死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第19話〜第一歩〜

 これからどうしよう。勢いよく出てきた司だが、何かができるわけではない。死んでほしくないから助けに来た。自分の決意を曲げないために。ただそれだけだった。

「人間か! 魔物は危険な生き物だ! すぐに離れろ!」

 ルギスを襲っていた騎士団の団長らしき人が話しかけてくる。

「何か勘違いをしてますよ。俺はこのサイクロプスを助けに来たんです」

「はああ?!」

 騎士団の全員が驚愕の表情に変わる。それはそうだ。魔物は知性を持たず人間を襲う化け物。そう教わってきたのだから当たり前だろう。

「魔物にも知性があるんです。なぜ分かり合おうとしないんだ! 戦う理由なんてないんだよ!」

 騎士団が一瞬取り乱すが、すぐに冷静さを取り戻していく。そして、団長が口を開いた。

「この人間は魔物に洗脳されている。悔しいことだがこのサイクロプスと共に葬る。それがこの人間にとっても喜ばしいことだろう」

「ウソだろ……いや、普通か」

 司は口から言葉が漏れていた。もしかしたら話し合いでどうにかなるかも。そう思っていた自分を笑ってしまう。何十年、何百年と伝わってきたことなんだろう。それをこんな小さなガキが叫んで変えられるわけがない。冷静に考えればわかることだった。

 騎士団の団長らしき人が司に剣を構える。

「バルク騎士団、団長バルクの名において命をいただく。今すぐに楽にしてやる。待っていろ!」

 剣を構えられてもどうしようもない。洗脳など受けていないしそんなこと望んでいない。だが、それが伝わることはない。
 仕方ない。司は握っていた剣を構えなおす。逃げればどうにかなるかもしれない。不死身だし、どうにでもなる。だが、そんな選択肢は司にはない。守ると決めた人の敵に、背を向けるなんてできない! それは強さではない!

「死ね! 解放してやる!」

 四十人程に包囲され、絶体絶命のピンチ。ルギスも助けなくてはならない。どうすればいい。どうすれば! 考えているうちに騎士団の攻撃が始まった。司は習った剣術を使い、どうにか攻撃を捌く。

「普通の人間ではないな。どこかの騎士団に所属していたんだろう。かわいそうに」

 近接は同時に攻撃できるのはせいぜい二人ぐらいだろう。それならギリギリ捌ける。だが、近接だけが騎士団の攻撃ではない。

「アイスランス!」
「サンダー!」

「クソッ!」

 司は激痛と共に地面に倒れる。またか。またこうなるんだ。司は自分の能力にだいたいの予想はできていた。死ぬたびにステータスが上がると。だが、それではだめなんだ! 今! 今、力がいるんだ! 復活してルギスさんが生きている可能性はほとんどない。力を! だが、そんなに世界は甘くないらしい。

「さようならだ。安らかに眠れ」

 バルクの剣が司に向かって降っていく。すんでのところで司は回避した。まだ希望はある。賭けだ! 司は体を引きずりルギスのすぐ近くまで行く。

「ルギスさん。俺を殺してください」

「何を言ってるんだ! 恩人にそんなことできない。それと、もうそんな力残ってないよ」

 司の言葉にルギスは驚きを隠せない。だが、司の表情は真剣そのものだった。ほんの少しでも確率があるならやってみせる! 諦めない!

「俺も、もうボロボロですよ。そんなに力はいらないでしょう。これは希望の為の死です。ですから、殺してください!」

「それでも……」

「何をこそこそ話してるんだ? また洗脳でもしてるのか? 魔物、お前は許さんぞ。先に殺してやる」

 バルクの手がルギスに近づいていく。

「早く殺してください。テウスに、家族にまた会いたいんでしょうが!」

 ルギスの表情が変わる。

「そうだな。……君に賭けるよ。すまない!」

 最後の力を振り絞った拳が、司の命を奪う。

 司の意識が急速に消えていく。早く! 早く! もっと力を! もっともっともっと!

「おい、大丈夫か!」

 バルクが司の心臓に耳を当てるが動いていない。

「このクソが! 最後の最後まで人間を。よくも!」

 バルクの剣がルギスを襲う。

『能力の発動条件を満たしました。発動者の強い願望を反映し、蘇生します』

「終わりか。すまなかったな、司君」

 カキンッ

「まだ終わってないですよ。賭けは俺の勝ちですね」

 ルギスが声の方を向くと、驚愕の表情になる。

 そこには傷のなくなった司が立っていた。ルギスが拳を振るってから十秒ほどしかたっていない。だが、司はそこに立っていた。本来なら数分後だが、確実に立っていたのだ。

 司は剣を構えなおす。 

「力がみなぎってくる。反撃開始だ!」  

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