青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第2話「元勇者、日常への帰還を果たす」

 俺達が異世界から帰ってきてから翌日。
 五年も異世界にいて、急に戻ってきて普通の生活ができるのだろうか? と少々不安ではあったがどうにかなるものだった。自分の適応力が恐ろしい。まあ、これくらい適応できなければ、勇者なんてやってられないとも言える。
 あの後、帰宅した家族には計画通り幻惑魔法をかけて記憶を改変した。
 これでエーデルは家族の一員。というか俺の恋人となった。
 それにしても、魔法というものは実に便利だと改めて思う。前の世界では、対魔法用のアイテムは必需品だったから、こんなに上手く事が運んだことはなかった。
 色んなあれこれを済ませた俺は、自室で高校の制服に着替えていた。
 懐かしのブレザーだ。若い頃の自分を思い出すぜ。
 因みに、五年前と今の肉体年齢は然程変化していない。勇者の修行の一環として、長寿の秘訣を教わった俺は、通常の人間の十倍は長く生きられる。
 魔法の力で、若返ればさらに十倍! 
 推定寿命は八〇〇〇歳だ!
 そしていよいよ登校時間。俺が学校へ出かける際には、エーデルが名残惜しそうに俺を送ってくれた。
 家で大人しくしてくれと頼んではいるが、何かしらトラブルを起こす俺のメイドだ。正直少し少し不安でもあった。

『大丈夫ですよ御主人! しっかりと御主人の留守を預かっていますから!』
「こう言っちゃなんだが信用ならん。呉々も余計な物には手を触れるなよ」
『はっはっ! いやだなぁ、ワタシがどれだけ優秀なメイドかなんて御主人が一番良く知ってるじゃないですか!』
「確かに仕事は優秀ではあるが……」

 鏡音第一高校は、自宅から徒歩二十分で着く近場だ。自転車で通学しても良いが、俺は運動も兼ねて徒歩で移動をしている。
 その間、俺は《念話》を使ってエーデルと会話をしていた。
 エーデルは非常に寂しがりやで、少しでも御主人と共に居たいと言って聞かない。かといって現実世界に不慣れなエーデルを外出されるのもなんなので、《念話》で連絡を取り合うようにしたのだ。
 念話は、幻惑魔法の一種で遠くの相手に直接脳へメッセージを送る事が出来る。さらにそれを応用して、相手が思っているメッセージをこちらが受け取ることも可能だ。
 だがはっきり言って、普通に電話した方が魔力消費もなくて何より楽。
 今度、電話を手に入れた際には其方を使うようにしようと考えている。

「いやーしかし、異世界で勇者として活躍して強くなった俺がどんな学園ライフを送れるのか楽しみだ! もう勉強なんてする意味ないぜ!」
『勉強する意味がないのに、学校に通うんですか?』
「異世界で一通り魔法を学んだからな。これを使えば英語だってもうペラペラよ!」

 異世界には英語は無いが、変性魔法の力があれば言葉が通じない相手とも会話ができるようになる。さらに、頭脳レベルを上昇させれば一瞬で教科書を暗記できるし、体育に至っては言わずもがな。元勇者にかかればサッカーで一試合百回ゴールを決めることだって簡単だ。
 つまり俺は、勉学において熱を入れる必要性は微塵もないのである。

「俺が興味あるのは、カーストだよ」
『カースト?』
「かつては、教室で仲間とゲームしたりするスクールカースト下位層だった俺だが、今の俺なら学年、いや学校中の生徒を掌握することだってできる! それが楽しみで仕方がないんだ!」

 まあ、下位層でゲームやってるのも楽しかったがそれはそれだ。

「まずは、そうだなぁ……。初っ端クラスで大活躍して生徒たちの注目を集めよう。その後、テストで満点とりまくって秀才と褒め称えられて、恒例の学内イベントでは全生徒を圧巻させる催しを開いたりしてみようと思っている!」

 本当のことを言えば生徒として高校にいる理由は、ほぼ無いと言えるので退学して新しいことを始めるのも手なのだが、まだ一年半程残している学生期間を無為にするのも勿体無い。日本は学歴主義社会だし、郷に入っては郷に従えとも聞く。
 順調に出世してハーバードに入学するのもかっこいいしな! ハーバードが何を学ぶ大学かは知らないけれど。

『なるほど。御主人は現実世界でもトップを目指すんですね! 流石は御主人!』
「おう、もっと褒めてくれても構わないぞ!」
『御主人素敵〜! かっこいい! 超イケメン! 抱いてぇ〜〜!!』
「はっはっは! 苦しゅうないぞエーデル! ああそうだ。折角だし、学校の美少女を集めてハーレムでも作ろうかな」





「………………………………………………………………は?」





 突如、俺の目の前で激しい光が現れ、周囲を照らした。

「うわっ、何だ!?」

 俺は慌てて両手で光を遮る。
 そして、その光の中から見知った少女が姿を現した。

「え、エーデル!?」

 そう。現れたのは俺の専属メイド。戦闘用アンドロイドエーデルだった。
 おそらく、自宅から転移魔法でここまで飛んできたのだろう。俺が万が一のために用意しておいたアイテムの力だ。何があっても良いようにと用意したのだが、まさかこんなに早く使われるとは!
 エーデルは、俺の姿を視認するや否や猛り出す勢いで俺に突っかかってきた。

「……今、《ハーレム》と言いましたか? 御主人、ワタシというものがありながら、他の女性とうつつを抜かすつもりですか?」
「べ、別に良いだろう!? 男の夢じゃないか!!」

 ハーレム。そう、あの二次元の中でしか未だ確認されていないモテ男状態だ。
 複数の女を侍らせる禁忌は、まさに勝者の特権! 選ばれし者だけが可能となる主人公補正の力が、ハーレムを作り出せる必須の条件なのだ!
 そしてこの俺、待浩二は正真正銘の主人公。勇者。選ばれし者。
 故に! ハーレムを作る条件は整っている。ならば、作るのが男の性というものだ!
 しかし、エーデルはそれに不満なようだ。眼鏡の向こうから見える虚ろな瞳で御主人である俺を凝視している。
 めっちゃ怖い。

「……御主人、ワタシは反対です。よりにもよって何処の馬の骨とも知れない女が御主人の側に集まるなど……。はっ? 許さんぞ? 許さんぞッ!?」
「お、落ち着けエーデル。口調が変わってる」
「御主人。やっぱりワタシも御主人にお伴します。御主人の貞操は、ワタシが全力を持って守りますから!」
「ええっ! 留守番はどうした!?」

 こうなったエーデルは、俺でも止められない。
 仕方なく、俺はエーデルの同行を許可した。

「だが、お前の格好は目立ち過ぎる。外出時は《透明化》で姿を隠せ」
「はい御主人」

 魔法とは、魂から得られる魔力によって扱うことが出来る。
 エーデルは、戦闘用アンドロイド。アンドロイドは、魂が無いので魔法を使えない。
 俺は、エーデルに変性魔法《透明化》をかけた。忽ち、エーデルの姿が空気に溶けたように見えなくなってしまう。
 《透明化》は、自身または相手の姿を透明にする変性魔法だ。ただ、認識を誤認させるだけなら幻惑魔法を使うのがうってつけなのだが、《透明化》の魔法は発動中、見えなくなるだけでなく物質をする抜けられるという特殊な効果もあるのだ。これにより、万が一渋滞に巻き込まれて人とぶつかりそうになってもすり抜けることが可能になる。
 さらに俺は、自身に変性魔法《魔力の眼》を発動する。この魔法は、目に魔力をかけることで通常では見えない物を見えるようにする。便利だが、魔力の消費が激しいので普通の奴なら長時間の発動は無理だ。さらに俺に至っては《透明化》も同時進行で発動しているので、こうしている今もどんどん魔力が消費されている。
 だが、俺は特に困ったりはしない。何故なら俺は、元勇者。そんじょそこらの連中とは格が違うのだ!

「エーデル。通学中は呉々も離れるなよ」
「勿論です! ワタシが御主人の言いつけを守らなかったことがありますか?」
「お前、ほんの数分前に家の留守番は任せろって言ったのに即行でバックれたよな!?」

 本当に大丈夫かこのメイド? 不安でしょうがないんですけど?
 ……まあ良い。こいつがたまに暴走するのは知っていたからな。
 取り敢えず、エーデルを学校に連れて行って校内の案内でもしてみるか。来て二日目の現実世界だ。きっと学校の物にも興味を示してくれるだろう。

「自動車に気をつけろよ。《透明化》は、任意で物質の透過が出来る。逆に言えば意識の外からの衝突は対処出来ない。向こうはエーデルを視認できないから、知らずに撥ね飛ばしにくるかもしれないぞ。そうでなくても世の中には危ない運転をする奴がいるからな」
「注意します」

 戦闘用アンドロイドは、戦闘のために作られただけあって非常に頑丈だ。しかしだからと言って自動車に撥ねられて無事かはわからないのだ。撥ねられた経験なんて無いだろうし。
 最低限の安全確認を覚えさせるべきだな。幼稚園児に教えるように優しく丁寧に。
 ほら、例えば向こうから突っ込んでくるスクーターとか今にも俺を轢き殺しそう……。
 バッコーーーーン!!!!

「グハァァッッ!!!!」
「ああ、御主人!!」

 猛スピードのスクーターの突進を受けて、俺は高く宙を舞った。





 《大丈夫だYO! YO! 安全運転で飛ばすぜオレYO!》
 《嫌々! 今明らかに誰か轢いて……!》
 《………………!》
 《……!》





 ……なんか遠くの方で、二人組の声が聞こえたような気がしたがそんなことは無いと思いたい気持ちでいっぱいだ!
 そして俺の体は、重力に引かれて地面に激突した。

「あ゛あ゛!?」

 潰れたカエルのような鳴き声が出た。
 顔面から着地し、下手したら鼻が折れる大打撃だが、幸いにも俺は元勇者であるからして体はすこぶる頑丈なのである。

「ご、ごしゅじーーん! だいじょうぶですかーーー!?」

 エーデルが駆けつけてくれた。
 大丈夫。俺、平気。すこしビックリした。
 なり。

「ああ、頭を強く打ったせいで馬鹿になっている! 気をしっかり御主人!」
「うう〜〜〜ん。…………ハッ!! ここはどこだ!? 私は誰!?」

 お決まりの台詞を言ってみるが、記憶は割としっかりしている。
 流石は勇者。俺超強い。
 それよりも、俺を轢いてくれたスクーターはどこだ? 痛みは全くないが、ビックリした罰として賠償金を請求したいのだが。
 スクーターが向かった道に目を向ける。しかし、そこには誰一人として姿はなく、スクーターも見当たらなかった。

「ちっ、まあ良い。落とし前は今度つけさせてもらおうか」
「御主人! 御命令とあれば、ワタシが捜索に行きますが!?」
「お前は俺から離れるな! 迷子にでもなったら面倒この上ない!!」

 エーデルはやる気に満ちた表情でいる。こういう時のエーデルは大抵やり過ぎる。きっと、犯人を見つけた後は相手を過剰に痛めつけてしまうだろう。
 学校もあるし、轢き逃げの犯人見つけるのは後回しだな。
 俺はエーデルを連れて通学路を進む。エーデルは少しがっかりした様子だ。
 ……さて兎にも角にも、もうすぐで高校に到着する。
 色々と問題はあるが、これからの学園生活のことを考えるとやはり楽しみで仕方がない。
 俺はニヤリと笑みを浮かべながら、校門を潜り抜けた。

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