ヒッキーな妹と佐川な兄

チャンドラ

ヒッキーな妹と佐川な兄

「ただいまー!」
「おかえり。おにぃ、腹減った。はよ飯。」

 家に帰宅すると、妹が飯を要求しやがった。
 俺は、佐川浩史さがわひろふみ。佐川宅急便の社員として、働いている。別に苗字は全く関係がない。妹の名前は、佐川明日香さがわあすか。うちの妹で、今年で十六才になるいもうとだか......

 この妹は、引きこもりである。現在、絶賛不登校中である。

 この妹は、兄の自分から見ても、美人なのだが、頭が壊滅的に悪く、人に影響を受けやすいところがある。

 高校に通い始めたばかりの頃、この妹は、YouTubeで、プロゲーマーの動画を見て、影響を受けたことで、自分もプロゲーマーを目指す! とほざいて、引きこもり生活を始めやがった。

「おい! 引きこもり! いい加減学校通え。」
「ふん。私に学校という、狭い世界で行きるなんて考えられない。世界中のゲーマーが戦いを待っている!」

 こういって、学校に通う気配がない。別に学校でいじめを受けてるわけでなないらしいのだが、(一応、担任の先生に聞いてみた)行こうとしない。

 俺と明日香は、二人暮らしをしている。父親は、単身赴任のために出稼ぎに、母親は、なんか家を飛び出した。本当なんでだろう。
 俺は今年から社会人になるため、二人暮らしでも問題ないだろうということで、妹と二人暮らしをすることになった。

 正直、一人暮らしをしたかったのだが、妹は俺よりはるかに家事の類ができないため、父親にどうかお願い! と頼まれた。
 幸い、毎月食費などを振り込んでくれる。

「お前、正直ゲームの腕、俺と大差ないだろ。」
 妹は、自分がゲームが強いと思い込んでいるのだが、ゲームをたしなむ程度にしかやらないが妹は俺に普通に負けることがある。
「私は、戦えば戦うほど強くなる。」
「随分と、成長速度の遅い戦闘民族だな。」
「そ、そこまで言うならおにぃ! 勝負だ! 吠え面かかせてやる!」
 やべぁ、変なスイッチを入れてしまった。仕事で疲れているため、ゆっくりしたい。適当にあしらっておけば良かったと後悔した。
「わかったわかった。ご飯食べ終わってからな。今日はハンバーグでいいか?」
「え! ハンバーグ! うん!」
 明日香の機嫌が良くなった。普通に夕食の献立に喜んでるのを見て、俺は妹は可愛いと感じるが、とりあえず不登校をやめて欲しい。

 俺は、夕食を作る。妹は入浴に行った。引きこもりなんだから、少しは家事を手伝えと思う。家事の全てを俺が担当している。洗濯ももちろん全て俺がやっている。どこの世界に妹の下着を洗濯する兄がいるんだろうか。もちろん俺がやっています。ちくしょう。

「おにぃーーーーーーーー!!!!!!!!」
 全裸姿で明日香が風呂から飛び出て、俺に抱きついてきやがった。もちろん、性的興奮はミドリムシの大きさほども感じない。
「なんだ、騒がしいな。」
「ふふふふ、風呂になめくじがいた!」
 今は、梅雨の季節だが、この時期になると、湿度の高い風呂場によくなめくじが出没する。出没するたび、俺が最強の武器、博多の塩でなめくじをぶっ倒しているのだが、明日香はなめくじがでると毎回俺に頼る。

 塩をふりかけるだけだよ? と諭しているのだが、近づくと邪悪なオーラに毒されて、身動きが取れなくなるのだという。平たく言うと怖いらしい。
「しゃーねぇな。とりあえず、俺がなんとかするから、しばらくここで待ってろ。」
 そういい、俺は、博多の塩を持って、風呂場にいき、なめくじをやっつけた。
「ほら、なめくじ退治したぞ、早く風呂に戻れ。」
「あ、ありがとう。おにぃ。」
 水浸しになった床を拭き、再び夕食作りを再開する。
 料理の内容は、ハンバーグと、味噌汁と水菜ときゅうり、プチトマトをつかった野菜サラダである。クックパッドを見て、作った。

 風呂から上がり、パジャマに着替えた妹が今か今かとばかりに夕食を待ちわびている。

「夕食出来たぞ、食べるか。」
「うん、おにぃ! 早く!」

 急かす妹をあしらい、茶碗にご飯をよせ、夕食を食べる準備をし終えた。
「それじゃ、いただきます。」「いただいまーす!」

 妹は、早いスピードでご飯を食べていった。
「あんまり、がっついて食べんなよ! よく噛んで食え。」
 俺は、妹に注意した。
「うん!」
 そういい、ペースを下げてご飯を食べた。それとなく不登校になった訳を訊いてみることにした。
「なぁ、明日香お前やっぱり何かお前、なんか学校に行きたくない理由があるのか?」
「そ、そんなのないよ! トップゲーマーになるのに専念したいからさ。」
 行きたくない理由を聞いてもそれしか言わない。本当にそれが原因なんだろうか。
「今の現状見たら、お父さんが悲しむぞ。」
「う......」
  妹の様子が暗くなった。俺たちの父親は厳粛な父親であるため、父親のことを話題に出すと静かになる。
「最悪、お父さんの住んでる街の学校に転校させられるかもしれんぞ。」
「うう......」
「だからさぁ、学校に......」
  そう言いかけた時、妹が突然立ち上がった。
「おにぃのばかーーーーーーーーー!!!」
 そう叫び、妹が家を玄関に駆け出した。
「ちょ!? おい!」
 急いで、妹を追いかけた。玄関までダッシュすると、明日香は、靴を履いて、出て行く気、満々という感じだった。
「どこに行くんだよ!?」
「うるさい! 鈍感! 個体値0V! 思いやり無振り! 引きこもり!」
 ポケモン廃人にしかわからない単語の罵声を俺に浴びてきた。引きこもりはお前だと突っ込みたくなったが。
 妹は、ものすごい勢いで家を飛び出してしまった。

 しまったと思った。言いすぎた。引きこもりの圧倒的正論を言っても逆上するのがオチだ。
 とりあえず、明日香が、行きそうなところを探すかと思った。仮にも、パジャマを来た若い女性が夜遅くに出歩けば、変質者に出会うかもしれない。妹は頭が壊滅的に悪いため、ほっておけはおけないと思った。

 支度をして、あいつが行きそうなところを探し回った。近くのコンビニ、漫画喫茶など探したが、いずれも見つからなかった。

 歩いて二十分の所の、ゲームセンターに行ってみた。プロゲーマーを目指しているというあいつなら、そこにいるかもしれない。

 格ゲーコーナーのところに向かうと、明日香らしき人物がいた。なんか、三人の男に絡まれていた。
「お嬢ちゃん! 俺たちとさぁ、一緒にカラオケに行こうぜ?」
「パジャマ姿ってことは、あれだろ? 家出したんだろ?」
「なぁ、いいだろ? 一緒に楽しいことしようぜ?」
 妹は、青い顔に変わっている。どうやら恐怖を感じているらしい。全く、考えもなしに家から(しかもパジャマで)飛び出すから......
「なぁ、お兄さんたち、その辺にしといてくれないかな?」
 俺は、三人の男たちに話しかけた。
「なんだぁ? お前? この女の彼ィ?」
「お、おにぃ!」
「おにぃって、お前ら兄妹? いやぁ似てないわー。兄ちゃん、地味で持てなさそう。隠キャって言われてたっしょ?」
 プツンと俺の頭の中で、音がなった。

「なぁ、お兄ちゃん、妹ちょっと貸してくれ......あべし!!!!」
 そういい、三人のうち、一人が倒れた。気を失ったようだ。俺が、奴に腹パンしたのだが。佐川宅急便では、日々の仕事が体力勝負である。肉体労働も多い。仕事で鍛えられた、命中率五十、威力百のばくれつパンチを奴の腹にお見舞いしてやった。
「お、おまえ? 今何をした?」
「え、さぁ? とりあえずさ、連れの人気を失っちゃったし、ここは帰ってくれない?」
 俺は、笑顔で柄の悪い男たちに諭した。
「は、はい!」
 気を失った男を二人で抱えて、そそくさと退散していった。

「おにぃ! わ、私、ちょう怖かった......」
 明日香は、泣きながら俺に抱きついてきた。叱ってやろうと思ってたのだが、あまりに可愛そうだと思い、よしてやることにした。俺は妹の頭を撫でてやった。

「そうか。俺も言いすぎた。悪かったよ。一緒に帰ろう。」

 歩いて五分ほど、お互い無言だったが、妹が口を開いた。
「私が、学校に行かなくなったのは、おにぃが私に構わないようになってなんか、寂しかったから......」
 そんな理由で、引きこもったのか。やれやれと思った。
「そうか、今まで悪かったな。俺ももう少しお前と一緒に遊んだりできるようにしておくよ。その代わり、学校にはちゃんと行けよ!」
「うん! ありがとうおにぃ!」
 可愛らしい笑顔で、明日香は答えた。どうやら明日にでも学校に行ってくれそうである。とりあえず安心した。

 次の日。
「起きろ! 明日香! 朝だぞ。学校に行け!」
「う......ん、まだ眠い。明日から行く。」
「今行け! 明日野郎は馬鹿野郎ってよく言うだろ。」
「私の座右の銘は、明日は明日の風が吹く。」
「お前は星のカービィか! いいから早く起きろ!」
 明日香を叩き起こし、学校へ行く、支度をさせた。

「それじゃ、明日香、行ってらっしゃい!」
「行ってきます! ねぇ、おにぃ......」
「なんだ?」
「帰ったら、一緒にゲームしようね!」
 妹のお願いに思わず微笑んだ。
「ああ、学校頑張ってこいよ。」
 俺も佐川宅急便での仕事を頑張ろうと心に誓った。

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