砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

ハッピーエンディング? 29-2



真っ白な丈の長い衣服を纏う少年は長い通路を歩きながら考えていた

帝国の強襲走行列車では大漠流を越えられず、皇帝の片腕の一人でオカマのヤヒムにクアッドで帝国まで帰還したのは良いが、それをどう父親である皇帝陛下に報告すれば良いのかを

カザ達の事は……言わない

素直に大漠流に阻まれてシャングリラに行けなかったと伝えれば良い

殺したクワイ大佐の事は?

それも、邪魔したからとそのまま言えば良い

問題は………

あいつがどこまで知っているか…だ

カザ達の事を言われたら、どうする?

変に否定しても

真実を知っていたら

あいつは躊躇いもなく俺を殺すだろう

だが、あの列車に気配は無かった

それは確かだ

そして兵士達には、口止め料だって

抜かりはない

大丈夫だ

………しかし

そこまで考えた所で、皇帝陛下の御前に入る扉の前で立ち止まる

深呼吸をするが、いつの間にか震えていた手に気づき、それを持ち上げてマジマジと見つめる

腰にさした剣を掴み

震えが止まるのを待つ

その時

御前の中から声が聞こえ、ラウルは扉に近寄り耳を当てる

「ああぁぁぁぁ!!なんて忌々しい!!あと少しで奴らの向こう側へ行けたのにっ!!」

子供の声だ…7、8歳くらいか?

誰だ?

「そうだな…惜しかった。行ければ根絶やしに出来た。だがそれは『向こう』の話だ、こっちでなければ何も意味を成さない」

あいつの声だ…子供と喋ってる!?

どうゆう事だ?

「悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいっ!!大体何であのガキ共は僕がっ!!…あいつらさえいなかったらぁぁああ!!」

子供の叫び声と共に食器なのか何なのか分からないが、壁や床にぶつかって落ちる音が響く

「まぁ良いじゃないか、今までだって『視える』奴らは居た。…だがどうだ?我々はこうして今も生きている…クックックッ…アッハッハッハッハッ!!あの程度で何が出来る!?……砂の連中は…放っておけばいい」

「そう…だね。派手にやっても面白く無いもんね」

「あぁ、そうだ。だが1つだけお前の為のプレゼントがある」

「えっ!?何なに!?」

「それはな……ニューラプスだ」

その言葉を聞いたラウルの顔は青ざめ、途端に走り出し、誰も居なくなった巨大な扉だけが残された

「…あの子は良いの?」

「…あぁ。彼は私の血を分けた存在。しかし紛れもなく人間であり、私では無い」

「複雑だね」

「そう。だからこそ見ていて飽きない。…いつ…どこで…どうやって絶望し…堕ちていくのか……私に近いからこそ、興奮してしまうよ」

「クスクスクスッ、変なのっ!!」

巨大な扉の向こう

2人の静かな笑い声だけが

響いていた


長い通路を必死に走るラウル

「…ニューラプスだと!?ニューラプスだとっ!!?」

帝国は既に世界の半分以上にまで領土を広げている

しかし、そこから先に進めない理由があった

皇帝は腐者を利用して国を拡げている事が背景にあるのだが

1つは、砂の地

そこにいる砂鯨は腐者を食べてしまう、故に砂漠へ進行出来なかったが、今回大黒海を引き起こしてそれを成そうとした

しかしさっきの口振りではダメだったようだ

そしてもう一つが

氷に閉ざされた国『ツングースカ』

最北に位置する永久凍土の極寒の地

腐者は液体だ。冷気の国に入る事すら叶わない

そして

この世界で国土、軍事力、科学力で帝国に唯一対抗出来る国

『ニューラプス』

それを皇帝は狙うと言った

俺は知っている

あいつが狙うと言った国が

翌日には消えている事を

しかし今度のは流石に大き過ぎる

真実を…確かめなければ

ラウルは通信機器のある部屋に入り込むと、独自権限が有効になるパスワードを入力し、ニューラプスとの国境付近の上空、成層圏から監視しているクアッドに接続し、望遠レンズでニューラプスの首都を拡大する

巨大なビルが建ち並び、その都市を覆う透明なドームは、俺が産まれる前から帝国も腐者も退けてきた鉄壁を誇る

そしてそれは今も健在で、中の様子も特に変わった様子は無く、ラウルは少しホッとした

次の瞬間

まるで、コップの中の水に墨を流し込んだ様に

一瞬でドームの中が腐者で満たされた

「…なんだよ…これ…」

悲鳴すら聞こえない

戦う事すら許されずに

世界最大

唯一帝国とまともに戦えるであろう国が

滅んだ

ラウルは知っていた

皇帝が世界を滅ぼす力を持っている事を

砂の国の『大黒海』が良い例だ

一瞬で世界が終わるとカザやティトに言った

しかしそれは何も知らない無抵抗の相手に対してだと思っていた

帝国や腐者に対して、あれだけの準備と防衛力を備えた国を

一瞬で滅ぼした

目の前のモニターに映し出された現実に

ラウルは恐怖で全身が震えていた


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