死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第99話〜殺神〜

 天使とフレイ達が交戦していると、司と花音を覆っていた樹木が爆発と共に弾けとぶ。

「ああ。終わったんだね」

 フレイはその光景を目にして微笑みながら地面に倒れ込む。

「そんなバカな。神の悲願が!」

 天使達は攻撃を止めて地上に降り立つ。

「神の悲願を邪魔したことは許しがたい。だが、この人間を殺したところで魔神は滅ぼせん。戦いは終わりだ」

 その言葉によって戦場は一気に暖かさを取り戻す。皆が武器を捨て地面に腰をおろした。アイネルも人型に戻り司の元へと歩むが途中で足を止める。

「この再会を邪魔するのは流石に無粋ですね」

 司と花音は抱き合って泣いていた。

「やっと、やっと会えた。私を置いていくなんて酷いよ。どれだけ不安だったと思ってるの?」

「ごめん。花音の為だったなんて言い訳はしない。だから、これからはずっと一緒だよ」

「分かった。絶対に離さないでね」

「ああ。約束するよ」

 花音は目をつむり司に唇を近づける。

「ごめん!」

 花音は司に押されて遠くに吹き飛ぶ。花音は何が起きたか理解が追いつかない。だが、苦しんでいる司を目にして全てを理解した。

「まだ終わってないんだね」

「まだ終わらんぞ! 俺はこの世界に災いをもたらす。その為に存在しているんだ。それが俺の存在意義。こんなところでくたばってたまるか。こんな器はもういらない」

 司は自分から力が抜け去ったのを感じた。そして、それがどこに行ったかは明白だった。天使達の死体が一箇所に集まり、グチャグチャと音をたてて小さく固まっていく。全ての死体が集まった頃、それは人型に姿を変える。

「神の使いとは流石にいい体だ。だが、あいつよりは多少劣るな。まあいいさ、力も回収した。俺の存在意義を果たすとしよう」

 魔神は近くにいたアイネル達に向かって手をかざす。

「死ね」

 魔神の手から黒いオーラが飛び出す。しかし、アイネル達は無事だった。

「どうして?」

「今はあなた達も十分な戦力なる。敵対していないのなら戦力を残すのは当たり前だ」

 アイネル達を守ったのは大量の天使だった。

「ふん。意味のないことをする。ただの延命だ。俺に負けはない。つまり、お前達に勝ちはない。それを一番理解しているのはお前だろう? 藤井司」

「ああ。そうだな」

 魔神の向いた方には司が立っていた。その隙をついて天使が挟み込むように攻撃する。それは黒いオーラに阻まれて魔神には届かない。百体ほどの天使を使った攻撃は何重にも続き、魔神の首を切り落とす。

「だから無駄だって言っただろ」

 魔神の首は瞬時に再生する。

「分かるぞ。神の使いよ。平静を装っているが焦っているな。俺が使った死体でも封印に使うつもりだったか?」

 魔神の発言に天使は反応しない。

「図星か。これで俺を阻むものはなくなった。さあ、世界は終焉を迎えるときだ」

「諦めるわけにはいかない。これは神の悲願だ」

 天使達は数の暴力で魔神に襲いかかって行く。だが、魔神は死ぬことがない。確実に天使の数を減らしていく。

「やはり、この世界の命運を託すのはこの世界に生きる者か」

 空から響いてくる声。少し間を開けて司の目の前に剣が突き刺さる。

「我は神。この世界のことを託す。それは殺神剣。この世界に生きる者にしか使えない神をも完全に殺す剣だ。無論、我もその剣に斬られれば死ぬ。その剣を託す。この世界を救ってくれ」
 
「させんぞー!」

 剣に向かって魔神は移動する。だが、それは大量の天使によって阻まれる。

「くそ。雑魚どもが」

 司は剣を引き抜く。と同時に司の頭の中に何かが流れ込んでくる。

「これで魔神を滅ぼす! 皆んな力を貸してくれ!」

「「「はい」」」

 全員が司に向かって手を掲げる。天使も同様だ。すると、司の体は輝き始める。背中の翼は白く変化し、白いリングが形成される。

「行くぞ魔神!」

 魔神も剣を作成して司を迎え撃つ。激しい剣戟は周囲の地形を変え空を切り裂く。司はあらゆる魔法や能力を使って魔神を追い詰める。

「この時をどれだけ待ったか。こんなところで終われん」

 魔神は疲弊することがない。いや、疲弊はするが瞬時に自害と蘇生を繰り返す。今まで自分がしてきた戦法がどれだ世界の理から外れたことかを司は理解する。

 長い戦いの末に決着の時は訪れた。

 司は時間と共に少しずつ疲弊していた。そうして司の動きに隙が生まれた瞬間を、魔神は見逃さない。

「死ね」

 だが、それは司が自ら作った隙だった。魔神を油断させ不意をつく為に。魔神の剣を弾き殺神剣を魔神に向かって振り下ろす。

「舐めるな」

 魔神は瞬時に反応して黒いオーラがのった拳を放つ。司はその拳が自分を殺すのに十分な威力があるとすぐに気づく。だが、引くことはしない。

「バカな。死ぬぞ?」

「だがお前も殺せる。お前がいれば花音は絶対に守れない。差し違えてでも殺す」

 このチャンスが二度とこないと司は理解していた。魔神もそれほどバカではない。それ故の行動だ。

 ごめん花音。約束は守れそうにない。

「「死ね!」」

 殺神剣は魔神を勢いよく両断する。魔神の拳は司の体を貫くはずだったが、司は無事だった。

「もう絶対に一人にしない。約束は守ってもらうから」

 魔神の拳は花音の絶対防御によって阻まれていた。

「ごめん」

「違うよ?」

 暗い表情で謝る司に花音は少し怒った表情を見せる。

「そうだね。ありがとう花音」

 魔神はボロボロになって消えていく。

「俺たちの勝利だ!」

「「「うおおおおおお!」」」

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