青春勇者はここにいる!
第15話「勇者であるということ」
待浩二は勇者である。
まずは、メンバー達にそのことについて説明する必要があるだろう。
俺は、自分が異世界の勇者であったこと、其処で五年間も暮らしていたことを簡潔に話した。
当然、彼女らはすぐには信じようとはしなかった。なので当初の予定通り、実際に勇者の力を見せることにした。
「じゃあ其処でズボンを脱いでチ◯コ見せてみろよ。本当に勇者様なら、さぞかし立派なモノをお持ちなんだろうさぁ? クッヒヒヒヒィ!!」
富永がド級の下ネタをぶち込んできたので、幻惑魔法《極楽》を放つ。これは、相手を最高に良い気分にさせる非常に無害な魔法だ。敢えてデメリットを挙げるならば、幸せ過ぎて無気力になる、自分の命すら気にならなくなることだろうか。
「あ〜〜♪ 幸せだわぁ〜〜♪ 幸せ過ぎて、生きるのとかもうどうでも良いわぁ〜♪」
「……え、愛久?」
佐々江さんは、突然アホ面を浮かべ出した同僚に困惑している。
……悪いな佐々江さん。だってこの馬鹿、口を開くとロクなことを言わないんだもん。
「簡単な説明は以上だ。異世界最強、魔法を極めし全知全能の存在とは俺のことよ」
「……にわかには信じられないわね。同級生がほんの一瞬の間に五年間も異世界に、しかも勇者として過ごしていたなんて」
「だが事実だ。まあ信じるか信じないかはお前らに託すよ。……出来ることなら、俺が元勇者ことは気にせず接してほしいしな」
俺は、ここで勇者として仲間になりにきた訳ではない。かつての自分を捨て、普通の高校生として青春を送るために、謂わば友達作りのために来たんだ。
だから寧ろ、彼女らには俺が勇者であることを忘れてもらった方が都合が良い。幻惑魔法で記憶改変をすることも考えたが、これから仲良くなる相手に危害を加えるのは間違っている。
これは誠意の問題だ。力に頼らず、正直な気持ちを伝えることこそが良い関係を築く必須の条件であると俺は信じている!
「というか今だから言うけど、五年ぶりに現実世界へ戻ってきたから記憶が曖昧なんだわ。佐々江さんと俺ってそんな接点無かったよな?」
「……え?」
「え?」
その途端、佐々江さんは呆気に取られた顔した。
そして、不意に表情を暗くしてポツリと呟く。
「そ、そっか。マチくん、私との約束忘れちゃってるんだ……」
「え、あの、佐々江さん?」
「う、うぅん! 気にしないで! 元々大した約束じゃなかったし、忘れてもらっても結構だから!!」
佐々江さんは、俺に気を遣わせないためか無理に笑みを浮かべる。その笑顔はは魔法など使わなくてもすぐにわかるくらいに苦々しさに満ちていた。
えー何その表情? 何その気遣い? 俺、五年前に佐々江さんと約束なんてしてたっけ? そもそも会話をしたことがあったのかも憶えてないんだけど?
「御主人! ワタシが居ない時になに意味深なやり取りしてるんですか!!」
「エーデル!? お前、久喜さんの相手はどうした!?」
「久喜さんなら、上手く説得したおかげで立ち直ってくれました。もう大丈夫です!」
「……………………!(ガタガタブルブル」
「全然立ち直れてねえじゃねーか!! 仕事をサボるな!!」
「久喜さんは予想以上にガラスのハートのようで、二、三日経過しないと機嫌が直らないかも知れません。……それよりも御主人、さっきの話はどういうことでしょうか?」
「それよりもって言うな、ちゃんと相手してやれよ。……佐々江さんに関しての記憶はうろ覚えなんだ。ちょっと幻惑魔法を使って思い出してみるわ」
俺は幻惑魔法を発動し、自分自身の忘れた記憶を探そうとする。
しかし、佐々江さんが慌てて止めに入る。
「いいから! 大丈夫だから! 本当に、無理に思い出さなくて良いからさ!!」
「むむ、そうなのか?」
「御主人。本人がそう言っていますし、魔法まで使う必要はないと思いますよ?」
エーデルまでそう言ってくる。こいつも、佐々江さんとの約束を思い出すのに否定的な様子だ。
ふーん少し気になるが、急な用事でもないようだし、ここは二人の意見に従うか。
「ああそうだ! 俺からの説明を聞いて、何か質問等はあるか?」
「御主人、三人中二人が正常ではないので質問もクソもないと思います」
「なるほど。……富永は放っておけば勝手に効果が切れて元に戻るけど、問題は久喜さんだな」
俺のメイドは役立たずのようなので、結局俺が彼女を励ますことに。
恐る恐る部屋の隅に近づくと、久喜さんは相変わらずガタガタプルプルと震えていた。こちらを振り向こうともしないので精神的に相当やられている様子だ。
「さっきはごめんよ久喜さん。まさか着替え中だとは思ってもいなくてさ。許してくれないかな?」
「……うぅ」
返事がない。これは説得するのが大変そうだぞ。
だが時間を取る余裕もないので、やや強引だが積極的なアプローチを試みることにした。
『人との距離は心の距離』。心理学的観点からでも、他者とのコミュニケーションは肉体を出来るだけ近づけた方が親密になり易いという。俺は、物理的な互いに距離を狭めることで相手との親愛度を深める作戦を決行することにした。
という訳で、出来るだけ久喜さんとの距離を狭めるため彼女の真隣に座ってみる。
「……!」
俺が隣に現れたからか、久喜さんは少なからず動揺した素振りを見せる。
心の揺らぎ。これは弁解のチャンスだ!
「いやぁこういう時、なんて謝れば良いのかわからないんだ。でも、ここのメンバーになる以上は久喜さんとも仲良くなりたいんだ。俺が出来ることなら何でもする。だから、その、機嫌を直してくれないか?」
ああ、精一杯の謝罪をしようと思ったけど慣れてないから上手く言葉が出てこない。こんなところでコミュ力弱者の弊害が……。
それでも拙いながらも言いたいことを喋り、俺は久喜さんの様子を確認する。
久喜さんは、ワナワナと緊張しているが彼女なりに声を搾り出そうと口を開け閉めしている。
「……う、あ、だ、大丈夫」
「許してくれるのか!?」
「……うん」
「おおっ、ありがとう久喜さん!!」
俺は嬉しくて、久喜さんを抱擁した。
「……ふぇ!?」
「はっはっは!! 久喜さんって良い奴だなぁー!!
久喜さんの華奢な体は、俺の腕にスッポリ入るサイズで折れてしまいそうなくらい細い。エーデルの豊満で柔らかい体とは違う魅力がある。
俺は久喜さんの感触をしばらく堪能すると彼女を離した。満足気な表情を浮かべて佐々江さんの元へ戻る。
「いやー満足満足!」
「……御主人、貴方何をしに行ってんですか?」
「え、なんだっけ?」
「もう良いです。……話をするにはリーダーの富永さんも元に戻して方が良いかと」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはッッはっはっはっははは♪」
富永は魔法の影響下で狂ったように笑い続けている。
俺としては、こいつはもう一日中このままでも良いと思っているんだが、まあ確かにメンバーの一員になる以上リーダーに話を通さないとならないだろう。
「ふぅん! 幻惑魔法を解除するぜ!」
幻惑魔法の術を解くと、富永はハッと正気に戻った。
「はぁ!? トノサマガエル!?」
「よお富永。お前が極楽状態になっている間に俺からの説明も全部済んだぜ。二度話すのも面倒だから詳しいことは佐々江さんから聞いてくれ。じゃあ、俺はもう帰る」
説明する以外は特にこれと言って用事はない。この組織の具体的な活動内容は聞いていないが、それはまた後ほど聞くとしよう。
俺は部屋を後にしようとする。
「チョイ待ち! 待浩二、お前にはまだやらなきゃならねーことが残っている!」
その瞬間、富永は軽やかなステップで俺の前に着地した。一般人の身体能力では難しいアクロバティックな動き。富永の能力なのかも知れない。
「お前にはこれからテストをしてもらう! もし本当に強い勇者だってんなら、実際に力を使ってあたしを驚かせてみろ!!
「別に構わないが、何をやるんだ?」
「あたしと勝負しろ!!」
富永は、威風堂々とした立ち姿で言い放った。
富永愛久。
異世界の常識とは違う存在、異能者の一人。
そんな彼女から、実践を申し込まれたことに、俺が多少の緊張と驚きを感じたのだった。
まずは、メンバー達にそのことについて説明する必要があるだろう。
俺は、自分が異世界の勇者であったこと、其処で五年間も暮らしていたことを簡潔に話した。
当然、彼女らはすぐには信じようとはしなかった。なので当初の予定通り、実際に勇者の力を見せることにした。
「じゃあ其処でズボンを脱いでチ◯コ見せてみろよ。本当に勇者様なら、さぞかし立派なモノをお持ちなんだろうさぁ? クッヒヒヒヒィ!!」
富永がド級の下ネタをぶち込んできたので、幻惑魔法《極楽》を放つ。これは、相手を最高に良い気分にさせる非常に無害な魔法だ。敢えてデメリットを挙げるならば、幸せ過ぎて無気力になる、自分の命すら気にならなくなることだろうか。
「あ〜〜♪ 幸せだわぁ〜〜♪ 幸せ過ぎて、生きるのとかもうどうでも良いわぁ〜♪」
「……え、愛久?」
佐々江さんは、突然アホ面を浮かべ出した同僚に困惑している。
……悪いな佐々江さん。だってこの馬鹿、口を開くとロクなことを言わないんだもん。
「簡単な説明は以上だ。異世界最強、魔法を極めし全知全能の存在とは俺のことよ」
「……にわかには信じられないわね。同級生がほんの一瞬の間に五年間も異世界に、しかも勇者として過ごしていたなんて」
「だが事実だ。まあ信じるか信じないかはお前らに託すよ。……出来ることなら、俺が元勇者ことは気にせず接してほしいしな」
俺は、ここで勇者として仲間になりにきた訳ではない。かつての自分を捨て、普通の高校生として青春を送るために、謂わば友達作りのために来たんだ。
だから寧ろ、彼女らには俺が勇者であることを忘れてもらった方が都合が良い。幻惑魔法で記憶改変をすることも考えたが、これから仲良くなる相手に危害を加えるのは間違っている。
これは誠意の問題だ。力に頼らず、正直な気持ちを伝えることこそが良い関係を築く必須の条件であると俺は信じている!
「というか今だから言うけど、五年ぶりに現実世界へ戻ってきたから記憶が曖昧なんだわ。佐々江さんと俺ってそんな接点無かったよな?」
「……え?」
「え?」
その途端、佐々江さんは呆気に取られた顔した。
そして、不意に表情を暗くしてポツリと呟く。
「そ、そっか。マチくん、私との約束忘れちゃってるんだ……」
「え、あの、佐々江さん?」
「う、うぅん! 気にしないで! 元々大した約束じゃなかったし、忘れてもらっても結構だから!!」
佐々江さんは、俺に気を遣わせないためか無理に笑みを浮かべる。その笑顔はは魔法など使わなくてもすぐにわかるくらいに苦々しさに満ちていた。
えー何その表情? 何その気遣い? 俺、五年前に佐々江さんと約束なんてしてたっけ? そもそも会話をしたことがあったのかも憶えてないんだけど?
「御主人! ワタシが居ない時になに意味深なやり取りしてるんですか!!」
「エーデル!? お前、久喜さんの相手はどうした!?」
「久喜さんなら、上手く説得したおかげで立ち直ってくれました。もう大丈夫です!」
「……………………!(ガタガタブルブル」
「全然立ち直れてねえじゃねーか!! 仕事をサボるな!!」
「久喜さんは予想以上にガラスのハートのようで、二、三日経過しないと機嫌が直らないかも知れません。……それよりも御主人、さっきの話はどういうことでしょうか?」
「それよりもって言うな、ちゃんと相手してやれよ。……佐々江さんに関しての記憶はうろ覚えなんだ。ちょっと幻惑魔法を使って思い出してみるわ」
俺は幻惑魔法を発動し、自分自身の忘れた記憶を探そうとする。
しかし、佐々江さんが慌てて止めに入る。
「いいから! 大丈夫だから! 本当に、無理に思い出さなくて良いからさ!!」
「むむ、そうなのか?」
「御主人。本人がそう言っていますし、魔法まで使う必要はないと思いますよ?」
エーデルまでそう言ってくる。こいつも、佐々江さんとの約束を思い出すのに否定的な様子だ。
ふーん少し気になるが、急な用事でもないようだし、ここは二人の意見に従うか。
「ああそうだ! 俺からの説明を聞いて、何か質問等はあるか?」
「御主人、三人中二人が正常ではないので質問もクソもないと思います」
「なるほど。……富永は放っておけば勝手に効果が切れて元に戻るけど、問題は久喜さんだな」
俺のメイドは役立たずのようなので、結局俺が彼女を励ますことに。
恐る恐る部屋の隅に近づくと、久喜さんは相変わらずガタガタプルプルと震えていた。こちらを振り向こうともしないので精神的に相当やられている様子だ。
「さっきはごめんよ久喜さん。まさか着替え中だとは思ってもいなくてさ。許してくれないかな?」
「……うぅ」
返事がない。これは説得するのが大変そうだぞ。
だが時間を取る余裕もないので、やや強引だが積極的なアプローチを試みることにした。
『人との距離は心の距離』。心理学的観点からでも、他者とのコミュニケーションは肉体を出来るだけ近づけた方が親密になり易いという。俺は、物理的な互いに距離を狭めることで相手との親愛度を深める作戦を決行することにした。
という訳で、出来るだけ久喜さんとの距離を狭めるため彼女の真隣に座ってみる。
「……!」
俺が隣に現れたからか、久喜さんは少なからず動揺した素振りを見せる。
心の揺らぎ。これは弁解のチャンスだ!
「いやぁこういう時、なんて謝れば良いのかわからないんだ。でも、ここのメンバーになる以上は久喜さんとも仲良くなりたいんだ。俺が出来ることなら何でもする。だから、その、機嫌を直してくれないか?」
ああ、精一杯の謝罪をしようと思ったけど慣れてないから上手く言葉が出てこない。こんなところでコミュ力弱者の弊害が……。
それでも拙いながらも言いたいことを喋り、俺は久喜さんの様子を確認する。
久喜さんは、ワナワナと緊張しているが彼女なりに声を搾り出そうと口を開け閉めしている。
「……う、あ、だ、大丈夫」
「許してくれるのか!?」
「……うん」
「おおっ、ありがとう久喜さん!!」
俺は嬉しくて、久喜さんを抱擁した。
「……ふぇ!?」
「はっはっは!! 久喜さんって良い奴だなぁー!!
久喜さんの華奢な体は、俺の腕にスッポリ入るサイズで折れてしまいそうなくらい細い。エーデルの豊満で柔らかい体とは違う魅力がある。
俺は久喜さんの感触をしばらく堪能すると彼女を離した。満足気な表情を浮かべて佐々江さんの元へ戻る。
「いやー満足満足!」
「……御主人、貴方何をしに行ってんですか?」
「え、なんだっけ?」
「もう良いです。……話をするにはリーダーの富永さんも元に戻して方が良いかと」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはッッはっはっはっははは♪」
富永は魔法の影響下で狂ったように笑い続けている。
俺としては、こいつはもう一日中このままでも良いと思っているんだが、まあ確かにメンバーの一員になる以上リーダーに話を通さないとならないだろう。
「ふぅん! 幻惑魔法を解除するぜ!」
幻惑魔法の術を解くと、富永はハッと正気に戻った。
「はぁ!? トノサマガエル!?」
「よお富永。お前が極楽状態になっている間に俺からの説明も全部済んだぜ。二度話すのも面倒だから詳しいことは佐々江さんから聞いてくれ。じゃあ、俺はもう帰る」
説明する以外は特にこれと言って用事はない。この組織の具体的な活動内容は聞いていないが、それはまた後ほど聞くとしよう。
俺は部屋を後にしようとする。
「チョイ待ち! 待浩二、お前にはまだやらなきゃならねーことが残っている!」
その瞬間、富永は軽やかなステップで俺の前に着地した。一般人の身体能力では難しいアクロバティックな動き。富永の能力なのかも知れない。
「お前にはこれからテストをしてもらう! もし本当に強い勇者だってんなら、実際に力を使ってあたしを驚かせてみろ!!
「別に構わないが、何をやるんだ?」
「あたしと勝負しろ!!」
富永は、威風堂々とした立ち姿で言い放った。
富永愛久。
異世界の常識とは違う存在、異能者の一人。
そんな彼女から、実践を申し込まれたことに、俺が多少の緊張と驚きを感じたのだった。
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