片翼の天使と僕とあの1年

夜桜巫女

天使が舞い降りた

   「……え」
 間抜けな声が微かに漏れる。
  「…はい?」
 あちらからも間抜けな声が漏れた。
 2人して、見つめながら…時間が過ぎていくのを感じていた。
   「っ!!!!!あのっ!!!!!」
 先刻に口を開いたのは──彼女の方だった。
   「はいぃっ?!」
 それに驚き、わかりやすく声が裏がえる。
   「あ、貴方様は……人間で宜しいのでしょうか…?」
 …何を聞いているのだろうか…僕のどこをどう見れば人間以外に見えるのか…。そんな疑問が脳裏を横切ったが、何も言わずにただ「YES」と頷いた。
「なるほど…これが人間…」
 ふむふむと、僕の周りをぐるぐるしている。
 「な、なんでしょうか…???」
 「人間を見るのは初めてでして……ほぉぉ……あっ申し遅れました…わたくし天使・・をやらせて頂いている者です」
 ニコッと綺麗な顔で僕に微笑む。
 美しく、可愛い…。だが、重要単語を僕は聞き逃したりしなかった。
 「…天使ぃ??」
 「?聞いたことないですか?天使です。人間に幸を与え、優しい心を持つ霊のことですよ?」
 キョトンとした顔で「天使」について軽く語る。
 うん、いや、天使はわかる。何処に存在する霊なのかも。
 そこではないのだ!!何故ここに?!何故こんな田舎に…!!ということなのだ。
 「そ、それは分かります…。その天使様が何故このような場所に……」
 天使など僕ら人間が出会えるような存在ではない…。
 もしかしたら夢かもしれない。今起こっていること、目の前の天使は偽物かもしれない。
 グルグルと僕なりに考えていると、彼女はクルクルと舞いながら笑顔で言った。
 「私がここに降り立ったのは、片翼、無くしてしまいましたので。飛ぶこと出来ず、ここに降り立ってしまいました」
 たしかに、舞う彼女の背には右だけ真っ白な翼が付いている。左は根っから無くなっている。よく見ると無くなった翼の根元には血が軽く滲んでいる。
 まるで誰かにもぎ取られたかのようだ。
 「でも私はここに来れたことを光栄に思っているのですよ?」
 「えっ、何故……」
 「ふふふっ!貴方様のような心から優しい人間に会うことが出来ましたし、何より、綺麗で美しい世界です…!!」
 僕は生まれて初めて見たかもしれない。日本を褒め、愛してくれるような天使を見たのは。
 真っ白な髪の色と大きな片翼。白く透き通る肌。そして、綺麗で澄んだような青い瞳……。
 僕は初めて生きていてよかったと思えた。白く優しい天使に会えたのだから。
 そんな彼女は、嬉しいのか1面白いこの世界を美しく舞っていた。




 そんな彼女の姿を僕は一生忘れることは出来ないと思う。
 深夜1時を回り僕はただただ白い世界を横目に舞い踊る、白鳥を見つめていた。

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