十年待ってチートスキルを解放したら魔法少女になった件

りょう

第5話山越えと暖かいスープ

 王都ヒルフヘイム
 この世界の最も中心都市と呼ばれている場所で、ここを拠点に暮らしている人が多いためか、この場所だけでも多くの種族を確認する事ができる。
 現に俺達もそこを拠点にしながら、魔王の討伐に出向いていたのだから、一番守らなければならない場所故に、現在の安否が気になる。

「その王都に向かうための一番の問題が」

「この山脈ですわよね」

 そしてその王都を守るように出来た自然が、ツリュッセ山脈。一応人が行き来できる道が出来ているのだが、それでもここを越えるのに最低でも一日はかかる。
 だがよく考えてもらいたい。一日かかるのはあくまで常人の体だった場合の話だ。今俺達は三人中二人が子供の体をしている。体力に気を使ったとしても、一体どれくらいの時間がかかるか分からない。

「でもここ以外に王都へ向かう方法はありませんし」

「時間をかけてでも越えよう」

「えー、私疲れるの嫌いなんだけどぉ」

 ……。

「ちょっと冗談だってば。私もちゃんと行くから黙って置いてかないでってば!」

 王都までの道は一本道だが、相手は山なので油断はできない。ここは慎重に進む必要がある。

「ちょっと待ってって……きゃあ!」

「馬鹿!」

 だから登っている途中でふざけたりすると、一歩間違えれば死ぬ可能性だってある。まだ麓の方だったから助けられたからよかったが、一つ間違えれば全員巻き込まれてアウトだった。

「あ、ありがとう」

「神様なんだからその辺は気をつけてよ。今私に人を引っ張れる力はないんだから」

「つ、次から気をつける」

 俺達は再び危険な山道をの進み続ける。まだ山登りは始まっまたばかりだが、俺には懸念があった。

「そういえば昨日から何も食べてないけど、お腹持つ?」

「わたくしはテツヤと合流するまでは、食事は取っていたので平気ですが、お二方はどうなのですか?」

「私は全然大丈夫だけど、テツヤはどうなの?」

 その疑問に答えるように俺の腹は鳴る。空腹な事に気がついて話しかけたのだから当然だろう。俺は下手すれば十年何も食べてない可能性だってある。

「やはり食料を確保するべきでしたわね」

「な、何とかなるよ。多分」

「お腹を鳴らしながら言われても説得力ないんだけど」

 と言ってもエルフの森であんな目にあったので、食料の確保もできないままここまで来ている。王都に着けば何とかなりそうだが、果たしてそこまで我慢できるのだろうか。

「と、とりあえず進もう。もう後戻りはできないし、お、王都まで行ければ問題ないから」

 一時間後

「何かーー食べ物を……」

「ちょ、ちょっとテツヤ?!」

 駄目でした。

「限界になるの早すぎですわ。まだあれから一時間も経っていませんわよ?!」

「そうは言われても……もう体が動けない……」

 ついに俺は倒れてしまった。何というかこうなる事は予想できていた。ただ、大丈夫だと言った手前、我慢する以外の道はなかった。

「こんなところで倒れられても困るわよ! ちょっとテツヤ!」

「悪い……旅はここまでみたい……」

「目を覚ましてください、テツヤ! テツヤ!」

 残念俺の旅はここで終わってしまった。

 ◇
 いい匂いがする。とても食欲をそそるような匂い。

(何だろうこの懐かしい匂いは……)

 まるでお母さんが作ってくれたような……。

「……ここは?」

 匂いに釣れられて意識を取り戻した俺は、見覚えのない場所で寝かされている事に気がつく。見た目はどこかのテントのようだが……。

「この匂いは……外か?」

 俺は体を起こして外に出る。するとそこに待っていたのは、どこかの洞窟の中みたいな場所。

「あ、ようやく目を覚ましたわねテツ子」

「おはようございます、テツコさん」

 そして鍋に入った食事をよそっているシーラとピリス。更に知らない男女が四人ほど。彼らは全員魔法使いの格好をしていた。
 周囲には俺が出てきたテント以外に三つほどのテントが並んでいた。

「お目覚めですかテツコさん。どうぞお食べください」

 その内の女性の人が俺に皿に入ったスープを渡しながら話しかけてきた。

「あ、えっと、ありがとうございます。それで、貴方達は一体」

「私達は旅団なんです」

「旅団?」

 そういえばこの世界には十年前までの俺達のように世界を旅している人達がいると聞いた事がある。それを旅団と呼んでいるらしいが、こうして会うのは初めてだった。

「それで私達は王都へ向かう所だったんです。そしたら貴方達会いまして、テツコさんが空腹で倒れたと聞いたので、こうして急遽テントを開いたんですよ」

「俺……私のためにわざわざありがとうございます!」

「いえいえ。私達の方こそ貴方がたの様な有名人に会えてすごく嬉しいんです!」

「有名人?」

「だってそこのお二方は、かの魔王を一度倒した方達じゃないですか。まさかこんな所でお会いできるなんて」

 目を輝かせながら魔法使いさんは言う。もう一人目の前にいるのだが、こんな体じゃ気づかないだろう、多分。

「貴方も幸運ですね。こんな方達が仲間で」

「ま、まあ、そうですね」

「あの、私この旅団の団長をしているクルルって言います。あの、もしよろしければ、私達と一緒にこの山を越えて王都へ向かいませんか?」

「え? あ、はい、勿論。人数は多いほうがいいですし」

「ありがとうございます!」

 元気よく礼を言うクルル。むしろお礼を言わなければならないのはこちらの方なのだが、本人がそれでいいなら、まあいいか。

「ほら、テツコさんも冷めない内に食べてください。これからが長いんですから」

「あ、はい」

 他の旅団の方に勧められて、俺は先ほどもらったスープを口にした。十年ぶりに口にした食事はとても暖かくて、美味しくて、

「ちょ、ちょっと何泣いてるのテツ子。そんなに美味しいの?」

「お、美味しいけどそうじゃない」

「そうじゃないなら、何なのよ」

「分からない。分からないけどーーすごく、暖かい」

 少しだけしょっぱかった。

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