to dispel。Three……Two……One……Zero。All Complete。』
聞いた事の無い言語が流れた。竜も再び驚く。次の瞬間、僕の脳内に同じ声の言葉が響く。
『……第一極限解呪。解呪によるクールタイム。3……2……1……0。無事に完了しました。……脳内干渉します。成功しました。命令を実行し、言伝を伝えます。『第一極限解呪による記憶再生をします。』成功しました。記憶再生を開始します。』
同時に大量の情報が頭に流れてくる。僕は苦しみに悶えた。
「ウワァァアアアア!!!」
それは暫く続いた。それが終わると、再び脳内に声が響く。
『記憶再生が完了しました。命令を実行し、言伝を伝えます。『今流れたと思う記憶の中に僕の事が残っている。それを思い出せば、君のするべきことなども分かると思う。後は頼む。』成功しました。これで第一極限解呪による命令実行を全て完了しました。〈能力封印プログラム〉終了します。』
「はぁはぁ……何だ?」
言われた通りに流れてきた記憶を見る。そこには明らかに僕と思われる人の記憶が残っていた。これが僕?まさか同一人物なのか。僕はさらに記憶を見る。
「これは自分の記憶として残すために話している。未来の自分へ。僕は自分の力を封じる為にとある魔法を作り出した。それが〈能力封印プログラム〉だ。これを使えば、記憶も失うと思う。だけど君は今、記憶を思い出した筈だ。そうでなければこの記憶があるはずが無いからね。第一極限解呪の条件は死ぬ事だ。死ぬ寸前に〈記憶封印プログラム〉が作動して第一極限を解呪すると思う。第二極限以降も用意するつもりだけど、まだそれは良いだろう。その第一極限には魔力一部解放と能力一部解放を封じてある。君の更なる力となるだろう。」
そこで記憶中の僕は一旦区切った。そして再び話し出す。
「この力を使って世界を救って欲しい。────初代勇者。」
初代勇者。僕の記憶は僕に対してそう言った。確かに記憶の中にもそれらしい記憶がある。だが僕の記憶が正しければ、初代勇者は何千年も前に消息を立ったはずだ。まさか史実を塗り替えたのか……。
まあ、いい。目的はルカと同じだ。これは必然なのだろう。僕は立ち上がる。まずは目の前の敵だ。竜を倒す。
立ち上がると僕を包んでいた光は消え去った。それを見て竜は酸のブレスを放つ。近付いてくるブレスに自然と避ける気はしなかった。そのまま僕は手で薙ぎ払う。無詠唱での【消去】。ブレスを強制的に消し去る。ブレスは魔法だ。魔法ならば魔法で対抗出来る。僕は【複製】の魔法を使う。【消去】も【複製】も究極魔法だ。
僕は魔方陣を展開する。そして酸のブレスを竜に放った。竜は躱す。そこへ同時展開していた魔方陣を発動。【制御】で酸のブレスを竜に追尾させる。竜は酸のブレスの速度に勝てずに攻撃を喰らう。体表が少し溶けたようだ。
そのまま僕は百本の【火矢】を同時展開する。全方位からの滅多打ちだ。さらに同時展開で【花鳥風月】を手に纏う。【火矢】を竜が対処する頃には【重力】で僕は竜の側にいた。
「……終わりだ、竜種。」
そして僕は竜に触れる。三度、【花鳥風月】は竜に対して零距離射撃をする。巨大な光線は竜に直撃した。背後の壁に穴が開く。
それを確認すると【重力】を解除して、地面に降り立った。これだけの魔法を使用して魔力の千分の一も消費していない。究極魔法を何百発も放てるだろう。これは封印してもおかしくない力だ。記憶の中の僕の気持ちが分かったような気がした。
そこに一つの光が差し込む。何だろうか、と僕がそちらを見ると、竜魔法によって再生した竜だった。どうやらこの遺跡の魔法らしい。まだ戦闘が続くのか……。
『落ち着け、人間。』
「……え?」
『吾だ。蒼い竜だ。念話で話している。』
「ああ……はい。」
『納得していないだろう。吾とて負けたのは屈辱なのだ。吾が生き返ったこの魔法は吾が死ぬと作動する魔法だ。竜魔法は吾にも使えるが、死んだ後には使えぬからな。吾は昔、人々に〈酸の竜〉や〈アシッドドラゴン〉と呼ばれていた。吾自身は〈蒼き竜〉と名乗っていたが、誰もその名前を使ってくれはしなかった。』
そりゃあ、酸ばっか吐いてたら酸の竜って呼ぶでしょ。自分悪いよね、それ。
『まあ、それは良いのだが、この奥は〈最奥の間〉と呼ばれる所だ。女神の残した財産がある。手に入れていくと良い。お主の仲間は最奥の間の地下の牢におる。本来、この遺跡に入れるのは〈女神の祝福者〉だけなのだ。それが二人も巻き込みおって。』
「……すみません。」
それよりも〈女神の祝福者〉って何だ?僕がそれに当たるみたいだけど。初代勇者と関係があるのか?知りたい事が増えてしまったな……。
「〈女神の祝福者〉って何ですか?」
『そのままだ。女神に祝福された者をそう呼ぶ。お主もその一人だ。昔は勇者とか言う人間共に〈女神の祝福者〉が多かったが、最近は一人も出なかったからな。久しぶりで吾も張り切っておったのだ。』
どうやら本気の戦闘だったらしいです。竜と本気で戦うとか僕が馬鹿でした、勝てる訳無いじゃん。竜だよ、竜。
『まあ、良い。さっさと行け。お主は人間だったが、面白いやつだった。また戦いたいな。』
僕は押されるままに最奥の間へと入るのだった。
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