十年待ってチートスキルを解放したら魔法少女になった件

りょう

第3話その力強力につき

 ”無詠唱”

 ”威力最大”

 ”全魔法習得”

 その他色々な事が俺のステータスカードに書かれていた。今ピックアップした三つ以外にも、先程ピリスが『げっ』って言ったのにも頷けるくらいの、いわゆるチート級の能力が備わっていた。

「これ本当に今の俺に付いている能力なのか?」

「今の二発のファイアが何よりの証拠よ。そして一番厄介なのが」

 なるほど、”ファイア”が今の爆発の原因なら……。

 再び遠くで爆発音。

「あれ? 何で?」

「その能力なんだけど、またやらかしたわね」

「まさか俺が今その魔法の名前を考えたから」

「そう。勝手に魔法が発動したの。おまけに魔法の発動スピードとか色々とチート並だから、今みたいな爆発が起きたわけ」

「つ、つまり口に出さずとも考えてしまったら」

「所構わず魔法が発動するの」

 つまり魔法の名前を思い浮かべてしまったら最後、世界を救うどころか破壊してしまうと。

(それってやばくね?)

 十歳くらいの女の子が、何も言わずに世界を破壊し回ってたら、魔王よりも怖くないか? それとも俺に破壊の神にでもなれと言いたいのか?

「多分それはない。むしろどうして世界を救うのに、破壊の神になるのよ」

「いや、そういうのも需要あるかなって」

「ないって断言させてもらうわ」

 いや、ほらそういうキャラクターが一人でもいたら面白いかなって。

「あともうすぐエルフの森に着くから言わせてもらうけど、そろそろ口調変えないとマズイわよ」

「マズイって何が?」

「そのビジュアルと声でで俺とか言われたら、それただの変態だから」

「何だと!?」

「それとかね」

「ぐぬぬ……」

 ピリスの言う通りではあった。今俺がこの姿になっているピリスがいるから、いつも通り話せているけど、これがもし何も知らない人が見たら、何だこいつと思われてもおかしくない。
 いや、俺っ娘も意外と需要が……。

「何でテツヤは、さっきから需要がなんだとか考えているの?」

「そういう世の中だし」

「どういう世の中よ!」

 ピリスに頭を叩かれる。こいつも大地の女神と謳いながら、見た目は小学生と変わらないくらい背が縮んでいるのだから、ロリ女神とかで受けが良さそうな気がしするんだけどなぁ。

「とにかく今の内に口調を変えたほうがいいと思う。ほら、頑張ってテツ子ちゃん」

「次その名前で呼んだら魔法直撃させるからな!」

「やだ、この魔法少女すごく怖い!」

 やっぱり一発あとでぶちかました方がいいかもしれない。

 ◇
 目覚めの祠から出て数時間。ようやく俺とピリスはエルフ達が住む森に到着した。

「フィンネ、会いに来たわよー」

 ピリスがこの森の長であるフィンネを呼ぶ。俺はかつて彼女の妹であるシーラと旅に出ていたので、その姉とも勿論面識がある。

「よく来たなピリス。来てもらって早速で悪いんんだが」

 聞きなれた凛々しい声が聞こえたとほぼ同じタイミングで、俺達目掛けて大量の矢が飛んできた。

「死んでもらおう」

「ピリス!」

 俺は彼女の体を抱えて、その矢を何とか避ける。あまりに突然の事に俺とピリスは何が起きたか分からない。

「ちょ、ちょっとフィンネ、何をするの?」

「ここは我らエルフ一族の森だ。たとえ神である貴様であろうと踏み入れる事を許さない」

「ちょ、ちょっと何を言って」

「そこの女も覚悟するんだな。ここに立ち入った以上、貴様らに命はない」

「待って、やめろフィンネ!」

「っ! その口調、まさか」

 俺はピリスの忠告を無視して、フィンネの名前を呼ぶ。彼女はそれに一瞬だけ反応したものの、第二波を撃つように彼女は他のエルフに命じた。

(くそ、何がどうなっているんだ)

 最初に彼女達に出会った時も、似たような事があったのは覚えている。あの時は明確な殺意と拒絶があった。でもそれは俺達がまだ初対面だったため。
 でも今は違う。彼女は間違いなくピリスの名前を呼んでいたし、恐らく俺の事も気づいている。

「ねえどうするのテツ子ちゃん。フィンネは私達が倒れるまでやるつもりみたいよ」

「テツ子言うな。でもこのまま逃げてても意味がない。何か策を見つけないと」

 俺は必死に思考を巡らせる。この体で逃げ続けても体力切れがいつかは起きてしまう。だけどもしここで俺が魔法を打てば、唯一まだ残ってるここの緑が無くなってしまう。

(どうする、どうすれば)

「ちょっと、テツ子、後ろ!」

「え?」

 ピリスの声で後ろを振り返ると、一本の矢が俺の体に迫っていた。まずい、避けられ……。

「お止めなさい!」

 しかしその直前で別の方向から飛んできた矢によって弾かれた。この声と、この正確な矢。

「シーラ!?」

「あなたどうしてわたくし名前を? それに隣にいるのはピリス様?」

 俺の窮地を救ったのは、フィンネの妹であるシーラ。姉とはまた違って気品がある口調と、容姿端麗な身体つきをしていて、それでいて彼女の弓矢の正確性は世界一に近かった。

「お姉様、これはどういうつもりですか? 何故ピリス様のご命を」

「森を離れていたお前には分からない話だ。邪魔立てするのなら、妹であるお前でも容赦しない」

 シーラに向けて矢を向けるフィンネ。まさかこんな事になるとは思っていなかったが、隙なら十分にできた。

「一回逃げるぞ、シーラ、ピリス!」

「え?ちょっと、あなたまたわたくしの名前を」

 俺は二人の腕を取り、一瞬の隙をついて逃げ出す。ただその場から走って逃げるのではなく、魔法を足から地面にうち、その威力で空へと逃げた。

「なっ、飛んだだと?!」

 呆気を取られるフィンネ。俺はある程度飛び上がった後、なるべく遠くに逃げられるように先程と同じ原理で空中を移動した。

「魔法も使いようってことね、テツヤ」

「テツヤ? あなたもしかして本当にテツヤなのですかる」

「詳しくはここを離れてから話す!」

 今はとにかく遠くに……。

「テツヤ、魔法が切れたんだけど」

「あ」

 先程から連続で魔法を使ったから、限界が……。

「てか魔力は有限かよ!」

「呑気に言っている場合じゃないわよ、落ちるわよ!」

「何でわたくしまでこんな目にー!」

 飛ぶ力を失った俺達は、森の中に不時着してしまったのであった。

 魔法の無駄撃ちには気をつけましょう。

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