始祖の竜神と平凡の僕。

深谷シロ

11.アークタクルス

 ミシェルの母を探す。僕達は当分、それを目的として旅をすることになった。狼人種の村を出て、およそ一週間。街道の半分の地点にある中継地の街に着いた。〈アルグランテ〉まではまだまだ長い。

「ここがアークタクルスだよ。」

 僕は二人に案内した。僕はこの街を数回ほど訪れた事がある。一回は僕が新米旅人の時。二回目はその二年後だ。一回目は一人旅だったけど、二回目は旅仲間と一緒に泊まった。

 前回訪れた時からは凡そ二年経っている。だけど街が変わった気はしない。基本的にここは旅人とか冒険者とか商人が訪れる街だからかな、宿屋が多い。

 僕は過去二回お世話になった宿屋へ今回も泊まることにする。

「すみません、二部屋お願いします。」

 僕が一部屋、ルカとミシェルで一部屋だ。流石に三部屋は出費が激しかったし、ミシェルにはルカが付いていて欲しかったからこうした。この選択が間違ってないといいけど。

「あいよ。」

 女将さんは快く応じてくれた。僕としては亜人のミシェルが忌避されないか心配だったけど、差別意識の無い人で良かった。ミシェルにはフード付きのマントか何かを買ってあげようかな。

「僕は少し買い物に出掛けるよ。」

「うん。」

 なるべく後回しにしないために僕はすぐに買いに行くことにした。ここはあまり品揃えの良い店が無いけど、僕が一番品揃えが良いと思っている店に行った。所謂、何でも屋さんだ。

「いらっしゃいませ。何をお探しですか。」

「フード付きのマントが欲しいんですけど……。」

「少々お待ちくださいませ。」

 定員さんは奥に入っていった。僕は暇なので品物を見ていく。何か魔道具が欲しかったけど、ここには無いみたいだ。別に特別欲しい物がある訳じゃ無いんだけど……。

「お待たせしました。」

 結局めぼしい物は無かった。残念だな。僕は料金を支払って、受け取った。これで良し。

 ◇

「何をしてるの?」

 宿に戻ってとある事をしているとルカが尋ねてきた。

「ちょっとマントに魔方陣を、ね。」

 ミシェルにはまだ話していないけど、マント自体を魔道具にするのだ。これには技術がいるけど、凄い技術などでは無い。経験がモノを言うだけだ。

「……出来た。」

 数分も経たずに終わった。ミシェルに渡すマントに付属させた効果は防御付与。マントを着たものに対する如何なる攻撃に対しても防御し、反撃する。強力な魔方陣を仕込んでおいた。防御する対象は着用者に傷を負わせるような攻撃、状態異常などがそれに該当する。

「ルカ、ミシェルにこれを渡しておいて。」

 何故かルカは僕の部屋にずっといた。ルカとミシェルは隣の部屋なのだが、何をしているのだろうか。

「分かったー。」

 ルカの返事は上の空だ。本当に何をしているんだ。

「おーい、ルカ。……おーい。」

「……」

 何なんだ……この竜神。考え事し過ぎて全く返事しないんだけど。

 仕方なく僕はルカの頭に触れる。ルカは座っていたので丁度良い位置に頭があったのだ。

「ほわっ!?」

 ルカが驚いて飛び退いた為に僕も驚いてしまった。本当に何なんだよ、この竜神。

「ずっと意識が上の空だったぞ。どうしたんだ?」

「……眠たいなって。」

「寝ろよ!」

 頭痛がしてきた。面倒だな……。僕はルカを抱えて、部屋に連れて行く。竜神という名前から身体は重そうだけど、実際軽かった。人間の中でも大分軽い部類に入るだろう。無茶苦茶だな、竜神って。ルカは顔を真っ赤にさせるが知らぬ。竜神の対処には困るな……。

「ほら、寝るんだ。夕食になったらミシェルに起こしてもらえ。……ミシェル、頼めるか。」

「分かった。」

 思えば勝手に部屋に入ったが、ミシェルは気にしていないようだ。有り難い。危うく危険な男認定される所だった。僕は部屋に戻るとしよう。ルカはすでに寝付いていた。やっぱりおかしいだろ、この竜神。

「夕食でな。」

 僕が立ち去ろうとすると服の袖を引っ張られた。ルカだ。離そうとしても竜神の力に人間が勝てる筈が無い。仕方無く、椅子に座った。

「ごめん、ミシェル。」

「う、うん。」

 今だけは我儘に付き合ってあげるとしよう。おっと、そういえば……。

「ミシェル、これ。」

 僕はミシェルにフード付きマントをあげた。魔方陣を仕込んだやつだ。

「これは……マント?」

「今でも亜人を差別する奴がいるからな。取り敢えずはフードを被ってるといいよ。あと、そのマントには高度な魔方陣を仕込んでるから、大体の攻撃は防いで、反撃するよ。」

「そんな凄いものを私にくれるの?」

「僕は自分のマントがあるし、ルカは僕のマントと同じ物を作れるからね。ミシェルには僕からあげようと思って。」

「あ、ありがとう。」

 ミシェルが笑った。

「やっと笑ったね。」

「……え?」

「君の村からここまで苦笑いは浮かべてたけど、本心から笑ったのは初めてでしょ?」

「あ……。」

「元気になったのなら良かったよ。」

 村を離れればやはり寂しいのだろう。ホームシックというやつだ。僕は旅人生だからあまり分からないけど、ミシェルには家がある。家族を探す旅とはいえ、大変である事は間違いがない。ミシェルはこれからも元気でいるのが一番だ。

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