十年待ってチートスキルを解放したら魔法少女になった件
第10話希望の色が絶望に染まる時 後編
「テッちゃん!」
「「テツヤ!」」
「テツコさん!ーーえ?」
零距離で魔法を放った衝撃で、俺は吹き飛ばされると共に、背にしていた結界を破った。そのおかげで、王都から脱出する事が出来たものの、俺の意識は朦朧とする。
「て、テツヤさんって、あ、貴方があの?」
クルルさん以外が俺の本当の名前を明かしてしまった為に、彼女は戸惑いながらも傷ついた俺に寄ってくる。
「は、話は後でするから、今はこの場所から逃げよう」
俺は朦朧とする意識の中で、何とか立ち上がりクルルさんに言う。シーラ達も俺の方にやって来て、フラフラな状態の俺を支えてくれる。
「追ってきませんわね、魔王軍」
「恐らく……チルリア王女が傷を負って、動揺したんだよ。とにかく逃げるなら今しかない」
「そうですわね……」
シーラは元気のない返事をする。他の皆も同じだった。まさかあの場所に王女であるチルリアが現れて、俺に剣を突きつけてくるとは思っていなかった。
スゥから話を聞いた時は、俺達はチルリアの安全を願った。だけどそれが、まさか悪い意味で裏切られるだなんて思ってもいなかった。
「チーちゃん、どうしてこんな事に」
その事実に対して一番ショックを受けていたのは、やはりスゥだった。以前にも言ったが、彼女とチルリアは親友に近い存在だった。
それなのに、まさかチルリアが裏切るだなんて、親友の彼女からしたら一番ショックだったのかもしれない。
「王都の陥落と王女の裏切り、絶対何かありそうね」
ピリスが呟く。この一日で起きたこれらの二つの出来事は紛れもない事実。それでも何故か俺はそれが信じられなかった。
チルリアが国を裏切るなんて絶対にあり得ないと思っている。
「あ、ちょうどそこに洞窟がありますし、体力の回復も含めて、あそこでしばらく休みましょうか」
色々考えている間にシーラが王都からかなり離れた先で、安全な洞窟を見つけたので俺達はそこをキャンプ地とする事に。
「ここなら敵の目も気にせずに休めそうね。ほらテツヤもスゥも先に休みなさい」
珍しく優しい言葉をかけてくれるピリス。でも彼女の言葉を聞かずとも俺は休むつもりだった。
もう限界だったのだ。
この地に立っている事が。
意識を保ち続ける事が。
でも何故だか分からないけど、すぐに休めない。何度眠ろうとしても、体が震えて眠れない。
あのナイフを突きつけられた時から小さな体に残り続ける恐怖感。それを俺はずっと拭えない。
「どうしたのテツコ。まだ全然休んでないのに」
ついに耐えられなくなった俺は起き上がってしまい、ピリスに心配される。
「少し……外歩いてくる」
「歩いてくるってあんた、その体じゃ」
俺はピリスの引き止めを無視して、洞窟の外へと出て行った。
◇
俺は二度の転生という人生の中で、何度も死への恐怖を感じた事がある。
敵に殺されそうになった時。
初めて魔王と対峙した時。
もっと沢山あるけど、書き出したらキリがない。でもその恐怖感から打ち勝つ力を与えてくれた人がいた。
『テツ……や!』
『違う違う。その読み方だと方言みたいになっちゃうから』
『テツ&ヤ』
『何かそれ聞いた事があるよ俺?!』
彼女は俺にとって光で、希望で、いつしか愛しい存在になっていた。彼女が俺を支えてくれたからこそ、恐怖に打ち勝てた。
(ユリエル……)
彼女は天の使いでありながら、俺達の仲間であり、世界を照らす太陽でもあった。
「はぁ……」
俺は月を眺めながらため息を吐く。あの日も今日みたいにとても月が綺麗だった。
『私ねテツヤに言わなきゃいけないことがあるの』
全てはあの一言から始まった。
希望も
絶望も
全部
「休まないと駄目ですわよ、テツヤ」
目を閉じていろいろなことを思い出していると、シーラが隣にやって来た。
「休みたくても休めないんだよ」
「やはりチルリア王女の事が気になりますか?」
「それもある」
王都での出来事は衝撃的な事が多すぎた。守っていたと思っていた場所が、既に占拠されていて、王女であるチルリアが敵側にいた。
それはあまりにも衝撃的な事なのは変わりない。けど俺が休めない本当の理由は……。
「怖かったんだ、この体に剣を突きつけられて」
「テツヤが? 珍しいですわね」
「久しぶりだったよ。こんなに怖くなったの」
「その体だから、怖くなったんですか?」
「多分そうだけど、それ以上に俺には今心の支えがないから、だと思う」
「まだ忘れていないんですね。ーーユリエルの事を」
「当たり前だろ。ずっと忘れてないよ」
「それは私もですが……それ以上にテツヤは」
「それ以上は今から言わないでくれ」
分かっている。俺の依存は異常なのだと。でもそれでも構わないと思う。そうしないと俺は、この罪を償いきれない。
「テツヤは勝手ですわよ。自分だけ抱え込んで、私達には何も相談すらしてくれなくて」
「全部説明しただろ? 俺が何をしたのかを」
「それが全部ですか? 本当は何か隠していませんか?」
「隠してないよ」
そう言って俺は立ち上がる。シーラと話をしたからか、恐怖感が体の中から消えていた。その代わりに疲れが体を一気に襲う。
「隠してないなら、どうしてそんなにも辛そうな顔をしているのか、私には分かりません」
「ごめん、シーラ……」
俺は彼女をその場に残し、洞窟へと戻っていく。その間何度も後ろを振り返るが、シーラはそこから一歩も動かなかった。
(シーラ……)
お前とユリエルは親友だったし、いろいろ思う事があるんだろうけど、今は俺は何も言えない。だから今だけは許してくれ。
「「テツヤ!」」
「テツコさん!ーーえ?」
零距離で魔法を放った衝撃で、俺は吹き飛ばされると共に、背にしていた結界を破った。そのおかげで、王都から脱出する事が出来たものの、俺の意識は朦朧とする。
「て、テツヤさんって、あ、貴方があの?」
クルルさん以外が俺の本当の名前を明かしてしまった為に、彼女は戸惑いながらも傷ついた俺に寄ってくる。
「は、話は後でするから、今はこの場所から逃げよう」
俺は朦朧とする意識の中で、何とか立ち上がりクルルさんに言う。シーラ達も俺の方にやって来て、フラフラな状態の俺を支えてくれる。
「追ってきませんわね、魔王軍」
「恐らく……チルリア王女が傷を負って、動揺したんだよ。とにかく逃げるなら今しかない」
「そうですわね……」
シーラは元気のない返事をする。他の皆も同じだった。まさかあの場所に王女であるチルリアが現れて、俺に剣を突きつけてくるとは思っていなかった。
スゥから話を聞いた時は、俺達はチルリアの安全を願った。だけどそれが、まさか悪い意味で裏切られるだなんて思ってもいなかった。
「チーちゃん、どうしてこんな事に」
その事実に対して一番ショックを受けていたのは、やはりスゥだった。以前にも言ったが、彼女とチルリアは親友に近い存在だった。
それなのに、まさかチルリアが裏切るだなんて、親友の彼女からしたら一番ショックだったのかもしれない。
「王都の陥落と王女の裏切り、絶対何かありそうね」
ピリスが呟く。この一日で起きたこれらの二つの出来事は紛れもない事実。それでも何故か俺はそれが信じられなかった。
チルリアが国を裏切るなんて絶対にあり得ないと思っている。
「あ、ちょうどそこに洞窟がありますし、体力の回復も含めて、あそこでしばらく休みましょうか」
色々考えている間にシーラが王都からかなり離れた先で、安全な洞窟を見つけたので俺達はそこをキャンプ地とする事に。
「ここなら敵の目も気にせずに休めそうね。ほらテツヤもスゥも先に休みなさい」
珍しく優しい言葉をかけてくれるピリス。でも彼女の言葉を聞かずとも俺は休むつもりだった。
もう限界だったのだ。
この地に立っている事が。
意識を保ち続ける事が。
でも何故だか分からないけど、すぐに休めない。何度眠ろうとしても、体が震えて眠れない。
あのナイフを突きつけられた時から小さな体に残り続ける恐怖感。それを俺はずっと拭えない。
「どうしたのテツコ。まだ全然休んでないのに」
ついに耐えられなくなった俺は起き上がってしまい、ピリスに心配される。
「少し……外歩いてくる」
「歩いてくるってあんた、その体じゃ」
俺はピリスの引き止めを無視して、洞窟の外へと出て行った。
◇
俺は二度の転生という人生の中で、何度も死への恐怖を感じた事がある。
敵に殺されそうになった時。
初めて魔王と対峙した時。
もっと沢山あるけど、書き出したらキリがない。でもその恐怖感から打ち勝つ力を与えてくれた人がいた。
『テツ……や!』
『違う違う。その読み方だと方言みたいになっちゃうから』
『テツ&ヤ』
『何かそれ聞いた事があるよ俺?!』
彼女は俺にとって光で、希望で、いつしか愛しい存在になっていた。彼女が俺を支えてくれたからこそ、恐怖に打ち勝てた。
(ユリエル……)
彼女は天の使いでありながら、俺達の仲間であり、世界を照らす太陽でもあった。
「はぁ……」
俺は月を眺めながらため息を吐く。あの日も今日みたいにとても月が綺麗だった。
『私ねテツヤに言わなきゃいけないことがあるの』
全てはあの一言から始まった。
希望も
絶望も
全部
「休まないと駄目ですわよ、テツヤ」
目を閉じていろいろなことを思い出していると、シーラが隣にやって来た。
「休みたくても休めないんだよ」
「やはりチルリア王女の事が気になりますか?」
「それもある」
王都での出来事は衝撃的な事が多すぎた。守っていたと思っていた場所が、既に占拠されていて、王女であるチルリアが敵側にいた。
それはあまりにも衝撃的な事なのは変わりない。けど俺が休めない本当の理由は……。
「怖かったんだ、この体に剣を突きつけられて」
「テツヤが? 珍しいですわね」
「久しぶりだったよ。こんなに怖くなったの」
「その体だから、怖くなったんですか?」
「多分そうだけど、それ以上に俺には今心の支えがないから、だと思う」
「まだ忘れていないんですね。ーーユリエルの事を」
「当たり前だろ。ずっと忘れてないよ」
「それは私もですが……それ以上にテツヤは」
「それ以上は今から言わないでくれ」
分かっている。俺の依存は異常なのだと。でもそれでも構わないと思う。そうしないと俺は、この罪を償いきれない。
「テツヤは勝手ですわよ。自分だけ抱え込んで、私達には何も相談すらしてくれなくて」
「全部説明しただろ? 俺が何をしたのかを」
「それが全部ですか? 本当は何か隠していませんか?」
「隠してないよ」
そう言って俺は立ち上がる。シーラと話をしたからか、恐怖感が体の中から消えていた。その代わりに疲れが体を一気に襲う。
「隠してないなら、どうしてそんなにも辛そうな顔をしているのか、私には分かりません」
「ごめん、シーラ……」
俺は彼女をその場に残し、洞窟へと戻っていく。その間何度も後ろを振り返るが、シーラはそこから一歩も動かなかった。
(シーラ……)
お前とユリエルは親友だったし、いろいろ思う事があるんだろうけど、今は俺は何も言えない。だから今だけは許してくれ。
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