サイク屋

チャンドラ

解体コンテスト パート2

 解体コンテスト当日、工はコンテストへと向かっていった。コンテスト開催の日はサイク屋の定休日であった。
「さーて、ちょっくら優勝してくっかな!」
 そう呟き、意気揚々と会場へと入って行った。 工の想像より会場にはたくさんの人がいた。 会場にいる年齢層はバラバラであった。 工と同じくらいの年齢の青年もいれば、アラサーくらいのいかにもサラリーマンって感じの人もいた。 なかには工と同じくらいの女性もいた。

開催時間になり、司会っぽい人がマイクは持った。
「みなさん、本日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます! お時間になりましたので、解体コンテスト開催したいと思います。」
 会場が静まった。 視線が司会へと向けれれていく。
「では、みなさん、みなさんから見て壁側にある、参加者様の名前が書かれている机の前にお座りください。」
 そういわれ、参加者は自分の名前が書かれている机に向かい、着席した。机の上には機械と工具が置かれていた。これを使って解体していけってことなのだろう。4,5人くらい試験監のような人がいた。
「みなさん、席に着きましたね? 現在参加者は全員で35人います。 まず予選を行い、16人へと絞りたいと思います。机の上に機械と工具が置いてあると思います。 スタートの合図でこの機械を解体し始めてください。制限時間は10分です。 解体した進捗度合いで採点していきたいと思います。3分後に始めたいと思いますので、みなさんそのままお待ちください。」
 会場に緊張が走った。 無限とも思える時間の中、会場の人たちは神経を研ぎ澄ませていた。
「よーい... はじめ!」
 工は、合図と同時にレンチとドライバーを持って、ものすごいスピードで解体を始めていく。目にも留まらない速さで手を動かして解体を行った。 ちなみに他の参加者のほとんどは、工より慎重に解体をしていた。 なにせ、無茶に解体をしようとすると、部品を傷つけて、減点になるため、丁寧に解体をするのがセオリーなのである。

「時間終了です! 工具を置いてください!」
時間終了時間となり参加者たちは、手を止めた。
「それでは、みなさん、ただいまから審査致しますので、席から離れてください。 審査の結果までは1時間くらいかかりますので、それまでみなさん休憩となります。」

休憩時間となり、工はコンビニへ向かい昼食を買いに出かけた。 工は自分で本選出場を感じていた。
昼食でサンドイッチと爽健美茶を買ってきて、会場で昼食を食べていると、参加者の女性が工に近づいてきた。
「隣、いいかしら?」
 突然、話しかけれて驚いた工であったが、参加者の女性に返事をした。
「あ、ああ、どうぞ。」
「ありがとう、私は東帝大学3年の鈴木優っていいます。 あなたのお名前は?」
「俺は平賀工っていいます。よろしく。」
「よろしくね。 工くんも大学生?」
「いや、俺は一応社会人かな。 親父の店を経営してるんだ。」
「そうなんだ、若いのにすごいのね。 予選中あなたの動きを少し見てたの。 ものすごい速さね。 私以外にここまで早く機械を解体できる人がいるとは思えなかったわ。」
「...」
 工は解体中は夢中になっていて、他の参加者を見る暇などなかった。 他の参加者も同様だろう。 この鈴木優という女性は、解体作業をしながら、他の参加者を観察していたというのだろうか。
「どうやら、解体屋コンテストの中では工くん、君が一番の強敵になりそうね。 あなたも優勝目指してるんでしょうけど、私も全力でいくから、よろしくね。」
「ああ、俺も手加減しないからな。」

休憩時間が終わり、結果発表の時間となった。
「皆様、長らくお待たせしました。それでは、結果発表となります! 本選出場者の順位の低い人から発表していきたいと思います。 第16位 伊藤健二さん! 第15位 ...」
次々と本選出場者が発表される。 
「第二位 平賀工さん! そして、第一位 鈴木優さん!!」
 工は驚愕した。 まさか、自分より早く解体できる人物がいるとは思ってなかった。 工は解体より発明のほうが得意ではあったが。
「本選ではトーナメント形式となります。 1VS1で同じ機械の解体を行い、点数のいい人が次の戦いへと進むことができます。制限時間は予選と同じく10分です。 こちらがトーナメント戦です。」
 電光掲示板にトーナメント表が映し出された。 工と鈴木優は逆ブロックであった。
「では、1回戦を始めます! 鈴木優選手と五十嵐徹選手の戦いです!」
 二人は席について、解体に向けて神経を集中させていた。
「よーい.. 始め!」
 工は優の動きに注目していた。 すると、5秒間ほど、機械を観察したのち、工具を持ち出した。 そして、工と同等いやそれ以上の速さで、解体していった。 優の解体捌きを見ていた人々は驚嘆の声をあげていた。
「はやい...」
 工も思わずそう呟いた。 
「時間終了です! 工具を置いてください!」
 結果は明らかであった。 五十嵐徹は解体が終了していないのに対し、鈴木優は完全に解体が終わっていた。
「鈴木優選手の勝利です!」

そうして、次々と対戦が行われていき、工も危なげなく決勝戦までたどり着いた。 決勝の相手は勿論、鈴木優である。
「いよいよ、決勝戦です! 決勝戦では3回勝負となります。 先に2勝したほうの勝利です。 では、2人とも席にお座りください。」
工と優は席に着いた。会場全体に緊張が走った。

「では、決勝戦第一ラウンド.. スタート!」
 合図と同時に工はスタートダッシュを切った。 準決勝戦までよりも一段と早く手を動かしていった。 対して優は何秒か機械を観察した後、解体を始めた。
 会場にいる人たちは工と優の解体捌きに息を飲んでいた。傍目的には工のほうが素早く解体できているようだった。
「時間終了です! 工具を置いてください!」
 試験監の人が二人の解体した機械回収し、審査を始めた。 準決勝まではすべてワンサイドゲームだったが、決勝は二人の力が拮抗しているため、審査に時間がかかってるようだった。
「審査の結果...  第一ラウンドは平賀工選手の勝利です!」
 工は安堵した。 工は優のほうに目をやると、顔色一つ変わってなかった。 それが少し不気味だった。 10分のインターバルを挟んだ後、第二ラウンドスタートの時間が訪れた。

「それでは、第二ラウンドの時間となりましたので、平賀選手と鈴木選手、席にお座りください。」
ふたたび会場に緊張が走った。
「では、決勝第二ラウンド... スタート!」
 工は第一ラウンドと同様にスタートダッシュを切り、解体を進めていった。第一ラウンド同様のスピードを解体を進めていった。
 優のほうは、第一ラウンドとは違い、機械を観察することなく、すぐさま解体を始めていった。 解体スピードは第一ラウンドの時以上であった。 工と優2人の解体捌きに会場が驚愕していた第一ラウンドとは異なり、会場の視線は優に集まっていた。 誰の目にも優のほうが優れていたのである。

「時間終了です! 工具を置いてください!」
 ふたたび、機械を回収され、審査が始まった。 しかし誰の目からにも優の勝利が明らかだった。
「審査の結果...  第一ラウンドは平賀工選手の勝利です!」
 工は肩を落とした。
「いよいよ次は最終ラウンドとなりました! 盛り上がってきましたが、これより休憩時間となります。休憩時間は30分となります。」
 工はトイレへと向かった。
(勝てない....)
 工はそう感じていた。 第一ラウンドまでの鈴木優はおそらくまだ本気ではなかったのだ。 工に先取されたことで本気を出す始めたのだろう。

「... 苦戦しているようだね 工」
「親父...」
 トイレに工の父親、平賀源が入ってきた。
「来てたのか。 気づかなかったぜ。」
「... 私は裏で審査の方を担当していてね。 工の様子はモニターから見ていたよ。 次勝てば優勝だな。 頑張れよ。」
「... 多分、無理だ。 勝てない。 あの鈴木優とかいうやつ強すぎる。」
 工は父親に不安な気持ちを言った。 自分でも驚きであった。
「らしくないな。 工、お前がそんな弱気になるなんて。」
「...はっきり言って今のお前が鈴木優と戦ってもおそらく負けるだろう。 だが、アドバイスするとしたら解体ではなく発明をしているときのことを思い出して試合に臨むべきかもしれないな。」
「発明するときの...?」
 思いがけない源のアドバイスに工は驚いた。
「... ああ、分かりやすく言えば今のお前は楽しそうに解体していない。 それに比べて鈴木優は解体そのものを楽しんでいる。 子供のころのお前は機械の分解を心のそこから楽しんでいたな。 はっきり言って子供の頃のお前の方が今のお前より強かったかもしれん。」
「...」
 子供の頃の自分の方が今より早く正確に解体できるだと? あのころは無我夢中で強引に分解して機械をぶっ壊したこともあった。
「... お前が力を出し切ることができれば、鈴木優に勝利できるだろう。 頑張れよ、工」
 源はトイレから出て行った。
 (子供の頃、俺はどんな風に機械を分解していたんだ?)
 答えが出せないまま、最終ラウンドの時間が訪れた。

「さぁ! みなさん、長らくお待たせいたしました! いよいよ最終ラウンドのお時間です! では、平賀源選手と鈴木優選手、スタンバイお願いします!」
 平賀源と鈴木優は席に着いた。 会場が静まりかえる。
(子供の頃の自分... 子供の頃の自分...)
 工はひたすら過去の自分の感覚を取り戻そうとしていた。
「では、決勝戦最終ラウンド.. スタート!」
工は、第二ラウンドと同様の速さで解体を進めていった。 しかし、それ以上の速さを出すことはできない。
(このままじゃ、負ける...)
 そう直感していた。 半ば諦めかけの気持になっていた。 工は優の方に目をやると、工以上の速度で解体していた。 まるで小さい子供のような感じであった。
(そうだな、せっかくの決勝戦、楽しまないとな)
 工はそう思った瞬間、リラックスすることができた。 残り時間3分あまり、彼の解体速度は大きく上がった。
「おい、あいつのスピードどんどん上がってないか!?」
「ああ、本当だ!」
 鈴木優の神技に目を奪われていた観客も工の解体のスピードアップに注目し始めた。
(思い出してきた... 俺が小さい頃、どんな風に解体してたか、ただひたすら解体そのものを楽しんでいたな...)
そして、試合終盤、ついに優をも超える解体速度にまで達した。
「時間終了です! 工具を置いてください!」
 試合が終わり、審議の時間が始まる。 2人は機械をほとんど余すことなく解体し終わっている。 試合は、解体の正確さが鍵を握るだろう。

「それでは、いよいよ優勝者を発表します! 解体コンテスト優勝者は... 平賀工選手です!」
 会場から歓声が上がった。 たくさんの拍手が工へと向けられた。
「それでは、優勝者の工選手、こちらへお上がりください。」
 工はステージへと上がり、司会者からトロフィーを受け取った。
「平賀工選手にはこちらの優勝トロフィーと、RSF産の自動運転手が贈られます! 工選手おめでとうございます!」
 ふたたび、工に拍手と歓声が贈られた。
「参加者の皆さん、本当に熱い戦いをありがとうございました! では、次大会が開かれるときにまたお会いしましょう!」
 こうして解体コンテストは幕を下りた。

帰る支度をしていると、鈴木優が工に近づいてきた。
「今回は負けたわ。 悔しいけどあなたすごいわね。 でも、次は負けないから!」
「ああ、俺ももっと腕を上げておくよ。」
工と優は握手を交わした。
「ところで、あなたのお店ってどこにあるの?」
そう聞かれたので、工は店の場所、工が発明した機械があることなどを伝えて、優と別れた。

解体コンテストから3日後、源がサイク屋にやってきた。
「親父....!」
「.... 優勝おめでとう、工。 約束通り、お前がかつて遭遇した、河童について説明したいと思う。」



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