青春勇者はここにいる!
第4話「日常に紛れ込む非・日常」
なんやかんやあって放課後。
昔は授業時間なげーなって思ってたけど、今日は随分と早く終わったような気がする。歳をとるに連れて時間の流れが早く感じるようになると言うけど、その影響か? 俺、戸籍上では十六歳だけど実年齢は二十一歳だし。
ずっと座りっぱなしだったからか筋肉が固まっているような気がする。
『折角鍛えた肉体美が崩れたらどうしよう』と、女々しいことは言うつもりはないが、運動不足を解消するためにトレーニングメニューを作った方が良さそうだ。平穏に暮らそうとも、怠慢に生きていては腐っちまうからな。
「はぁーあ。今日も一日お疲れさんっと」
「ご苦労様です。御主人」
「エーデル、学校は楽しかったか?」
「はい、とっても!」
あるいは他の生徒なら部活動に出向く時間なのだろうが、あいにく俺は帰宅部だ。放課後になればまっすぐ帰るか、遊びに出かけるだけ。
今日はずっと教室内の授業だったし、放課後はエーデルのために校内案内でもしてやろうかと思う。俺自身の記憶も曖昧だし、一度施設の場所を改めて把握しておくのも悪くない。
「サッサと移動するぞ。今日は、佐々江さんの視線が痛いからな。あんまり関わり合いたくない」
佐々江さんは余程俺のことが気になるのか、授業中ずっとこちらを覗いてきていた。
俺もメイド趣味の誤解を解こうと思っていたのだが、彼女に話しかける勇気がなくて結局無視する運びに。
そりゃあ、勇者だって勇気が出なくなる時もあるさ。特に可愛い女子に見つめられている時なんかわな。
佐々江さんのその視線がさ、好意のものであるなら全然問題ないよ? 
でもね、めっちゃ疑惑を孕んだ眼つきで睨んでくるのよ。そう、あれは間違いなく『疑惑の眼』だった!
相手が何考えてるのか全然わかんないんだ! チョー怖いじゃん!?
……そんな訳で、俺は早く教室を出たくて仕方がなかった。というか、佐々江さんの隣の席に座るのがもうやだ。誰か代わってくれないかなぁ?
「次は校内を見て回るんですよね!? 早く行きましょう御主人!」
俺が浮かない顔をしている中、エーデルは学校環境を気に入ってくれたようだ。
俺と一緒の学校に通いたいと言っていたが、こいつが学校に通うになったら学年一の優等生になれるかもしれないな。
「楽しんでいるようで良かった。折角、現実世界で暮らすって言って異世界から付いてきてくれたのに、つまらない思いをさせる訳にはいかないからな」
「ワタシは、御主人の居る所ならどこだって天国ですよ♪」
「……知ってるか? 日本では、未成年による異性交遊は不純だとされる風潮があるんだ」
「それなら、御主人は成人してるので何も問題ありませんね」
「いや、異世界では成人でも日本では……。ああ、そうだ。俺って二十歳過ぎてるんだった。でも、戸籍上はまだ未成年だし……」
そうして見ると、周りにいる十六歳、十七歳の生徒達が随分と子供に思えてくるな。
と言っても、心はまだまだ少年のつもりだ! 若いもんには負けはせんぞ!
……なんか自分が一気に爺になったような気がしてきた。
嫌だなぁ、まだ二十一なのに。全く、歳は取りたくないもんじゃのぅ。
「どうしましたか御主人」
「何でも……。二歳のお前には理解出来ないことについて考えてたんだ」
「?」
エーデルは首を傾げた。
こいつは良い。まだ自分の年齢について悩むような時でもないんだから。
さて、いつまでも腐っていても仕方がない。現実を受け入れて前を向くとしよう。
えーっと、何の話をしてたんだっけ?
……確か、不純異性交遊がどうとかって話だったような気がする。
「学校っていうのは未成年達が多く集まる神聖な学び舎だ。だから例え実際は成人を迎えていても、そこに通っている生徒というだけで未成年の生徒と同じ扱いを受け易いんだ」
「神聖というと、まるで教会のような所なんですね。日本の学校って」
「そうだ。だから、同じクラスの生徒に恋人が出来たと知れば、それを快く思わない奴が現れる訳だ」
きっと佐々江さんも、そのことが気になって一日中ガン見してきたんだろう。
俺に彼女が出来たことによって、佐々江さんがどのような感情を抱いたのかはわからない。
嫌悪か、軽蔑か、はたまた嫉妬か。
何にせよ、それが不快な感情であることは間違いない。眼つきを見れば嫌でもわかる。
「だから早く行こうぜ。俺を佐々江さんの眼から解放させてくれよ〜」
「あ、でも御主人。あの佐々江って人居なくなっていますよ」
「ナニ?」
隣を見ると、確かに佐々江さんは居なくなっていた。もう帰ってしまったのだろうか?
「……って、なんだまだ教室にいるじゃねーか」
教室内を見渡すと、佐々江さんは今朝俺と目が合ったクール女子と会話をしているところだった。
二人だけで何かを話しているところを見るに、友達同士なのだろうか?
佐々江さんは、所謂クラスのまとめ役で実質リーダーといっても過言ではない中心人物。俺が憧れる、学年カースト最上位の奴って訳だ。
一方、名前も知らないクール少女は、今日は朝から放課後までずっと一人で過ごしている。休憩時間も、周りが友達同士と食事したりしている中で、彼女が一人でどこかへ出ていくのを見かけた。
佐々江さんとクール少女。
一見、接点がなさそうな組み合わせに思えるが……。
「まあ、誰が誰と仲良くなろうと関係はないけどな」
「んん〜〜? ……御主人、何を喋ってるんですか?」
「佐々江さんだよ。ほら、彼処にいるだろう?」
「え、どこですか?」
エーデルは眉間にしわを寄せて教室中をキョロキョロと見渡す。
しかし、そこまでしてもエーデルは、佐々江さんを見つけられないようだ。
……何をやってるんだこいつは? クール少女はともかく、あんなに目立つ佐々江さんを見つけられないとかお前の目は節穴か?
「アレだよアレ!」
俺が二人のいる方を指差すと、エーデルはようやく確認ができたようだ。呆気にとられた表情で彼女達を眺めている。
「あーアレか! あれー? なーんで見つけられなかったんでしょう?」
「さあな。幻惑魔法でも使われてるんじゃないのか?」
俺は適当な感じでそう答えた。
実際、異世界では魔法使い達が内密な話をする際には《消音》や《雲隠れ》等の幻惑魔法がよく使われていた。最も、高位の魔法使いならすぐに看破される程度の魔法なので気休め程度のものなのだが。
因みに、俺の変性魔法《透明化》ならそんな高位の魔法使いでも出し抜ける。物理的干渉不可は、対策手段を持たない奴には致命的だからな。
「あ、御主人の予想。合っているかもしれません」
「……何だと?」
「仮にも魔王を倒した勇者の仲間であるワタシが、近場の人間を目視出来ないなんてありえません! きっと、何かしらの手段をとってワタシの認識をズラしていたはずです!!」
ふーん。確かに、言ってることは理解できる。
エーデルは、アンドロイドだ。
魔力を持たないアンドロイドは、魔法的干渉に不得手というのが一般的だ。他の魔法使いのサポート無しでは、初歩の魔法ですら翻弄されてしまうこともある。
それくらい、《魔法が使える者》と《そうでない者》との差は大きい。少なくとも、俺が居た異世界ではそれが常識だった。
だから、エーデルが気付かないレベルの魔法がこのクラスで発動されている可能性も十分にあり得る話だ。
……でも、エーデルだからなぁ。
《ドジっ娘メイド》たるこのアンドロイドは、たまにしょうもないミスをすることが多い。《たまに》なのか《多い》のか、よくわからなくなるくらいミスをするのだこいつは。
……しかし、一応心に留めておこう。
俺以外にも特殊な力を持つ人物がいるかも知れない。
その可能性をな。
俺は、席から立ちエーデルを連れて校内の案内に出かけることにした。
最後に、例の二人の少女を軽く一瞥してみる。
彼女達は、他人の視線を受けつけずに話をしていた。
……まるで、そこだけ二人だけの隔離された世界が出来ているかのように。
昔は授業時間なげーなって思ってたけど、今日は随分と早く終わったような気がする。歳をとるに連れて時間の流れが早く感じるようになると言うけど、その影響か? 俺、戸籍上では十六歳だけど実年齢は二十一歳だし。
ずっと座りっぱなしだったからか筋肉が固まっているような気がする。
『折角鍛えた肉体美が崩れたらどうしよう』と、女々しいことは言うつもりはないが、運動不足を解消するためにトレーニングメニューを作った方が良さそうだ。平穏に暮らそうとも、怠慢に生きていては腐っちまうからな。
「はぁーあ。今日も一日お疲れさんっと」
「ご苦労様です。御主人」
「エーデル、学校は楽しかったか?」
「はい、とっても!」
あるいは他の生徒なら部活動に出向く時間なのだろうが、あいにく俺は帰宅部だ。放課後になればまっすぐ帰るか、遊びに出かけるだけ。
今日はずっと教室内の授業だったし、放課後はエーデルのために校内案内でもしてやろうかと思う。俺自身の記憶も曖昧だし、一度施設の場所を改めて把握しておくのも悪くない。
「サッサと移動するぞ。今日は、佐々江さんの視線が痛いからな。あんまり関わり合いたくない」
佐々江さんは余程俺のことが気になるのか、授業中ずっとこちらを覗いてきていた。
俺もメイド趣味の誤解を解こうと思っていたのだが、彼女に話しかける勇気がなくて結局無視する運びに。
そりゃあ、勇者だって勇気が出なくなる時もあるさ。特に可愛い女子に見つめられている時なんかわな。
佐々江さんのその視線がさ、好意のものであるなら全然問題ないよ? 
でもね、めっちゃ疑惑を孕んだ眼つきで睨んでくるのよ。そう、あれは間違いなく『疑惑の眼』だった!
相手が何考えてるのか全然わかんないんだ! チョー怖いじゃん!?
……そんな訳で、俺は早く教室を出たくて仕方がなかった。というか、佐々江さんの隣の席に座るのがもうやだ。誰か代わってくれないかなぁ?
「次は校内を見て回るんですよね!? 早く行きましょう御主人!」
俺が浮かない顔をしている中、エーデルは学校環境を気に入ってくれたようだ。
俺と一緒の学校に通いたいと言っていたが、こいつが学校に通うになったら学年一の優等生になれるかもしれないな。
「楽しんでいるようで良かった。折角、現実世界で暮らすって言って異世界から付いてきてくれたのに、つまらない思いをさせる訳にはいかないからな」
「ワタシは、御主人の居る所ならどこだって天国ですよ♪」
「……知ってるか? 日本では、未成年による異性交遊は不純だとされる風潮があるんだ」
「それなら、御主人は成人してるので何も問題ありませんね」
「いや、異世界では成人でも日本では……。ああ、そうだ。俺って二十歳過ぎてるんだった。でも、戸籍上はまだ未成年だし……」
そうして見ると、周りにいる十六歳、十七歳の生徒達が随分と子供に思えてくるな。
と言っても、心はまだまだ少年のつもりだ! 若いもんには負けはせんぞ!
……なんか自分が一気に爺になったような気がしてきた。
嫌だなぁ、まだ二十一なのに。全く、歳は取りたくないもんじゃのぅ。
「どうしましたか御主人」
「何でも……。二歳のお前には理解出来ないことについて考えてたんだ」
「?」
エーデルは首を傾げた。
こいつは良い。まだ自分の年齢について悩むような時でもないんだから。
さて、いつまでも腐っていても仕方がない。現実を受け入れて前を向くとしよう。
えーっと、何の話をしてたんだっけ?
……確か、不純異性交遊がどうとかって話だったような気がする。
「学校っていうのは未成年達が多く集まる神聖な学び舎だ。だから例え実際は成人を迎えていても、そこに通っている生徒というだけで未成年の生徒と同じ扱いを受け易いんだ」
「神聖というと、まるで教会のような所なんですね。日本の学校って」
「そうだ。だから、同じクラスの生徒に恋人が出来たと知れば、それを快く思わない奴が現れる訳だ」
きっと佐々江さんも、そのことが気になって一日中ガン見してきたんだろう。
俺に彼女が出来たことによって、佐々江さんがどのような感情を抱いたのかはわからない。
嫌悪か、軽蔑か、はたまた嫉妬か。
何にせよ、それが不快な感情であることは間違いない。眼つきを見れば嫌でもわかる。
「だから早く行こうぜ。俺を佐々江さんの眼から解放させてくれよ〜」
「あ、でも御主人。あの佐々江って人居なくなっていますよ」
「ナニ?」
隣を見ると、確かに佐々江さんは居なくなっていた。もう帰ってしまったのだろうか?
「……って、なんだまだ教室にいるじゃねーか」
教室内を見渡すと、佐々江さんは今朝俺と目が合ったクール女子と会話をしているところだった。
二人だけで何かを話しているところを見るに、友達同士なのだろうか?
佐々江さんは、所謂クラスのまとめ役で実質リーダーといっても過言ではない中心人物。俺が憧れる、学年カースト最上位の奴って訳だ。
一方、名前も知らないクール少女は、今日は朝から放課後までずっと一人で過ごしている。休憩時間も、周りが友達同士と食事したりしている中で、彼女が一人でどこかへ出ていくのを見かけた。
佐々江さんとクール少女。
一見、接点がなさそうな組み合わせに思えるが……。
「まあ、誰が誰と仲良くなろうと関係はないけどな」
「んん〜〜? ……御主人、何を喋ってるんですか?」
「佐々江さんだよ。ほら、彼処にいるだろう?」
「え、どこですか?」
エーデルは眉間にしわを寄せて教室中をキョロキョロと見渡す。
しかし、そこまでしてもエーデルは、佐々江さんを見つけられないようだ。
……何をやってるんだこいつは? クール少女はともかく、あんなに目立つ佐々江さんを見つけられないとかお前の目は節穴か?
「アレだよアレ!」
俺が二人のいる方を指差すと、エーデルはようやく確認ができたようだ。呆気にとられた表情で彼女達を眺めている。
「あーアレか! あれー? なーんで見つけられなかったんでしょう?」
「さあな。幻惑魔法でも使われてるんじゃないのか?」
俺は適当な感じでそう答えた。
実際、異世界では魔法使い達が内密な話をする際には《消音》や《雲隠れ》等の幻惑魔法がよく使われていた。最も、高位の魔法使いならすぐに看破される程度の魔法なので気休め程度のものなのだが。
因みに、俺の変性魔法《透明化》ならそんな高位の魔法使いでも出し抜ける。物理的干渉不可は、対策手段を持たない奴には致命的だからな。
「あ、御主人の予想。合っているかもしれません」
「……何だと?」
「仮にも魔王を倒した勇者の仲間であるワタシが、近場の人間を目視出来ないなんてありえません! きっと、何かしらの手段をとってワタシの認識をズラしていたはずです!!」
ふーん。確かに、言ってることは理解できる。
エーデルは、アンドロイドだ。
魔力を持たないアンドロイドは、魔法的干渉に不得手というのが一般的だ。他の魔法使いのサポート無しでは、初歩の魔法ですら翻弄されてしまうこともある。
それくらい、《魔法が使える者》と《そうでない者》との差は大きい。少なくとも、俺が居た異世界ではそれが常識だった。
だから、エーデルが気付かないレベルの魔法がこのクラスで発動されている可能性も十分にあり得る話だ。
……でも、エーデルだからなぁ。
《ドジっ娘メイド》たるこのアンドロイドは、たまにしょうもないミスをすることが多い。《たまに》なのか《多い》のか、よくわからなくなるくらいミスをするのだこいつは。
……しかし、一応心に留めておこう。
俺以外にも特殊な力を持つ人物がいるかも知れない。
その可能性をな。
俺は、席から立ちエーデルを連れて校内の案内に出かけることにした。
最後に、例の二人の少女を軽く一瞥してみる。
彼女達は、他人の視線を受けつけずに話をしていた。
……まるで、そこだけ二人だけの隔離された世界が出来ているかのように。
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