青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第8話「現代勇者は頭を使う」

 謎の美少女達との情報戦。
 しかし、俺にはとっておきの秘策がある。それは、異世界帰還した元勇者だからこそ扱える完全なチート能力。
 そう、魔法だ。
 面倒な腹の読み合いなどしなくても、幻惑魔法を一つ使っただけであっという間に情報ゲット。それどころか彼女達を隷属化することだって可能だ。
 ……だが、それは彼女達が現実世界の普通の女子高校生だった場合の話。
 俺達が知り得ない、未知の力を扱えるであろう人物を相手に、迂闊な行動は避けるべきだ。
 そもそも、俺達は彼女達と喧嘩がしたい訳ではない。この部屋に潜入したのだって、偶然発見したから軽い気持ちで入っただけの話なんだから。
 まずは、そのことを彼女達に伝えなければならないようだな。
 《情報の提供》。情報を得るのではなく、与えるんだ!
 最初にこちら側から相手が欲している情報を差し出せば、相手の警戒心を緩め、尚且つ相手の情報を入手し易く出来る。
 異世界で学んだ情報戦術だ。
 相手側もこちらを警戒している以上、俺達が敵対的ではないと証明しなければならない。
 そのためには、こちら側からの自発的な発言が必要になる。

「最初に、何の断りもなくこの部屋に入ってしまったことを深くお詫びしたい。昼休憩に部室棟へ立ち寄った際、偶然この部屋を見つけたので気になって入ったんだ」
「おお、それだそれ。……お前ら、何でこの基地に入ってこれたんだ? 扉には、ちゃんと鍵を閉めたと思うんだけどさ」
「そもそも、この部屋は簡単には発見出来ないはずよ。どうやって見つけたの?」

 ……さて、どうしようかな?
 俺が異世界の勇者だから、って正直に話しても良いものか?
 勿論疑われるだろうが、証明できる方法はいくつかある。信じてもらうのは難しくはないだろう。
 問題なのは、俺が強大な力を持っていると伝えて、相手がどう反応をするかだ。誰だって、素性の知れない強者が突然現れたら警戒心を強めるからな。
 しかし、秘密の部屋を見つけたことについて納得してもらうには、俺が特殊な力を持っているということは話しておくべきだ。
 ……そうだな。取り敢えず勇者であることは伏せておこう。その上で、話をしようか。

「あれは数日前のことだ。俺は通学途中、自分に不思議な能力が使えることに気がついたんだ」

 うん。自分で言ってて何だが、スゲー胡散臭いな。
 少女達は、特に表情を歪めることなく黙って俺の話を聞いている。
 今のところ、話を途切れさそうという動きはない。このまま会話を続けようか。

「姿を消せるようになったり、見えない物が見えるようになったり。……正直混乱したよ。自分はどうしてしまったんだって不安にもなった。そして、問題は解決せず時間だけが過ぎていく中で、俺は今日、この部室棟で奇妙な違和感を感じたんだ。能力を使って確認すると、何もないはずだった場所でこの部屋の存在に気付いた」

 これはただの捏造だ。言いたくないことを話す際は、偽りの情報を伝えればいい。
 相手もまた、こちらの情報を知らないんだから、あたかもそれっぽい事情を言えばそれが真実だと思ってくれるだろう。
 最も、それは彼方に対しても言えることなんだが。

「……そう。やっぱり、マチくんも私達と同じだったのね」
「んっ?」

 佐々江さんは、何かに納得したような表情で俺と視線を合わせた。何処と無く、先程までの強い警戒心が和らいだような気がする。

「実は、私達もなの。ある日突然、不思議な力が使えるようになったんだ」
「……何だと?」

 それは、どういう意味だ?
 まさか、俺みたいに異世界に召喚されたというのだろうか? それとも、全く違う原因か?
 俺は、さらなる情報を得るために、佐々江さんに話を促す。

「詳しく聞かせてくれないか?」
「……三ヶ月ほど前のことだったわ。朝起きてみると、私は体に違和感のような感覚がしたの。最初は気のせいだと思ったわ。でも、しばらく調子が悪いと思ったら、突然自分の手から炎が出るようになったの」
「炎?」
「そう、こんな風に」

 佐々江さんは、両手で器を作り、俺に見えるように前へ構えた。
 するとどうだろう。佐々江さんの掌から、突如丸い形の炎が燃え上がり出した。
 それは、火力こそ大したことはないものの、紅色の綺麗な炎だった。
 属性魔法《火炎》でも、同規模の炎が作れるが、この炎はそういうのとは異なる芸術のような輝きだと感じた。
 ……考えもしなかったな。芸術的な炎だなんて。
 俺にも同じ物が作れるだろうか? と、考え込んでしまう。
 それ程までに、彼女の炎は美しかったのだ。

「ど、どうかな?」
「おっと」

 思わず見惚れてしまっていた。
 佐々江さんは、少し困った表情で俺の反応を伺っている。早く返事を返してあげなければ。

「いやーごめん。いきなりのことで驚いちゃってさ。……綺麗な炎だな。なるほど、そういうのもあるのか」
「私が出来るのはコレだけ何だけど、他の二人は別のことが出来るの」
「ほお」

 これは良い流れなんじゃないのか? この調子で他の二人の情報も手に入れよう。
 俺は内心でほくそ笑む。

「チョイ待ち! あたしはまだ、こいつらを信用した訳じゃねーぞ!」
「…………(コクコク」

 ……しかし、そう上手くいかないのが情報戦。
 意外にあっさりと警戒心を解いてくれた佐々江さんに変わって、久喜遊舞と富永愛久はまだ俺を信頼をしていないようだ。

「……この人が敵じゃないっていう証拠は無い」
「そうだ。こいつらが信用に値するという結論を得るには、もう一つ聞かなくてはならないことがある」
「……それは?」

 富永は、ふと視線を俺の隣に向けた。
 そこに居る人物は、俺の専属メイド兼仲間兼恋人兼戦闘用アンドロイドのエーデルだった。

「?」
「この人、誰?」
「……うん。正直、一番気になっていた人だね」

 やはりそう来るか。
 いや、わかってる。どう考えてもエーデルの存在は怪し過ぎる。なんてたってメイド服の格好してるんだからな。
 どう誤魔化したら良いのか、今のところ見当がつかない。
 しかし、どうにか納得させるよう努力せねばなるまい。

「エーデル、話してやれ」
「えぇ〜。ここでワタシに振るんですか?」

 俺は丸投げすることにした。
 元々、俺は知略に長けた人間ではない。寧ろここは、戦闘も頭脳も一級品のメイド(アンドロイド)であるエーデルに任せるのが最善とみたぜ!
 話を振られたエーデルに皆の視線が集まる。
 エーデルは、少しだけ困った表情をしながらも、主人である俺の命令に従おうと背筋を伸ばした。

「改めまして。待浩二の専属メイドのエーデルです。因みに、先日御主人とは恋人関係になりました♪」

 おい。その報告は今いらねーだろう。

「こーいーべーとーだーあー?」
「……愛久、違う。『こいびと』だよ」
「んなことはわかってんだ! しかし、彼女に公衆の面前でメイド服着させてるとか……。お前の彼氏かなり拗れてるのな」
「ちげーって! 俺の趣味じゃなくてこいつの趣味なんだって!」
「まあワタシ、メイド服は趣味で着用してますが、元々本業がメイドなんですよ」

 お前の本業は魔王討伐だったろうが!
 まあ、魔王が倒されてその職務は失われたがな。
 ……ん? 
 ということはこの場合、副業のメイドが繰り上がって本業になってしまうのか?

「バッカ野郎!! どこの世界に本物のメイドさんが居るんだ!! 秋葉原か!?」
「……イギリスって、確かメイドの本場だったような」
「あたしは生まれも育ちも日の丸だっての!!」

 富永は、改めてエーデルに質問を飛ばす。

「あんた、どこの国出身?」
「ヴァイスの国です」
「ヴァイス? 何処だソレ?」
「聞いたことない国ね」

 おいおい。それ異世界の国の名前じゃねーか! もっと現実世界に即した名前を出せよ!
 ……と思ったが、よく考えたらエーデルには、日本以外に現実世界の国を話してなかった。今度教えてやろう。

「まあいいや。それで、この野郎とはいつ、どういう経緯で知り合ったんだ?」
「知り合ったのは二年前です。ヴァイスで初めて御主人と出会いました」
「因みに聞くけど、こいつのどの辺に惹かれた訳?」

 ……それ今関係なくね?
 だが、俺がエーデルに託した以上、無闇に会話を遮るべきではないな。成り行きに任すとしよう。

「……ずっと一緒にいてくれたからです」

 エーデルは、少し頬を赤らめて昔を懐かしむように思いにふけていた。
 かつてのエーデルは、戦闘用アンドロイドの肩書きに相応しい無感情な存在。まさに道具・兵器さながらの冷酷少女だった。
 勇者である俺は、そんなエーデルを任され、共に魔王が従える悪魔を倒していった。
 その間、徐々にではあるがエーデルに感情のようなものが芽生えてきたのだと思う。
 だが正直言って、俺はエーデルに何か特別なことをした覚えはない。強いていうのなら今言ってた通り、一緒に居てやったくらいなんだが。
 だから、いきなり俺の専属メイドになると言われた時は本当に驚いた。何のジョークかと思ったからな。
 確かにそれからだったと思う。エーデルがこれまでとは比較にならないくらい表情豊かになってくれたのは。
 しかし今でも謎だ。何故、エーデルは俺のメイドになると言ってきたのだろうか? 本人に尋ねても答えてくれないので未だ疑問が残るばかりだ。

「ふーんへーんほーん」

 富永は何かわかったような、わかっていないような表情でエーデルを見つめていた。

「……愛久。何かわかったの?」
「全然わからん」

 わかっていなかったようだ。

「だがあたしは、これまでの情報で少なくともこのメイドさんは信用出来ると踏んだ!」
「「おー」」
「だがそこのメイド趣味糞野郎! テメーは駄目だ!!」
「なにぃ!?」

 メイド趣味糞野郎って、もしかしなくても俺のことか!? 
 そんなこと言われたの人生初なんですけど!? 
 衝撃なんですけど!?

「な、何でだ!? 何で俺は駄目なんだ教えてくれ!!」
「んなの決まってるだろうがッ!? テメーがメイド趣味糞野郎汚物変態拗らせ童貞チ◯コだからだよッ!!」
「オプションで追加され過ぎじゃねーか!? 少なくともメイド趣味ではねーから!!」
「童貞チ◯コは?」
「……………………黙秘で」
「や〜い! こいつ童貞だぞ〜!」
「シバくぞテメー!!」

 クソ! 何でこいつはこんなに口がきたねーんだ!? 親の教育はどうなってる!?
 その時、突然エーデルが立ち上がった。
 何事かと皆の目線が集まる中、エーデルは真剣な表情を浮かべている。

「……皆さん、今から言う話をよく聴いてくださいね」
「な、何だ何だ?」
「ワタシが保証します。御主人は、童貞です!!」
「真面目な顔で何をカミングアウトしてくれてるんだお前はよぉ!?」

 ふざけんなよ! 日本は個人情報保護法で守られた個人の人格を尊重してくれる良い国じゃなかったのかよ!? プライバシーの侵害で訴えるぞ!!
 ほら見ろ! 童貞童貞連呼するから、他の二人が気まずい感じになってるじゃねーか!! 未成年の女子がいる前で下ネタはNGだぞ!!

「安心してください御主人! ワタシならいつでもウェルカムトゥゲザーですから!」
「意味はよくわからないが、お前はもう黙っていろ」
「……あ。多分、エーデルさんは夜伽のことを言ってるんだと……」
「わかるよそのくらい!! お前も黙ってろ!!」
「ひぅ!」

 おっと。つい語気を荒げてしまった。
 俺が怒鳴ったせいか、久喜さんは怯えた表情で縮こまってしまった。
 その様子を見た富永は、ここぞとばかりに踏み込んでくる。

「おい! うちの可愛い遊舞になんて口聞いてくれとるんじゃおおんっ!?」
「ああんっ? 元はと言えばお前が童貞言い始めたのが悪いんだろうが!!」
「うっせー童貞ッ!! 女一つも満足させてやれねえ早漏の分際で喧しいんだよ!!」
「お前……言ったなぁ!? 人が下手に出てれば良い気になりやがって!! こうなったら誰に対して暴言吐いたか思い知らせてやるッ!!」

 平和的話し合いとか情報戦とか知るか!! そもそも最初から力付くで言うことを聞かせれば良かったんだ!!
 だがこうなれば話は簡単だ! 
 そう、勝った方が支配者!! 負けた奴は奴隷だ!!
 ふっ、良いね。俺好みの展開になってきたじゃねーか!!

「負けても後悔すんなよ金髪チビッ!!」
「吐いた唾飲むなよ糞童貞ッ!!」

 俺と富永は、お互いに全力でメンチを切っていた。
 その様は、まさに龍と虎。一歩も引かぬ激突が、今まさに始まろうとしている!
 そして、俺達は己が持つ最大の攻撃を放とうとした。
 その瞬間……!



 俺はエーデルに抱擁され、
 富永は佐々江さんに頭を叩かれた。



「……愛久。ステイ」
「駄目ですよごしゅじ〜ん。女の子に暴力振るっちゃぁ〜」

 少女二人は、お互いがお互いのパートナーを制止している。その力は弱々しいが、どこか圧力のようなものを感じた。
 ふと、俺はエーデルの顔を覗き込む。
 エーデルの表情。それは、まさに『無言の圧力』だった。
 何も言ってない。何もおかしな表情はしていない。
 しかし、その顔を見ただけで俺は謎の恐怖にも似た感情が込み上がってきたのだ。
 それは、どうやら富永も同じだったようで、彼女のヒクついた顔が俺からも見えた。
 二人の少女の圧力。
 それらを前に、俺と富永はしばし膠着した後。

「「……はい」」

 と、了解の旨を口に出していた。



 ……こうして、俺たちの情報戦は、開幕十分で『休戦』となったのである。

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