不器用プラトニックラブ

風吹雪華

23話 叶えたい夢

体育館は騒めき出す一方。

「羽瀬北が病気?」

「マジで言ってんの?」

「でも、嘘言っているように見えないよ。」

「仮にホントだったとしたら、今まで琴嶺も先生も隠してきたことになるぞ。」

「じゃあ、今は入院中ってこと?」

1人の男子生徒が、私に向かって泣きながら叫んで言った。

「何で俺達に言ってくれなかったんだよ!」

「それは…」

言葉が詰まる。

でも、ここではっきり言わなくちゃ…!

「皆に言ったら、悲しくしてしまうっていうのもあるけど、それ以上に、1番知っている私が、心苦しくなるから…。
  だって、1番近くで見てきたし、大切な人だから…!」

私は飛び出して、屋上まで走った。



屋上-

空を眺める。

あぁ、今日も快晴。

澄んだ水色だなぁ。

「はるちゃん!」

「…穂架?」

「はるちゃん、この前はごめんなさい!」

「えっ?」

「穂架、何も分からずに、はるちゃんに酷いこと言っちゃった。
  結生君のことで、ずっと悩んでたんだね…。」

「…私も早く言わなくちゃって思ってたの。
 でも、言い出せなくて…」

「そんなの当たり前だよ。
  穂架だって、そんな事言えないよ。
   …さっきはるちゃん、結生君は一生眠ったままって言ってたよね?
  じゃあ、何時目を覚ますの?」

「…先生は、もう起きないだろうって言ってた。
 今も夢を見てると思うけど、現実でも起きるかもしれないって思ってるらしいの…。」

「…ねぇはるちゃん。
 私の知り合いで、医者をやってるの。」

「え?」

「正確には、医者兼先端技術開発者かな?」

「そんな人がいるんだ…。」

「はるちゃん、結生君を助けたいんでしょ?
  だったら、専門の大学があるから、そこに進んでみたら?
  もう直ぐオープンキャンパスがあったと思うから、行ってみて損は無いと思うよ?」

「うん…。」

こういう時でも、穂架は私のことを心配してくれる。

本当に、ありがとね…。



職員室-

旭緋先生に呼び出された。

「琴嶺さん、最近様子がおかしいと思ったら、そういう事があったのね。
  先生も気が付かなくて、ごめんなさい。」

「先生のせいじゃないです!
  私が早く言わなかったのが悪いんです…。
  大事な事を伝えたいのに、伝えられなかった私の責任なんです!」

「…琴嶺さん。
 ねぇ、今日のお昼休み、屋上で先生と一緒に食べない?」

「え?」



昼休み-

「先生の弁当、美味しそうですね!」

「そう?
  嬉しいわぁ!」

「中々手作りって難しいから、料理が出来る人に憧れるんです。」

「そうなの。
   …先生もね、元々結婚してたの。」

「そうだったんですか!?」

「えぇ。
  ある時にね、旦那さんが亡くなっちゃたの。」

「え…?
  何でですか?」

「事故に巻き込まれてね…。
  庇って、人を助けたの。
  良い人だったわ…。」

「そう、だったんですね…。」

「もし庇わなかったら、今も幸せに暮らしていると思ってるの。
  あの人は、良いことをして逝ったから、私はそれで満足なの。
  だから、琴嶺さんの弁論を聞いて、凄いなぁって思ったの。
  羽瀬北君の為にそこまでやるのは、先生でも出来ないなぁ。」

先生も、大切な宝物を失った1人だったんだ。

「先生、私、絶対に夢を叶えたいんです。」

「そうねぇ。
  先生も、琴嶺さんに合う大学を勧めないとね。
  一緒に探しましょうね。」

この先生は、怒ることもなく、私の意見を尊重してくれた。

本当に良い教師だ。



音楽室-

「はるちゃん、ホルンの手入れ出来た?」

「何とか出来てるよ。」

「…ねぇはるちゃん」

「ん?」

「結生君の御見舞、穂架も行ってもいい?」

「…勿論いいよ。
 結生も喜んでくれると思うよ。」

「えへへ、うん!」

結生、私、結生のこと言って、本当に良かったと思ってるよ。

私ね、夢が出来たの。

今まで、何をしたいかっていうことが無かったんだけど、結生の事があったきっかけで、夢を叶えたいって思うんだ。
        
だから、待っててね、結生。

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