始祖の竜神と平凡の僕。

深谷シロ

10.簡単お手軽!魔法講座!

「じゃあ、魔法を覚えようか。」

 それは僕の一言から始まった。何をする訳でもなく景色を見ていた僕達三人。傍から見ればとても悲しい人達だけど気にしない。だけど景色も辺り一面が岩肌になれば、少し寂しくなる。そこで急遽魔法講座を始める事にしたのである。

「分かった……。」

 ミシェルは少なくない気合の入りようである。魔法を使う事に人々は憧れる。これは誰でもだ。それだけ魔法という技術は人々の暮らしに根付いているのだ。

「ルカ、魔法と魔術の違いって何か知ってる?」

 僕はまず聞く。これはよく勘違いしている人がいる内容だ。ルカは竜神だから知らない筈はない。肝心なのはそれをミシェルが理解してくれるか、だ。

「当然。魔術は魔法を使う事。魔法は自然界に存在する魔力から様々なものを作り出す事。」

 魔法はその分野全体を指した言葉でもあるが、それは言葉では説明しづらいから気にする必要は無い。この世界にはあらゆる場所に魔力が存在する。魔力は目に見えないが、魔法使いは魔力を感じる事が出来る。五感では感じ取れない魔力を感じるには俗に呼ばれる第六感シックスセンスを使う必要がある。

「まずは魔力を感じてみようか。魔力は目には見えない。五感に頼ろうとしてはいけない。後はその人の才能だ。それは運でしかない。」

 第六感シックスセンスをどうやれと言われるのなら心で感じろ、と言うしかないだろう。魔力は〈心〉言い換えるのなら〈魂〉に反応し、共鳴する。これは才能がある者しか分からない。

「……こうじゃない?……こうかな。……あっ、出来た!」

 どうやらミシェルは出来たようだ。

「魔力はどんな感じ?」

「分からない……温かい?何か温もりのようなものを感じる。」

「それに正解はないよ。人によって感じ方は違うんだ。求めるものなそのまま現れる。」

 ミシェルが魔力を温かいと感じたのであれば、ミシェルは温かみを求めているのだろう。ミシェルの両親をいち早く探してあげたい。それは一旦置いておいて。

「第一関門はクリアだよ。第二関門はイメージすることだ。」

「イメージ?」

 魔法とは魔力を様々な性質に変換すること。変換する際にはイメージが重要となる。但し、イメージで魔法が出来るようであれば、日常的に魔法が誤発してしまう。魔力変換の際には同時にもう一つのステップが大事となる。

「そして魔導だ。これが魔法で最も重要なポイントだから気を付けて。イメージを魔導によって様々な性質に変える。こんな感じだ。」

 魔法が魔導と呼ばれる由縁はここにある。魔法は魔力を導くことであり、イメージ通りに魔力を導く事が重要なのだ。ミシェルに僕が見せたのは最も簡単な初級魔法。火魔法が一つ【火玉】の魔法。

「【燃やせ】【ファイアーボール】。」

 僕の掌の上に小さな火の玉が出来る。これが【火玉】の魔法。魔法を覚える際には皆が通る道である。

「この時には頭の中で火の玉を思い浮かべるんだ。と同時に掌の上に魔力を集める。魔力を集めるのもイメージで出来るよ。」

 結論を言えば魔導さえもイメージでなんとかなるのだ。二重のイメージを必要にする事で誤発を防ぐだけで実質、魔導は魔法に慣れれば無意識下ですることが出来る。ミシェルもすぐに出来るはずだ。

「……魔力を集める。……玉の形にする?……火の玉、火の玉……。こうかな……?」

 ミシェルは悪戦苦闘しているようだ。魔導も自分の感覚で掴んでもらうしかない。ここが一番時間が掛かるだろう。僕とルカはそれを見守るだけだ。

「……【燃やせ】【ファイアーボール】。……あ、出来た!」

 十分後。ミシェルは掌の上に火の玉が完成していた。大きさも掌からはみ出ない程に留まっている。魔導制御もしっかりと出来ているようだ。ミシェルは魔法の才能がある。

「よし、それで最後はその【火玉】を飛ばす。それもイメージだ。どこに飛ばすかをイメージするだけでいい。……実際に投げる必要はないよ。」

 僕が最後訂正するまではミシェルは【火玉】を投げようとしていた。天然かよっ!但し、これはミシェルには苦にはならなかったようだ。近くの木へ飛ばす事が出来た。【火玉】が当たった木は燃え、崩れ落ちた。成功だ。

「その一通りの作業を魔術と言うんだ。詠唱は難しい魔法になるほど長くなる。まあ、詠唱は徐々に覚えていこう。」

 ミシェルは嬉しそうだ。気付いていないだろうがミシェルは恐らく魔法適正が高い。だからこそ魔導制御も上手いのであろう。僕はミシェルほどの魔法適正は無い。今後は後衛が付くことで戦闘が楽になりそうだ。

 僕がそんな事を考えているとコンパスが反応した。魔物が近くにいるようだ。距離は数十メートル。数は一体。種類は月蝙蝠ムーンバッド。身体が小さくて敏捷性が高い。魔法が当たりにくい相手だ。ミシェルには厳しいだろう。でも経験は大事だ。一度挑戦させよう。

「前から魔物だ。相手は動きが速いから魔法が当てにくい。ミシェル一回戦ってみる?魔法が当たらないようだったら僕が加勢するから。」

「……分かった。」

 初めての戦闘。ミシェルは少し緊張しているようだ。まあ、適度な緊張は必要である。頑張ってもらおう。

「……来たよ。」

「【燃やせ】【ファイアーボール】!」

 すぐにミシェルの頭上には火の玉が完成する。応用もできているようだ。そして発射。【火玉】は月蝙蝠ムーンバッドを狙う──が、外れてしまった。月蝙蝠ムーンバッドは狙いをミシェルに定める。

月蝙蝠ムーンバッドはやっぱり速かったね。魔法発射速度も練習しようか。」

 僕はそう言いながら光魔法が一つ【閃光】の魔法を当てた。

「え……?無詠唱?」

 ミシェルとルカは唖然としていた。どうしたんだろう……あ、今まで無詠唱は見せてなかったな……。まあ、いいか。

 月蝙蝠ムーンバッドは【光線】で撃ち抜かれ、倒れた。素早く解体を済ませ、血抜き。こいつは美味しくないから燃やしておく。勿論、無詠唱だ。

「アデル。」

「……ルカ、なんだい?」

 何やらご立腹のルカさん。ど、どうしたんだい?

「どうして無詠唱が使えるの?」

「あーそれか。そんな難しい事じゃないよ。イメージ力が強くなれば詠唱は必要ないんだ。僕のこれまでの旅は無詠唱の技術を完成する旅だったんだけどね。五、六年掛かってしまったよ。」

 ミシェルは口が開いたまま閉じていない。そんなに驚きだったのか……。まあ、無詠唱の技術はまだ誰も成し遂げてない技術ではあるけど、実際そんなに難しくない。イメージの仕方が少し違うだけだ。……それも教えていけば許してくれるだろう。

 そんなこんなで僕達の旅はまだまだ終わらない。

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