死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第78話〜決裂〜

 記憶を取り戻してから一週間。ベラ打倒に向けて、ベラの住処の捜索が行われていた。

「やはり、住処を見つけるのは難しいな」

「表には出てこないからな。ただでさえ情報も少ないのに」

 バンッ

 会議室の扉が勢いよく開く。

「報告します。新井真央が現れました」

「なんだと!?」

「僕が行きます。イチルさんとシアンさんついてきてください。あとの人は城の警備の強化を行ってください」

 万一に備えて城の警戒を任せて、司は飛び立つ。

「鬼人化」

 少しでも早く到達するために司は鬼人化を発動する。報告のあった場所に向かって一気に加速していく。

 目的地に着く前に、司は人影を捉えていた。ユラユラと城の方向へと歩いている。外傷はないように見える。

 到着はすぐだった。新井の前に降り立つ。

「よかった。無事だったんだね」

 司の言葉に反応はない。

「ここは危険だ。一旦城に戻ろう」

 新井の手を取ろうとした司の手は弾かれる。

「どうしたの?」

 新井は司に向かって腕を上げて握っていた右手を開く。そこには、折り畳まれた紙があった。

 司は紙を開いて中を読む。

『最後通告。私の仲間になりなさい。君たちが記憶を思い出したことも感知しています。私は君たちには触れていない。能力を使ったのはそこの少女だけ。その意味が分からないわけではないでしょう。この通告を無視するなら全力で魔王モンブランを攻撃します。良い返事を待っていますよ。 魔王 ベラ』

 司は恐怖していた。文の内容ではある。だが、勧誘の件ではい。ベラの能力についてだ。そう、魔王ベラは司と対面したことはない。だが、司の記憶は変わっていた。一つの記憶を変えることで、空間を超えて他者の記憶にまで影響を及ぼすのだ。

「どうかされましたか?」

 紙を読んでいた背後にイチルとシアンが到着する。

「これを見てください」

 振り返って紙を見せる。

 グサッ

「え?」

「やったやったわ! ハッハッハッハッ」

 新井が狂ったように笑いはじめる。その目線の先にでは、ナイフが司の腰に突き刺さっていた。

「これでベラ様の仲間になれる。やったやった!」

 イチルとシアンが一瞬で戦闘態勢に入る。 

「どうしてこんなことを?」

 司はイチルとシアンを制止して、新井にむいて質問をする。

「どういうこと? 確実に刺さったのに。毒も塗ってあったのに」

 カランッ

 ナイフが地面に落ちる。誰かが触れたわけではない。司自身の細胞がナイフを押し出して再生したのだ。

「ベラに頼まれたの?」

「近づかないで」

 汚物を見るような目で司を見る新井。

「これは私の意思よ。私はあんたみたいなゴミが嫌いなのよ。あんたにそのナイフを刺せば仲間に入れてくれるっていたから。一石二鳥だと思ったのよ」

「そうなんだ。でも、それは本当の意思かは分からないだ。ベラは記憶を操る能力を持っている。その意思も植え付けられたものかもしれないんだ」

「そんなわけないわ! だって私はあなたをずっと殺したいって思ってたんだから」

「まあ、話は後で聞くよ。城に戻ろう」

 司が手を伸ばすと、新井の足元から円状に光が吹き出す。新井の手を掴むが、間に合わない。光が消えると同時に新井の姿は消える。光の中にあった腕も切れたように無くなっていた。すぐに腕も再生が始まる。

「時間式の転移魔法ですね」

「なぜあのようなことを。あのような物で王をどうにかできるはずもないのに」

 司は答えない。

 司は理解していた。ベラが不死の能力について知っていない訳が無い。その能力がなくても、ヴァンパイアの王となった司に致命傷とはならない。油断している絶好の機会を逃してまでだ。ならなぜか。遊びだ。わかっていたが、あえて教えなかった。仲間に刺されるという状況を作り出すための遊び。

「限界だ。ベラ」

 ボソっと呟いた後に深く息を吸う。そして、怒りに任せて叫ぶ。

「かかってこい。お前のようなクズは生きている価値もない。全力で叩き潰す」

 その叫びは大地を震わせ雲を切り裂く。

「だそうだ」

「こうなることはわかっていました。まあ、誘導したようなものですが」

「戦争になるな」

「そうですね。存分に暴れてください【研鑽の王スレイ】【復讐の王オル】」

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