砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

砂鯨が月に昇る夜に 28-2


「あっ!!」

何かを見つけたシグは、防壁から飛び降りる

そこには、シグ、アズー、バサロ、ガラム、ゾイがここまで来る為に乗って来た

装甲サンドバギー『タンク』があった

「動け動け動け動け…」

乗り込みエンジンをかけるシグ

ドルルルルンっ!!

「っしゃぁあ!!かかったっ!!」

シグがそう叫んだ瞬間にカザとバサロも防壁から飛び降りてタンクに乗り込む

「行くぜっ!!舌噛むなよっ!!」

ギアのトルクを最大にして走り出すシグ

防壁の間から砂鯨側の砂漠へ出たティト達は、走り出して行ったタンクを見つめ、心の中で祈る

青い光の粒子が立ち昇る砂漠を駆け抜けるタンク


「彼らは一体何を!?」

シャングリラの司令室のモニターで見ていたイオ

「なんだかティト達にしか見えない敵がいるみたいだよ」

突然後ろから声をかけられて振り返るイオ

そこにはルナバーストの機関室にいたはずのアマンダ、レンチ、ルーペがいた

「…恐らくそれはあの大黒海の本体…どおりで何度倒しても蘇る訳だわ」

ルーペはコントロールパネルを操作して望遠レンズで瀕死の砂鯨を拡大する

普通の状態では何も映らず、暗視、サーモグラフィーと切り替えた時、砂鯨のヘソの辺りに何か蠢く影が見えた

拡大すると、薄っすらだが、確かに何かいる

「…こいつね」

ルーペは確信する

砂漠の腐者をかき集め、砂鯨を操り、人間が住む街を崩壊させた正体が、『アレ』だと

直ぐに無線機に手をかけ、空を飛ぶゲイルとインパルス達に繋ぐ

「提督!ルーペです!今触手に捕まっている砂鯨が見えますか!?」

「あぁ、見えてる」

「その砂鯨の腹部、おヘソの辺りに大黒海を創り出した本体がいます!!」

そう言ってコントロールパネルを操作したルーペはさっきの映像をゲイル達に送る

「…こいつが…ガキ共はコイツと戦ってたんだな!?」

「はいっ!!」

「わかった。…インパルス!!聞いてたか!?残弾は少ないが、俺たちでアイツを撃つ!!」

ゲイルの指示に、スピーカーが割れんばかりの声で返事をするインパルスの隊員達

「フォーメーション!!デルタ!!」

ゆっくりと上昇していく砂鯨達の真下、ゲイルの紺色のエアリードを先頭に三角形を象った編隊が潜り込む

真下にはカザ達のタンクが爆走していたが、それを追い抜いて触手に捕まった砂鯨の腹部へ向かう

「提督!!ヘッドセットの照準に位置をマークします!!」

「助かるルーペ!!…お前らミサイルなんて使うなよ!?あの砂鯨は弱ってる!機銃で蜂の巣にしてやれ!!」

ヘッドセットにマークされた場所を肉眼で見るが、やはり見えない

ゲイル達は機体を180度回転させると、砂鯨の腹部に沿って背面飛行でヘソに接近し、射撃した

弾は砂鯨に当たること無くヘソの少し上ギリギリに迫り

『何か』に当たった

しかしそれは見えない硬い『何か』に弾が全て弾かれ火花が散る

ゲイル達は機銃で撃ち続け、マーカーの場所を通り過ぎる

「くっそ!!当たってるのは分かるが、効いちゃいねぇ!!」

「こちらでも見ていますが、ダメージは無いようです」

不可視の敵がそこにいる

しかし何がどうなっているのか分からず、気持ちだけが焦るゲイル


「きったねぇな!!何だよあれ!?」

ようやく触手に捕らえられた砂鯨の下の方まで来たカザ達

見上げたシグは砂鯨のヘソに蓋をするように硬い外骨格でガードする『赤い寄生虫の本体』を睨みつける

「…コソコソ隠れやがって」

カザは後部座席の後ろの窓を開けて上半身を突っ込むと、ワイヤーと返しの付いたフックを取り出し、カザが窓から上半身を抜くのを確認したバサロは、後部座席をリフトのように上昇させた

屋根と平行になる高さまで上がると、レールが長く伸びて座席は後方に下がる

バサロはレールの角度と向きを2つのハンドルを操作して砂鯨のヘソへと向ける

「出力最大でも届かねぇかもしれねーぞ!?」

心配したシグが振り返り座席に座ってフックとワイヤーをしっかりと繋げるカザに叫ぶ

「…そん時は…そん時だっ!!」

カザの言葉と同時にバサロは、人間投射装置の発射ボタンを押した

勢いよく空へ飛び出したカザ

立ち昇る青い光の粒に視界を遮られながらも、真っ直ぐ砂鯨のヘソへと向かう

そしてカザは狩猟棍を取り出し

『赤い寄生虫』とヘソの間に突き刺した

身体を振り子のように大きく後ろへ降って、テコの原理で硬い外骨格とヘソの間を押し広げると、『赤い寄生虫』の硬く無さそうな肉が露出し、身体が前に振られる反動でジャンプし、その露出した部分にフックを深く突き刺した

砂漠を走るタンクから伸びていたワイヤーのウインチはギュルギュルと音を立てて回転していた

バサロはカザがフックをかけた瞬間にレバーを引いてウインチをロックすると、少したるんでいたワイヤーがビンっと張り、タンクに抵抗が掛かる

砂鯨のヘソから血が噴き出し

中から巨大な『赤い寄生虫』が奇声をあげながら引きずり出される

その勢いで狩猟棍が抜け、カザの身体は重力に従う

「マジかっ!!」

成すすべなく落ちる

そう思った瞬間、カザの身体に『赤い寄生虫』の触手が巻きつき振り回される

その様子を見ていたシグは、タンクのギアを入れ替えてアクセルを踏み込んだ

途中までは抜けてきている『赤い寄生虫』

しかし『赤い寄生虫』も抵抗しているのか、まだ抜けきれていない

バサロはワイヤーを掴み引っ張ろうとしたのにシグが気づく

「駄目だっ!!指が飛ぶっ!…バサロ!!助手席だ!!助手席っ!!」

シグの言葉に助手席に目をやるバサロ

座席の足下

黒く輝く小さな腐石が、袋から溢れて光っていた

そこへ飛び込むバサロ

上では寄生虫に振り回され、抵抗しようにも何も出来ないカザが必死に耐える

タンクの振動で跳ね回る腐石を、バサロは何度か掴みそこないながらも、1つ握りしめた

振り回され過ぎてぐったりとするカザ

『赤い寄生虫』のサソリのような口が大きく開き

ゆっくりとカザを近づけていく

「シグ!!取ったよ!!」

座席の下から這い出たバサロは、急いでリンクシステムを開け、腐石を放り込んで閉める

「行けっ!!バサロっ!!」

シグの掛け声と同時に、バサロはレバー引いた

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