死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第26話〜決断〜

 司は地面を蹴り、ゴブリンの集団に飛び込んでいく。

「やっとやる気になったわね。それでこそ殺しがいがあるわ。やれ!」

 司に全てのゴブリンが攻撃を始める。ステータス的にはサイクロプスと変わらない司は、徐々に疲弊していく。だが、数体ずつ確実に命を奪っていく。

「この程度なの? 手加減するぐらいだからもっと強いと思ってたのに。私が手を下すまでもない。さっきのサイクロプスの方がまだ強かったわ」

 司の前に五対のゴブリンロードが現れる。この場に現れた全てのゴブリンロードだ。それは、ナーナがさっさと殺せと言っていることを表してるようなものだった。

「人間ごときがわれら一族に逆らうからこうなるんだ。恥を知れ!」

 ゴブリンロード達が司に向かって拳を振りかざす。疲弊している相手に対する数体での渾身の一撃。絶体絶命と思われる状況を、司は待っていた。

 ここだ!

「鬼人化!」

 どんな戦士でも油断するときは必ずある。その時を確実にねらえ! 司がアランに教わったことだ。どんなに統率されようと所詮は生物。数体で一体へ、それも疲弊した格下だと思う相手に。油断するなという方が無理な話だ。

 ステータスが一気に上昇した司に、ゴブリンロードは反応することすらできない。一瞬で何十回とゴブリンロードを斬りつけ、全てのゴブリンロードを絶命させる。

 アランさん。あなたに教わったことが役に立ちましたよ。ありがとうございます。

 時間が終わるまでに全員を殺さなければ、皆が殺される。司は近くにいるゴブリン達を次々と肉塊に変えていく。ゴブリンの数が半分に差し掛かったところで、剣が何かに受け止められる。

「これなら合格よ。私の手で殺してあげる!」

 それは棍棒を手にしたナーナだった。だが、鬼人化を使った司の相手ではない。王は王だが所詮はゴブリン。ゴブリンロードと違い、司の攻撃に反応するがまだ遅い。あっという間にナーナは傷だらけになる。

「先に頭をもらう!」

 ブシャッ

 首をはねるつもりで振るった渾身の一撃が切り裂いたのは、ナーナではなかった。ただのゴブリン。

「身代わりか!」

 斬ったゴブリンを押しのけ奥にいるナーナに剣を向けるが、大量のゴブリンが道を塞ぐ。

 クソが! 頭をとるチャンスだったのに!

 再びゴブリンの殲滅を始めると、すぐにナーナが現れる。口からは大量の血を流し、傷は全て癒えている。そして、さっきよりも体から力を感じる。

「さあ、再戦よ」

 所詮はゴブリン。その考えが抜けていない司は、気づかぬ間に油断していた。アランから教えてもらったにもかかわらず。

「くたばれええええ!」

 ナーナは驚くほど速くなっていた。司は予想を超えた動きに反応が遅れ、横腹に全力で振りかぶった棍棒を喰らった。

 カハッ

 衝撃で吹き飛びながら大量に吐血する。木に当たり動きが止まった時には、目の前にきたナーナが棍棒を振りかぶっていた。

 ヤバイ!

 すんでのところでどうにか回避する。だが、出血が激しく体にうまく力が入らない。

「どうやら体はもう限界のようね。それじゃあ、先にあいつらを殺そうかしら」

 ナーナがルギス達の方に向く。その行為が、司に仲間を失うという恐怖を改めて実感させた。

 それは駄目だ! 絶対に助けてやる! 何のために命を奪うと決断したんだ! 俺は負けない! もっと力を!

 司は、自分の中からあふれ出てくる力を感じていた。これなら、この体でもやれる! 

 後ろ向きのナーナに一気に肉薄する。剣は吹き飛んだ衝撃で手元にない。その代わりに力いっぱいの拳をナーナにおみまいする。吹き飛ぶ前にナーナの手を掴み、片手でさらに数発叩き込む。

「どう……して!?」

「俺はみんなを死なせたくない。それだけだ」

 言い終わると同時に手を放し、横腹に蹴りを炸裂させる。吹き飛んだ先に、ゴブリンが集結し始める。また回復か? そんなことさせない! 一気に近づきゴブリンを殺していく。だが、殺しても殺しても数が減らない。

「邪魔なんだよ!」

 ゴブリンの道を一点突破した先には、共食いをしているナーナの姿があった。幸い傷はまだ残っていて奴は無防備。司は自分の拳に全力を込める。

「死ねえええ!」

 拳を振るおうとした司は、少しづつ力が抜けていくのを感じる。

「時間切れね。ゴブリンもまだいるし、あなたは動けなくなる。私の勝ちよ! あいつらが死ぬさまでも見てな。その後ゆっくり殺してあげる」

「なぜそのことを!」

「そんなことは知っていて当然よ。初めはなぜ人間が使っているのか戸惑ったけど、時間稼ぎで勝てるならこんなにありがたいことはないわ。さようなら」

 クソ! やっぱりダメなのか。俺の力じゃだれも救えない。

(失望させるな)

 でも……

(その程度で諦めるな! 最後まで全力でやって見せろ!)

 そうだ! 諦めてたら始まらない! 何かこの状況を抜け出す方法は。…………これしかない!

 倒れ始める体で、司は賭けに出る。

 一度も使ったことがない魔法。そして、司の指が向く先は自分自身の頭。

「俺は諦めない。ライトニング!」




毎日投稿復帰初日から遅れてしまいました。申し訳ありません。参考になるのでコメント等感想など待っております。これからも応援よろしくお願いします!

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コメント

  • なり

    すごく面白いです!

    0
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