死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第63話〜鬼神〜

 ケイネル魔法国の一室。突如開いた空間の裂け目から、眠ったクラスメイトと幹部らしき者が現れる。その中には、花音の姿もあった。

「ドリアス! よく戻った。例の奴らも一緒だろうな」

「もちろんだ、ニルベル。これで加護の研究や、新たな魔法の開発が捗る」

「そうだ。これで、あの方の力になることができる」

「あの方?」

「気にすることはない。いずれ我らが平和に過ごすための助力をしてくれる方だ」

「そうか。俺はひとまず休憩する。こいつらをしっかり拘束しておけよ。こいつらだって勇者の端くれだろう。目覚めたら厄介だ。警備を最大限まで上げておけよ」

「そうだな。あの魔王モンブランとやらが攻めてくるかもしれんしな。まあ、この国の最大警備は魔王ですら抜けれるとは思わんがな」

 ドリアスと呼ばれる男が別室に移動しようと扉を開けた時、それは想像よりも遥かに早く、そして、悍ましい殺意をばらまいて現れた。

「お二方大変です! 魔王が、魔王モンブランが国の上空にいます」

「なんだと。早すぎる。テレポートしたばかりだぞ。魔王もテレポートもちか」

 ドリアスが広域の伝達魔法を発動する。

「「全員戦闘態勢だ! たったの一人と思い油断するな。相手は魔王だ。もてる全力を持って叩き潰せ! 確実に息の根を止めろ」」

「「了解」」

「俺も行く。ニルベル、念のため女、子供を逃がしておけ。もしかしたら、勝てんかもしれんぞ」

「お前がそこまで言うならそうしよう。だが、負けるなよ」

「当たり前だ」

 武装した戦士たちが屋外に出て見たものは、悍ましい生物だった。

 モンブランから見た戦士たちは蟻同然。いや、蟻以下だった。命というものがあるとすら感じない。どうやって皆殺しにするか。そのことしか、怒りしか頭になかった。

「死ね」

 憎悪と殺意が乗せられたその小さな言葉は、ありえない現象を引き起こす。

 ケイネル魔法国の戦士たちが次々と自害を始めたのだ。モンブランは魔法を使ったわけではない。能力を使ったわけでもない。

 何が戦士たちを自害に追い込んだのか。それは、生物としての圧倒的差だ。

 絶対的強者を前にして、死ぬ方がましだと理解した。頭ではなく、心ではなく、体が、死ねの一言で理解した。戦っても無駄だと。ならば、自ら。

「何をしているバカどもが! 何を恐怖している。生きろ! お前らは死にに来たんじゃないだろが!」

 その声で、正気を取り戻したように戦士たちの自害が止まる。声を発したのはドリアスだった。その後ろには二十人、普通の戦士とは違う様子の戦士がいた。

「俺達の強みは魔法だ。それを使わずして敗走などありえはしない。動ける者は魔力を聖騎士にわたせ。戦闘は俺達が請け負う」

「行くぞ!」

「「「おう!」」」

浄化の光ホーリーライト

 すぐに、聖騎士の一人が魔法を放つ。最上級に分類される魔法。それは、そんな速度で、一人で発動できるものではない。国中の戦士たちから、大気を伝わって魔力が供給されているからこそできるものだ。

 モンブランは自身の翼で体を覆う。

 無数の光が上空に向かって咲き誇る。

「やったか?」

「いや、ダメだな」

 光のあとに、黒い影があった。それは翼を広げ、反撃に転じる。

「鬼神化」

 体中が赤黒く変色し、翼の間から赤黒いリングが展開される。その姿は、悍ましくもあり、神々しくもあった。

滅び、懺悔しろブラッド・ニムル

 モンブランの周囲に赤黒い球体が次々と発生する。

 その球体は地上にいる戦士達めがけて進み始まる。

「パーフェクトシールド!」

 国全てを覆うような巨大なシールドが形成される。徐々にシールドに赤黒い球体が近づいていく。

 魔王の魔法を受け止められるのか?

 聖騎士の疑問は、想像もしない形で裏切られる。透過した。その黒い球体はシールドを透過したのだ。接触すらしている様子はない。

 ドリアスは嫌な予感がした。この能力は、一度戦ったことのある奴。魔王セイヤの力だった。

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