始祖の竜神と平凡の僕。

深谷シロ

3.人助けする竜神と決心する僕。

「どうしたの?」

 気持ち悪いほどに体力を浪費し続け、汗をダラダラと流す青年の姿に竜神の女性は若干引き気味に問い掛ける。

「だ、大丈夫……。」

「……【修正せよ】、【ストラクチャルチェンジ】。」

 竜魔法が一つ【構造変化】の魔法。青年の蕁麻疹はこれで二度と出ることは無くなった。蕁麻疹を引かせるだけであれば、【再生】の魔法で事足りる。万能回復魔法だからだ。しかし蕁麻疹は呪いでは無い。いくら回復させたとしても蕁麻疹が出る症状は治らない。だからこそこの魔法なのだ。【構造変化】の魔法はその無機物・有機物の構造を自在に変化する。要するに魔改造だ。女性は青年の蕁麻疹症状を改善した。

「何でもありかよ。……まあ、竜神だからな。当たり前か。」

 自己納得するしか無かった。それ程までに竜神というのは無茶苦茶な存在なのである。青年は疲れ果てていた。最後にこうとだけ呟いた。

「取り敢えず分かったから・・・・・・続きは明日な。今日は宿で休ませてくれ。」

 間違いなく失言であった。知能が高い竜族……ましてや竜神がそれに気付かない筈がなかった。目をより一層輝かせ、何度も頷くのであった。それに引き換え、己の失言に気付くことなくとぼとぼと宿に帰るのであった。

「おかえりなさい……あら?」

 宿屋の女将さんは青年の疲れ果てた姿に驚いた。最も一番驚いたのはその青年が借りている部屋から出てきた女性の事だったが。だが、疲れ果てた青年にそれを問い詰める程の鬼では無かった。青年はそのままとぼとぼと部屋に入っていった。挨拶と部屋の鍵はしっかりと受け取って。少し呆れる女将さんであった。

 一方、竜神は何をしているのか。竜神の女性は青年が帰った後も森に残った。青年がいなくなった後の森はまさに混沌カオスであった。ジャンプする度に地が揺れ、手が木に当たって木が折れ、揺れ動く髪の毛によって空の雲が真っ二つになっている。小動物や魔物は畏怖の眼差しを女性に送るのであった。当の本人……本竜は嬉しさの余りにその事に気付いていないのだが。

 そうして青年と女性は個々の夜を過ごしたのであった。青年は疲労困憊。女性は狂喜乱舞である。正反対の二人であった。

 翌日。青年は再び森へと向かった。少々二日酔いのような症状があるが、気にしてはいられない。竜神との旅を断る必要があるからだ。……蕁麻疹を治してくれた、感謝も。

 女性は一方、街へ向かっていた。青年に逃げられては困る、と竜神が可能な最大限の早起きをして、街へ向かったのである。両者はまさかの行き違いとなり、時間を掛けて青年が森、女性が宿へ着いた頃には正午になっていた。

 青年は急いで街に戻った。何故か第六感が危機を伝えたのだ。要するにただのカンである。しかし、自分の借りている部屋に再び入られては女将さんにバレかねない……と時すでに遅しな青年。全速力で青年は街へと戻った。

 女性は宿屋に行く前に街を見回っていた。見た事のないものが多く街にはあったからだ。昨日、青年の部屋へ強襲した時は【転移】の魔法を使用していた為に街は見ていない。

 市場を見回っていると小さな女の子に女性は出会った。その女の子は泣いていた。近くにいる大人達が慌てているので不思議に思った女性は話し掛けた。

「どうしたの?」

「あ、ああ。それがな……この子が迷子になっちまって。」

「そうなの?」

 女性は次に女の子に話し掛けた。目の前の可愛らしい女性に女の子も泣き止んだ。そして、目に涙を溢れさせながら頷く。竜神の女性は母なる竜として母性に溢れている。青年はまだその様子を見ていないが、女性は暖かな眼差しで女の子の頭を撫でた。

「じゃあ、探そう。」

 竜神である女性にとって、女の子の親を見つけるのは容易であった。しかし、魔法には詠唱が必要であるために使えない。仕方なく、子連れ竜神は騎士の派出所に行くのであった。

 女性は街を歩く人に派出所の場所を聞いた。街の人は皆優しく、丁寧に場所を教えてくれたのだった。子連れ竜神は聞いた通りの道順で歩き、派出所へと着いた。そこにいる騎士も対応が良かった。この街だけでなく、この国の人は皆優しい性格なのだ。だからこそ近隣諸国からの評価が高い。

 派出所には一人の女性がいた。竜神の女性が連れた女の子が派出所に入ると二人は目が合った。そして次の瞬間には抱き合っていた。

「おかあさん!!!」「アーデ!」

 どうやら母親も娘を探していたらしい。そこに娘を連れた竜神がやって来たという訳だ。竜神は親子から何かお礼を、と言われたが気紛れで助けただけの竜神はそれを断った。それよりも青年である。

 親子は竜神に礼を言うと去っていった。同時に竜神も派出所を出たが、すぐに呼び止められた。

「ちょっと待って。」

 竜神はその声に聞き覚えがあった。自らが探してやまないその存在。青年であった。

「全部見てたよ。……君は優しいね。僕も決心をしよう。……旅をしないか?」

「うんっ!」

 こうして二人は本当の意味で旅をすることになった。世界はここから大きく変化するのであるが、まだそれを知る者はいない。

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