青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第11話「みんなでショッピング!」

 次の日の放課後。
 俺とエーデルは、先日の騒動を教訓にエーデルの新しい服を買いに街へ繰り出していた。
 だが異世界暮らしの長い俺と、メイド服と魔王討伐用の装備しか身につけたことがないセンスゼロの俺達が現実世界に適した服を用意できるはずがない。
 そこで今回は、変わりにエーデルを着飾ってくれるコーディネーターを用意した。

「という訳で、今日はよろしく頼むぞ心愛」
「いきなり連れ出されてエーデルさんの服を見繕って欲しいと言われも……」

 半ば強引に連れ出された妹の心愛は、困り顔で俺達を見る。
 心愛は、俺とは違う高校に通う一年生。俺達は学校の授業が終わると同時にすぐ心愛の通う学校へ足を踏み入れた。で、この場所まで無理矢理運び込んだという流れだ。

「というか、うちって女子高だよ? お兄ちゃん、学校側の許可は貰ったの?」
「手続きが面倒臭いから、無断侵入のために警備の人は全員手刀で黙らせた」
「それ余計面倒臭いことになるよ!?」
「ははっ、冗談だ。本当は幻惑魔法……いや、ある日突然スマホにインストールされた怪しげな催眠アプリを使って忍び込んだんだ」
「そんなエロゲに出てきそうなアイテムを持って女子高に忍び込まないで!」

 現実世界でも通じるように上手く誤魔化したつもりだったのに失敗した。
 今日、俺達が訪れたのはおしゃれな服がたくさん置いてあるショッピングモールだ。五年前の俺はこういう店に来たことが無かったので勝手がわからん。なので、そういうのに詳しいであろう現役女子高校生からのためになる意見を求めて呼んだのだ。

「大体、私じゃなくても店員さんのアドバイスを聞くとか……」
「勿論それも参考にする。しかし、やはり歳の近い女子からの意見を聞くのも良いと思ったんだ。俺の顔に免じてここは一つ、エーデルの服を選んでくれよ」

 実は、今回の服選びにはもう一つの目的がある。
 異世界に帰還後、エーデルはうちの住人となった。しかし俺以外の家族が持つエーデルの記憶は、俺が幻惑魔法によって捏造したものだ。
 初めてエーデルと出会った日から、彼女と仲良くなっていく経緯まで全てが作り物の嘘。
 確かにそれでも生活していくには問題はない。
 だが、それではあまりにも不憫だろう。家族にしても、そしてエーデル自身にしてもだ。
 これから先、エーデルと俺の家族がどれだけの時間を一緒に居るのかはわからないけど、少なくとも家族の一員である間は、出来るだけ円満な関係を築けたらと思っている。
 だから今日は、エーデルと心愛。この二人の仲を深めるが第二の目的だ。
 そのためにも、二人には積極的な会話をしてもらいたい。

「お兄ちゃん。服代って結構かかるけどお金はあるの?」
「大丈夫だ。母さんを説得してカンパして貰った」
「よく許して貰ったね」
「母さんが『お父さんの来月分のお小遣いが消えるだけだから問題無い』って言ってた」
「お父さんのお小遣いを服代にしちゃったの!?」

 新しい家族との仲を深めるためには仕方ない犠牲だ。
 取り敢えず店内に入る。
 ここは、地元でも有名な十代の女性客を対象にした商品が置かれているアパレルショップ。店内には、既にナウなヤング達が楽しそうに服を物色していた。
 店に入ると同時に、店員のお姉さんが俺達に声をかけてくる。

「いらっしゃいませ! 今日はどのような服をお求めでしょうか?」
「この銀髪メイドにメイド服以外の服を着させてください」

 店員は、銀髪メイドが現れたことに少し驚いている様子だったが、すぐにエーデルに似合う洋服を用意してくれた。
 ……順調そうだな。この分では、俺が出る幕は無さそうだ。

「あれ。御主人、どちらへ?」
「ちょっと散歩。適当な時間になったら戻ってくるよ」

 二人同士の方が話が弾むと思い、お邪魔虫は一時退散する。
 それに五年ぶりの現実世界。俺も、店内の様子を少し見てみたい気分だ。
 どうせ服を買った後に三人で見回ることになるだろうが、思えば現実世界に帰ってからエーデルとは四六時中一緒に行動している。偶には、エーデルの居ない一人の時間を満喫するのも悪くない。

「さて、どこを歩くか……うん?」

 俺がショッピングモールをぶらついていると、長蛇の列と遭遇した。どうやらここにいる人達は、人気のスイーツ店に並んでいるようだ。
 先頭のグループが、クレープを購入して列を離れていく。買ったクレープを美味しそうに食べながら、皆で楽しそうに談笑している。
 ……クレープか。そういえば、異世界には無かったな。服が決まったら三人で食べてみるか。
 そう考えながらしばらくクレープ屋の列を眺めていると、不意にその近くで知った顔を目撃した。
 久喜遊舞。
 二年一組の同じクラスメイトで、授業中は誰からも話しかけられることのない存在感が薄い少女。
 そして、昨日見つけた秘密の部屋のメンバーであると発覚した少女だ。

「……♪」

 そんな久喜さんは、休憩スペースのベンチに腰掛けながらクレープを頬張っていた。普段のクールな表情とは裏腹に、幸せそうな笑みを浮かべてる。

「……ふふっ。る〜んる〜ん♪」

 おまけに鼻歌まで歌ってやがる。クレープを食べて非常に上機嫌な御様子だ。
 あんな顔もするんだな、と思いつつ俺は久喜さんの元へ歩み寄る。

「よっ! 奇遇だな」
「……!? ゲホッゲホッ!!」

 久喜さんは、声を掛けられたことに余程驚いたのか、飲み込むはずだったクレープが気管につっかえて咽せ込んだ。

「おいおい大丈夫か? 水、持ってこようか?」
「……ゲホッ! ふぅ……ふぅ……。な、何で……!」
「んっ?」
「……何で、私の姿、見えるの!?」

 ああ、なるほど。
 おそらく久喜さんは、例の不思議な力とやらで姿を消している状態だったのだろう。それなのに俺に発見されて驚いたと。
 だがあいにく俺は、昨日から常時《魔力の眼》を発動した状態で日常生活を送っている。現実世界にも、異例な能力を持つ者が居ると知ったので、一応念のためだ。
 しかしこの魔法、相手が普通に見えてるのか隠れてるのかがわからないのが難点だな。何とか改良出来れば良いんだが……。
 おっと。その前にまずは久喜さんの相手だな。

「俺の能力の一つだよ。通常では見えない物が見えるって力なんだ」
「……そ、そうか。じゃあやっぱり、マチくんには見えてたんだ。私のこと……」
「もしかして、授業中もずっと能力を使ってるのか?」

 そう尋ねると、久喜さんはコクリと頷いた。

「……私の能力は、存在感を失くすっていう力なんだ。アジトも私の能力で隠しているの」
「はぁ。道理で誰も久喜さんに話し掛けない訳だ」

 能力を任意で発動しているということは、やはり久喜さんは引っ込み思案な性格らしい。
 他社とはなるべく関わりたくない。……まあ、わからなくもない感情だな。
 その癖、年頃の女の子らしく甘い物を買いに放課後こんな場所まで来たのか。一人で。

「ここにはよく来るのか?」
「……う、うん。ここのクレープが好きで」
「良い趣味じゃねーか。甘い物ってのは人を幸せにしてくれるからな」

 疲れた時は甘い物。
 異世界ではこのフレーズを抱負に、戦いの後は仲間同士でよく食べてたっけ。クレープは無かったけど、異世界にはそこでしかないスイーツが沢山あったから甘味には困らなかった。

「……マチくんも、甘い物好きなの?」
「正直かなり好きだ! 今度オススメのスイーツを紹介してくれよ。食べに行くからさ!」
「……え?」
「いやぁ〜現実世界のスイーツ、楽しみだな!」

 久喜さんに紹介してもらったら、エーデルも誘って二人で行こう! 彼奴はどんなスイーツが好きだろうか……。
 って、考え込んでいる場合じゃないな。そろそろエーデルの服を選び終えた時間だろう。急いでアパレルショップに戻らなければ。

「食事中に邪魔したな。俺はもう行くよ」
「……あ、え、……うん」
「また学校で会おうな!」

 そう告げて、俺はその場を後にした。
 久喜遊舞か。人見知りだけど、悪い奴では無さそうだな。
 今のところ、秘密の部屋のメンバーに関しては無視するという方針ではいるが、それとは別にクラスメイトとして接点を持つのもというのも良いだろう。ただの友人、スイーツ仲間として、放課後に街へ繰り出すのも青春を満喫する上で悪くない選択に思える。
 それに彼女、結構可愛いしな!
 そんな妄想を働かせながら、俺はエーデルと心愛が待つ店へ辿り着く。
 店の前では、エーデルが現実世界の洋服を着て俺が戻るのを待っていた。

「御主人!」
「おお似合ってるじゃねーか! 流石はプロのコーディネートだな!」
「……一応、私も選んだんだけどなぁ」
「わかってるよ。お礼に良いスイーツ屋を見つけたから奢ってやるよ」
「おっ、お兄ちゃんにしては気前が良いね!」

『にしては』は余計だ。俺はいつだって気前が良い男だぜ。
 すると、おもむろにエーデルが俺の側によってクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。

「な、何だ?」
「……御主人の服から、ほのかに別の女の香りがしますよ?」
「やれやれ、お前の妄想に付き合うのも疲れるぜ」

 俺は、妙に鋭い嗅覚を持つエーデルを適当にはぐらかす。こういう時のこいつを相手にするとロクなことにならないからな。
 疑惑の眼を向けるエーデル。それを完璧に無視しようとしながら、俺達は例のスイーツ屋の列に並ぶのだった。

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