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Color

春野ひより

Color Prolog

 

 静けさのなかにキリキリと酷く静かに、
 まるで水面にひとつの水滴を垂らして
 波紋が広がるような音が浸透していく。

 客観的に見れば、この空間はそう
 見えているだろう。
 だが実際その音は自分の胃の中で
 響いている。
 生きとし生けるものが静止しているような
 この空間で、自分だけが動いている
 錯覚に陥る。

 これを失敗したら。

 大丈夫だ。落ち着け。いつも通りに。
 28m先の戦友を見とめ、体内の爆発を待つ。
 やがて風を切るような音とともにパンと
 心地の良い音が空間に響く。

「よし」

 普段は嬉しく思う声援でさえ
 この時間はただの重圧にしか感じない。
 百人をゆうに超える人々の目に晒されている
 この時間に未だになれないでいるのは、
 きっと自分に自信が無いからだ。

 けれどもうやるしかないのだ。
 敵を前に逃げられない。
 大丈夫だ。落ち着け。
 きっと、うまくいく。




「お前のせいで負けた」

 〇×××〇×××の記録が僕に重くのしかかる。
 うまく息が吸えず、身体の中心に巨大な鉛が
 あるかのような重い感覚があった。

 僕は、失敗した。

 大事な舞台で、仲間を道連れにして
 失敗したのだ。
 その日、予選通過校に僕らの高校の名前は
 呼ばれなかった。

 こうして、僕らの全国大会優勝への道は、
 僕の手によって閉ざされた。




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