始祖の竜神と平凡の僕。

深谷シロ

7.子供に教える時に気を付けること。

 亜人と人間。古くから互いに争ってきた種族どうしである。亜人は人間種ヒューマンと別の種族の混種であり、人間に疎まれてきた。亜人にも沢山の種族が存在するが、これまで地位を獲得出来た亜人はいない。

 その大きな背景としてかつての国王達が亜人嫌いであったという理由がある。現在は異種族同盟を結んでいるためにある程度は緩和しているが、未だに差別や小さな争いは絶えない。

 法令や条例、勅令などでも差別は禁止されているが、亜人の立場は依然として低かった。それを理由として亜人は人間種の住む街には近付かない暮らしをしている。多くは森の中だ。

 亜人は人間が作った街道に怯えながら森の中で暮らす。当然森の中には魔物が出現する。亜人は獣人とも呼ばれ、魔術の才能にはあまり恵まれないのだが、その反面に身体能力が優れている。その才能を活かした戦闘スタイルで魔物の討伐をしているのだ。生活までは脅かされていないという訳だ。

 さて、この村には狼人種ウルフヒューマンが住み着いているようだが、昔に何かがあったらしい。どうにか子供達が説明してくれて場は事なきを得たが、大人達は僕達に近寄ろうとしなかった。

 それでも優しい狼人の大人達は僕達に小屋を提供してくれた。どうにか何もしないと説明したいが、今日は皆動揺しているようだ。取り敢えず今日は寝よう。

 ルカは先に寝たが、アデルは一旦街道に戻った。そのままにしておいた夕食を片付ける為である。子供達が来た為に量はちょうど良かったが、次回からは少し量を減らして作った方が良さそうだ。食べ残しは良くないからね。

 アデルが街道で夕食の片付けをしていると、子供達がまたこちらに来た。どうやら何か話したいことがあるらしい。

「どうしたんだ?」

「お兄ちゃん、何もしないよね?」

 子供達は純粋だった。この場合は単純とも言うのかもしれないが、優しい子供達だった。世間はそんなに甘くないのだが、それは成長するにつれて学べばいいだけの話だ。今ここで教える必要は無い。僕は子供達に続きを促した。

「お父さんやお母さんが人間は怖いって言うんだ。でもお兄ちゃんは違うよ?」

「そうだね……僕とルカは君達に何もする気は無いよ。でも人間みんながそうとは限らないんだ。」

「どういうこと?」

 子供達は子供達である。難しい理論や解釈をそのまま押し付けるのは良い教育法とは言えないだろう。だから簡単に説明する。

「人間にはね。こわい人とやさしい人の二つに分かれるんだ。」

「お兄ちゃんはどっち?」

「僕はね……やさしい人だよ。」

 穏やかに。押し付けは良くない。子供達が納得する方法で、個人的解釈でも良い。人間にも優しい人がいるが、勿論怖い人がいる。それを理解してくれば良いのだ。難しく考える必要なんてない。

 子供好きなアデルはベビーシッター的なものをしていた時があった。冒険者達の子供を依頼受注中預かっていたのだ。その時にあやし方やこのような話し方などを身に付けたのだ。

「でも次に君達の村に来るのはこわい人かもしれない。だから君達がそんな奴らよりも強くなって村のみんなを守るんだよ?」

「「うん!」」

 これぐらいで良いだろう。僕は再び村へ戻った。先程の子供達とは別の子供達だが、どうやら和やかな顔をしている僕は子供受けするらしい。あくまでも主観ではあるが。

 子供達の家まで付いて行って、中に入ったのを確認すると提供してくれた小屋に帰った。ルカはもう寝ているらしい。寝息が聞こえる。僕もベッドへ入った。少し疲れたようだ。久しぶりの旅が身体の負担になったのかもしれない。ゆっくり休むとしよう。


 翌日。僕らは大人達と再び話をした。自分達はあくまでも旅人であり、亜人を捕まえようとしているなどといった事実は無いこと。冤罪をかけられているような気分だったが、これは一応説明しておかないと誤解されてからではもう誤解を解くことは不可能になるだろう。それだけ人間と亜人の対立が深いという現れなのだろうけど。

 この村はある程度経済が回っているようだ。市場があれば、警備の人も村長もいるらしい。村の自己防衛も屈強な男達で構成された義勇軍が行うらしい。良い村だ。

 あまりこの村に長居する気は無かったが、取り敢えず村長に挨拶をしておこうかな。

 村長と対面するまでは時間は掛からなかった。村長の方から会いたいと行ってきたのだ。僕らはそれに応じて村長が執務を行う建物へ行った。村長の家とは別にあるらしい。しっかりしてるな……。

「本当に人間ですか……。」

「村に入ってしまいました。すみませんでした。」

「いや、すまない。誤解をさせてしまったな。君達は子供達に食事を分けてくれたのだろう?ありがとう。毒が入っていないかと疑ってしまう事になるが、子供は健康だ。わざわざ村まで送り届けてくれた事にも感謝する。」

「いえいえ、僕らは旅人です。気紛れのようなものですよ。気にしないで下さい。」

「そう言ってくれるとありがたい。」

 もう一度村長は礼をした。この村の人々は本当に優しいらしい。村長がこんなにしっかりしている人ならば、村民も優しいのは当然の事か。

「……そう言えば一ついいですか?」

「なんだい?」

「あの村の高台にずっといる少女は誰ですか?」

 僕は疑問だったのだ。村について一番に見える高台。そこにずっと少女がいるのだ。時刻は夜。朝になってもそこにいた。家は無いのだろうか?

「ああ……あのか。」

 村長はどうやら知っているらしい。僕らは話を聞くことにした。

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