砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

砂鯨が月に昇る夜に 28-1


質量を感じさせる程の青白い光は

黒く禍々しい体躯を貫き

貫かれた場所から

まるで木の葉が炎に焼かれ燃え尽きるように

数千、数万の命の凝縮が

光の粒子となって

消滅した

風の無い砂漠に

静けさを残して


「……やった………のか?」

上空でインパルスの編隊と共にエアリードで飛行するゲイルは、上空から砂漠に残された血だらけの砂鯨と、それにゆっくりと近づいていく砂鯨の群れを、ただ眺めていた

寄り添うように側まで近づき、傷つき死にかけている仲間に哀しい声をあげる砂鯨達

離れていた群れも合流し、砂漠から溢れ出す光がより一層強さを増す

「…一体…何が始まるんだ?」

防壁の上で左腕を抑えながら呟くシグ

「…多分、『月昇り』…だと、思う」

シグの肩を支えながら答えるバサロ

「…生まれて初めて見るよ」

その隣に立つカザの言葉に、シグもバサロも頷いた


シャングリラの機関室でも、誰も歓声をあげず、ただ今起こっている事に目を奪われていた

しかしアズーとティトは、アームの付いた重機から降りると、ゾイに駆け寄る

「ゾイ、ねぇゾイっ!!」

ぐったりと横たわるゾイに意識は無く

黒いシミだけが、ゆっくりと広がっていた

「…やっぱり…駄目なのかな……」

ティトはゾイを抱きしめ、溢れ出る涙が床に落ちる

「……行こう!カザ達の所へ!!まだ…まだ何か出来るかもしれない!!」

そう強く、強く言葉に出したアズーはゾイを背負う

「…うんっ!!行こうっ!!」

ティトは先に走り出してエレベーターの扉を開けに行く

その姿を、ルーペは辛そうに見ている事しか出来なかった


外では防壁の前に集まった砂鯨達が、哀しそうに夜空に向かって鳴いている

その光景を防壁から見守るカザは、砂漠から何か小さな青い光が、空に向かってゆっくりと立ち昇り始めたのに気づく

「…光が……」


上空から眺めていたゲイルにインパルスのアッシュから通信が入る

「提督!何か砂漠から光が!!」

「あぁ、見えてる。彼らはここではじめる気だ…『月昇り』を」

「えっ!?マジっすか!?俺初めて見るっすよ!!」

「俺は…2回目だ。初めて見たのはティトが産まれた時だったな。ホントに…アイツはツイてるよ」

そう言って微笑んだゲイルは、今まさに始まろうとしている『月登り』の邪魔にならないようにと、インパルス達と共に少し離れた場所へ移動する

そして

それは一瞬だった

砂漠からゆっくりと立ち昇っていた青い無数の光の倍以上の光の粒が、ブワッと砂漠から溢れ出す

その光に誘(いざな)われるように、砂鯨の群れも、どうゆう力が働いているのか分からないが、ゆっくりとその巨体を宙に浮かせ

ゆっくり、ゆっくりと上昇する

「…すげぇ……」

それ以上の言葉はシグの口から出ず、カザもバサロも言葉を無くして、その美しい光景に目を奪われる

カザ達の背後の気配に気づき振り返るカザ

「カザっ!!…ゾイが!!ゾイがっ!!」

走って来るティトと、その後ろでアズーがぐったりとしたゾイを背負ってこちらへ向かって来ていた

防壁から飛び降りるガラム

それに続こうとしたカザの耳に

鞭が風を切るような音と

砂鯨の悲鳴が響き

振り返る

「…なんで…何でまだいんだよっ!!」

怒りを露わにして砂漠へ向かって叫ぶカザ

砂漠から突然現れた細い腐者の触手が、空に浮かび始めた瀕死の砂鯨に巻きついていた

踠き、必死に抵抗する砂鯨

周りの砂鯨達もどうにかしてやりたいが、砂鯨達の上昇は止まらない

「あれっ!!」

バサロの指差す方向

傷ついた砂鯨のお腹。おそらくヘソにあたる部分

そこに

今さっきまでとは違う

『赤い何か』がいた

似ているが、明らかに形も大きさも違う

「あいつが…あいつが本体か!?」

「分からない…でも倒さないと何も終わらない!!」

「でもどうやって行くよ?」

あの傷ついた砂鯨まで距離があるため、ここからの攻撃は無理だ

悔しさを噛み殺しながら、必死に考えるカザ達



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