異世界に行ってみたら性別が変わっていた

チャンドラ

エレベーターで異世界に行く方法を試したら……

 俺の名前は一関泉いちのせきいずみ。高校三年生だ。俺は野球部に所属している。だが、補欠である。

 まぁ、しょうかないでしょ実力ないんだしと俺は半ば諦めている。しかし、俺は三年の中で唯一ベンチ入りもせず、一年と一緒に声出しや球拾いをさせられている。ひどい扱いだ。今日も気分が乗りないながらも部室に向かう。

「お疲れ様です。」
 俺は部室に向かう途中、顧問に遭遇したので一応挨拶する。顧問は上手いやつに贔屓するのに定評がある。
「ごくろうさま……」
 いかにも興味のない感じに返された。まぁ、やつにとっては補欠の俺なんか眼中にないんだろう。俺も部活を続けているのはただ、内申が良くなるからやっているに過ぎない。

 俺は今日も一日、タメの三年のレギュラー連中に球拾いや道具出しなど一年と一緒に、いいように使われながら部活を終えた。

 部活の帰り道、レギュラーの三年どもが彼女と一緒に帰ってるのを横目に見ながら帰宅する。試合に出てるレギュラー九人は全員彼女もちだ。特にキャプテンの久慈輝くじあきらは、女子バレー部のキャプテンであり学校一の美人と評される女性と付き合ってるらしい。羨ましいかぎりだ。

 俺は、今の生活は全く楽しくない。家貧乏ではないが大して裕福ではない。俺の頭はそれほど良くもない。志望する大学にいけるかかなり怪しい。部活の連中は全員馬が合わない。内向的な性格のため、同じクラスにも友達がいない。

 人に誇れるものが欲しいと常々、泉は考えていた。しかし、泉にはこれといって、得意なこともない。趣味もせいぜいブックオフへ行き、ラノベや漫画を立ち読むことくらいしか趣味がなかった。

    憂鬱な気持ちになりかけていたら突然、カップルの会話が耳に飛び込んできた。

「なぁお前? 異世界に行ける方法が話題になってるんだけど知ってる?」
 カップルの男の方が言った。
「え〜? なにそれそんなの信じてるの〜? 受けるんだけど〜」
 彼氏をバカにするように女が答えた。

 どうやらこのバカップルの話を聞いたところ、エレベーターでとある行動をすると、異世界に繋がるらしい。

    スマホで『異世界に行く方法』と調べたらすぐに出てきた。こんなくだらない世界から抜け出せて、異世界に行くことが出来れば確かに面白いが、実現するには誰も利用しない十階以上のエレベーターが必要らしかった。そんな場所都合よくあるわけないだろうと泉は思った。

 いや、あった。泉はとある場所を思い出した。近くに十三階立てのビルがある。そこでは、ヤクザが利用していると噂されていて誰も寄りつかないとのことだ。泉はすぐに異世界に行く方法を試してみたいという衝動に駆られた。しかし、本当にヤクザがいたらどうしようという思いもあった。

 ――よし、行ってみよう。いざとなればすぐに逃げてしまえばなんとでもなるだろうと軽い気持ちで考えていた。急ぎ足で、目的地のビルに向かった。

 目的地につき、早速異世界に行く方法を実践する。まず、エレベーターに一人で乗り込む。泉が調べたサイトによると絶対に一人で乗り込まなければいけないらしい。

 次に四階、二階、六階、二階、十階へと移動する。この時、誰かが乗ってきたら成功しないらしい。しかし、運良く誰も乗らずにいけるのだろうかと泉は思った。最初に四階についた。誰もいないようであった。二階、六階、二階へと運良く誰も乗り込んで来なかった。勝負の分かれめである十階へと移動する。果たしてどうか――

 運良く、十階には誰もいなかった。そして、スマホの情報によると、降りずに五回に行くらしい。泉は五階のボタンを押した。スマホの情報の通りなら、若い女が女性が五階に乗り込んでくるようだ。若い女には話しかけてはいけないらしい。そして、五階へと到着した。

 扉が開いて、人が乗り込んでくる。乗り込んできたのはなんと――

 どう見ても普通の中年のおっさんだった。

 泉はずっこけそうになった。所詮都市伝説ということか。泉は一階のボタン押した。情報通りなら、降りずに十階に行くらしいが、普通にエレベーターは一階に向かっている。そうして一階に着いた……と思ったら、エレベーターはすぐに再び上に向かっていった。

「え!?」
 思わず泉は声を上げた。何やらおっさんがこちらを見つめている。泉は鳥肌が立っていた。

 エレベーターは十階に着いたと思ったら、なんとさらに上へと上昇している。ありえない光景に泉は恐怖を感じていた。

「お前が望んだことだろう?」
 おっさんが俺に話しかけてきた。いや、話しかけてきたというよりは脳内に直接語りかけきているという感じだ。

「お前何者だ!?」
 俺はおっさんに正体を訊いた。すると、おっさんの容姿がぐにゃぐにゃとどんどん変わっていく。そうして先程のおっさんとは似ても似つかない茶髪で長髪のハーフを思わせる顔立ちの綺麗な女性の姿になった。

「こちらの世界とあちらの世界。お前が選んだのはどちらだ? まさかたまたまあちらの世界に行く方法をしたわけではないな?」
 元おっさんもとい綺麗な女性は俺に脳内で語りかけてくる。何がなんだが、よく分からない。

「お前は元の世界が嫌になったのだろう? だから案内してやるのさ。お前が求める世界にね。私の役目はこれまでだ。それじゃあな。」
 エレベーターの扉は開き、綺麗な女性は出て行ってしまった。追いかけるように泉も扉の外に出た。すると目には信じられない光景が飛び込んできた。

「なんだこれは……アレはお城?」
 外へ出ると先程の女性はいなくなっているようだった。扉の外は元のいる世界とは異なり、西洋風の城下街のようであった。奥の方には立派な西洋風のお城が目に飛び込んできた。ちなみに扉はどっかのお店の扉になっていた。スマホを取り出してみると、普通にスマホは使えるようだった。とりあえずメールを送ってみようかと開いてみたが、どうやら圏外のようだった。

 そこで、この世界をカメラに収めようと写真を取り出した。どうやらカメラは使えるようだ。何枚かお城の写真を取る。そして今度は自撮り用のカメラに切り替えた。すると――


 画面に写り込んだのは自分とは似ても似つかない金髪の美少女が写っていた。
「ええ!?」
 泉は驚きの声を上げた。胸を触ってみると紛れもない本物の女性の胸である。とても柔らかい。服装も女物を身につけている。着ているのはスカートのようだ。どうやら写っているこの美少女は本当に泉自身のようであった。城下街のお店のガラスを鏡代わりにみると、同様に金髪の美少女が写っている。



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