十年待ってチートスキルを解放したら魔法少女になった件
第4話破れた約束をもう一度果たす為に
「じゃ、じゃああなたは本当にテツヤですのね?」
「ああ。随分と長い事待たせて悪かったな」
不時着しながらも、エルフ達の目からある程度離れている場所に何とか避難してきた俺達は、今日は野宿する事になった。
で、焚き火を囲って迎えた夜。俺はシーラにここまでの事を説明した。すると、
「馬鹿!」
何故かシーラにビンタされた。彼女はその目に涙を浮かべている。
「遅すぎますわよ、どれだけ私達はあなたを待っていたと思っているんですか! 皆が……どれだけ貴方を待っていた事か……」
「ごめん……」
「そんな可愛らしい声で言われても、誠意が伝わってきませんわ」
「いや、そればかりは許してほしいんだけど……」
とはいえ他の仲間にも迷惑をかけてしまったのは事実だった。ピリスやシーラだけじゃない。俺には沢山の仲間がいて、沢山の人が俺が帰ってくるのを待っている。
「それにしてもあのポンコツテツヤが、魔法少女になるとは、思っていませんでしたわ」
「ポンコツは余計だ。てか、この世界に”魔法少女”っていう役職があったのに、俺は驚きだよ」
「そういえば最近できたものでしたわね。魔法少女は」
「確か一年位前だったかしら。それに名前だけがあっても、実際に魔法少女になった子はテツ子が初めてじゃない?」
「俺……私が初めての魔法少女?」
じゃあこの身体になったのも、魔法少女になったのも偶然だというのか? でも言われてみれば、このステータスはこの世界でも希少種なのかもしれない。
「でもまだ不便そうですわねその魔法。魔法の威力と体の魔力が追いついていなさそうですし」
「確かにそれも問題よね。いざという時戦えなければ、いつものテツヤと変わらないわ」
「わ、私そんなに役立つだった?!」
「無理して女性口調に慣れようと頑張っている辺りとか、ね」
これから世界を再び渡り歩くためには、俺が変わらなければならない。男から女に変わるというとても難しい事を俺はしなければならないのだ。
「テツヤも苦労人ですわね」
「全くもってそうだよ」
二度の転生も経験して、苦労人じゃないわけがない。ましてや今度は、男ではなく女の子なのだから。
そして戦士ではなく魔法少女になってしまったのだから。
◇
その日の夜遅く、なかなか寝付けなかった俺は、何も考えずに夜の空を眺め続けていた。
(この夜空をゆっくり眺めるのも、十年ぶりか……)
自分が十年も眠っていたなんて、到底信じられない。転生して十歳くらいの女の子になって、また世界を救う旅に出て……。
(二十年前の自分に言っても、信じられないよな……)
「やはり眠れないのですね、テツヤ」
ふと小さな声がする。シーラだ。
「信じられなくてさ。自分が十年眠っていて、その間に世界がこんな事になっていたなんて」
「確かにそうですわね。あなたは一度この世界を救ったヒーローですのに、どうしてこんな目に」
「シーラ、一つ忘れてない?」
「え、ああ、勿論忘れていませんわ。忘れるものですか」
トーンを落としながらシーラは言う。確かに俺が世界を仲間達と一緒に救ったのは事実だ。けど、俺も、俺達も絶対に忘れてはいけない事がある。
この勝利の下に、一つの犠牲がある事を。
「テツヤはまだ……後悔していますか?」
「してる。でも、それがなければこの世界は一度平和になる事はなかった」
「そうですわね。でも結果的にこの世界は再び」
「守れなかった」
「え?」
「約束を守れなかった。この世界の平和をいつまでも守り続ける約束を」
「テツヤ……」
でも破れてしまった約束はもう一度直せばいい。この力で、この魔法で、もう一度世界をーー。
「本当そういう所は貴方らしいですわね。だから皆貴方の事が……」
「ん?」
「あ、いえ、何でもありません。さあ、明日のためにも寝ますわよ」
「あ、ああ」
シーラが何かを言ったが聞き取れなかった。でもほんの少しだけ何を言ったのかは分かった気がする。
それに対しての俺の気持ちは……。
◇
翌日、俺達は次に向かう場所を三人で話し合っていた。
「ここから近くだと、やっぱり山を越えた先にある王都になりますわね。しかし」
「あそこも魔王の手に堕ちているの?」
「いえ。あの場所にはスゥがいらっしゃいますから、まだ守られているはずですわ」
「スゥか……。居場所が分かっているなら、会いに行ったほうがいいかも」
「そうですわね。ではまずは、王都へ向かいましょうか」
この世界でも生息がほぼ確認されていない存在に近い精霊族。スゥはその精霊族の生き残りで、主に水を操る水の精霊と呼ばれている。
手のひらくらいの大きさの子なのだが、その小さな体から放たれているとは到底思えないくらい、巨大な魔法の力を持っている。だからその力を使って、魔の手から王都を守っているのだろう。
「と、その前に」
俺は”ウォーター”を心の中で唱える。すると滝のような水量の水が、呑気に眠っている自称女神に降り注いだ。
「ごほっごほっ、ちょ、ちょっと何をするのよ!」
「寝ているから悪い」
「そうですわね」
「あんたねぇ、女神を何だと思っているのよ!」
「オモチャ」
「ムキー!」
猿と魔法少女とエルフ一行の三人の旅は、スゥが守っている王都へと歩みだす。
「誰が猿よ!」
その先で待つ更なる絶望が待っている事も知らずに。
「ああ。随分と長い事待たせて悪かったな」
不時着しながらも、エルフ達の目からある程度離れている場所に何とか避難してきた俺達は、今日は野宿する事になった。
で、焚き火を囲って迎えた夜。俺はシーラにここまでの事を説明した。すると、
「馬鹿!」
何故かシーラにビンタされた。彼女はその目に涙を浮かべている。
「遅すぎますわよ、どれだけ私達はあなたを待っていたと思っているんですか! 皆が……どれだけ貴方を待っていた事か……」
「ごめん……」
「そんな可愛らしい声で言われても、誠意が伝わってきませんわ」
「いや、そればかりは許してほしいんだけど……」
とはいえ他の仲間にも迷惑をかけてしまったのは事実だった。ピリスやシーラだけじゃない。俺には沢山の仲間がいて、沢山の人が俺が帰ってくるのを待っている。
「それにしてもあのポンコツテツヤが、魔法少女になるとは、思っていませんでしたわ」
「ポンコツは余計だ。てか、この世界に”魔法少女”っていう役職があったのに、俺は驚きだよ」
「そういえば最近できたものでしたわね。魔法少女は」
「確か一年位前だったかしら。それに名前だけがあっても、実際に魔法少女になった子はテツ子が初めてじゃない?」
「俺……私が初めての魔法少女?」
じゃあこの身体になったのも、魔法少女になったのも偶然だというのか? でも言われてみれば、このステータスはこの世界でも希少種なのかもしれない。
「でもまだ不便そうですわねその魔法。魔法の威力と体の魔力が追いついていなさそうですし」
「確かにそれも問題よね。いざという時戦えなければ、いつものテツヤと変わらないわ」
「わ、私そんなに役立つだった?!」
「無理して女性口調に慣れようと頑張っている辺りとか、ね」
これから世界を再び渡り歩くためには、俺が変わらなければならない。男から女に変わるというとても難しい事を俺はしなければならないのだ。
「テツヤも苦労人ですわね」
「全くもってそうだよ」
二度の転生も経験して、苦労人じゃないわけがない。ましてや今度は、男ではなく女の子なのだから。
そして戦士ではなく魔法少女になってしまったのだから。
◇
その日の夜遅く、なかなか寝付けなかった俺は、何も考えずに夜の空を眺め続けていた。
(この夜空をゆっくり眺めるのも、十年ぶりか……)
自分が十年も眠っていたなんて、到底信じられない。転生して十歳くらいの女の子になって、また世界を救う旅に出て……。
(二十年前の自分に言っても、信じられないよな……)
「やはり眠れないのですね、テツヤ」
ふと小さな声がする。シーラだ。
「信じられなくてさ。自分が十年眠っていて、その間に世界がこんな事になっていたなんて」
「確かにそうですわね。あなたは一度この世界を救ったヒーローですのに、どうしてこんな目に」
「シーラ、一つ忘れてない?」
「え、ああ、勿論忘れていませんわ。忘れるものですか」
トーンを落としながらシーラは言う。確かに俺が世界を仲間達と一緒に救ったのは事実だ。けど、俺も、俺達も絶対に忘れてはいけない事がある。
この勝利の下に、一つの犠牲がある事を。
「テツヤはまだ……後悔していますか?」
「してる。でも、それがなければこの世界は一度平和になる事はなかった」
「そうですわね。でも結果的にこの世界は再び」
「守れなかった」
「え?」
「約束を守れなかった。この世界の平和をいつまでも守り続ける約束を」
「テツヤ……」
でも破れてしまった約束はもう一度直せばいい。この力で、この魔法で、もう一度世界をーー。
「本当そういう所は貴方らしいですわね。だから皆貴方の事が……」
「ん?」
「あ、いえ、何でもありません。さあ、明日のためにも寝ますわよ」
「あ、ああ」
シーラが何かを言ったが聞き取れなかった。でもほんの少しだけ何を言ったのかは分かった気がする。
それに対しての俺の気持ちは……。
◇
翌日、俺達は次に向かう場所を三人で話し合っていた。
「ここから近くだと、やっぱり山を越えた先にある王都になりますわね。しかし」
「あそこも魔王の手に堕ちているの?」
「いえ。あの場所にはスゥがいらっしゃいますから、まだ守られているはずですわ」
「スゥか……。居場所が分かっているなら、会いに行ったほうがいいかも」
「そうですわね。ではまずは、王都へ向かいましょうか」
この世界でも生息がほぼ確認されていない存在に近い精霊族。スゥはその精霊族の生き残りで、主に水を操る水の精霊と呼ばれている。
手のひらくらいの大きさの子なのだが、その小さな体から放たれているとは到底思えないくらい、巨大な魔法の力を持っている。だからその力を使って、魔の手から王都を守っているのだろう。
「と、その前に」
俺は”ウォーター”を心の中で唱える。すると滝のような水量の水が、呑気に眠っている自称女神に降り注いだ。
「ごほっごほっ、ちょ、ちょっと何をするのよ!」
「寝ているから悪い」
「そうですわね」
「あんたねぇ、女神を何だと思っているのよ!」
「オモチャ」
「ムキー!」
猿と魔法少女とエルフ一行の三人の旅は、スゥが守っている王都へと歩みだす。
「誰が猿よ!」
その先で待つ更なる絶望が待っている事も知らずに。
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