砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

最後の一撃 27-1


シグの血で赤く染まった武器を携え、走り出すカザとシグ

黒い人型の『ソレ』も駆け出し、出会い頭に3本の腕で斬撃を放つ

それを見事にかわした2人は、腕を狙う

しかし『ソレ』は攻撃した腕を直ぐ引いて回避すると、素早く反撃する

超高速の攻撃と回避

一撃も受ける事は許されない状況で、お互いに一歩も引かずに、攻撃と回避を続ける

が、カザの横腹を狙った一撃が腹部の黒い部分を吹き飛ばす

体勢を崩した『ソレ』を2人は見逃さなかった

カザは右膝を、シグは左腕の脇を狙う

狩猟棍で殴打された膝は吹き飛び、中にある触手を引きちぎり、滑るように振り抜いた曲刀が左腕を肩ごと切り落とした

2人はそのまま後ろにすり抜けようとしたが、『ソレ』の背中の2本の腕が踵(きびす)を返して2人に迫る

力技 奥義 『王牙(おうが)』

バサロは『ソレ』の真後ろに詰め寄り、腰を落として両拳を縦に揃えて背中に放つ

響く打撃音と衝撃波

『ソレ』の背中はメタルナックの形に凹み、伝わる衝撃は中にいる『赤い何か』の外骨格まで届き、ミシミシと無数のヒビが入った

前方に吹き飛ぶ『ソレ』は、受け身も取れずに防壁の上を転がっていく

「ナイスバサロ!」

「俺たち3人揃って負ける訳がねぇ!!」

王牙(おうが)を打ち込んだ姿勢からゆっくりと身体を戻すバサロの背中を、カザとシグが軽く叩くと、表情は真剣なままだが少し嬉しそうなバサロ

カザに膝を、シグには左腕を持っていかれ、バサロの一撃で本体にもダメージを受けたソレは、背中の腕を使いながら何とか立ち上がろうとするが、上手く立てずに何度も転び、黒い人型の中の『赤い寄生虫』が奇声をあげる

「…普通の攻撃でも、中の『赤いやつ』まで届けばダメージはあるみたいだな」

バサロから受けた傷が治らないのを見て、シグの言葉を黙って聞くカザとバサロ

その目線は、必死に立ち上がろうとする『ソレ』に向けられていた

バルウでの時の事もある、気を抜いたら取り返しのつかない事になることが分かっているシグも、2人に並んで曲刀を構えた


ルナバーストの機関室

巨大なルナバーストのコアの真横に用意されたもう一つのコア

それを真ん中で繋ぐ場所にジャリハートから取り出したリンクシステムが繋がれていた

「…ねぇ、これ大丈夫なの?」

ティトが不安な顔で最後の締め込みを行うアズーとルーペに聞いた

「ルナバーストのコアをリンクさせるには、持ってきたこれじゃないと出力不足になってしまうので、あらかじめ起動させたリンクシステムで2つのコアを繋げます」

「成功しても、私のルナバーストは無事じゃ済まないけどね」

淡々と説明するアズーと、壊れるのを知っていて何故か嬉しそうなルーペがティトを見もせず答えた

「…なら良いけど……」

なんだか余計に不安になったティトは2人を邪魔しちゃ悪いと思い振り返った時だった

機関部の後方の冷却システムの調整を行なっていた整備士の真後ろに、何か不自然な水溜りがあるのを視界に捉えた

不審に思い見つめていると、その水溜りの中心が盛り上がって立ち登(のぼ)る

ティトは目の前に置いてあった消火器を手に取り走り出し、整備士の真後ろに現れた腐者に噴射した

整備士に襲いかかろうとした格好のまま一瞬で凍りつき、何事かと振り返った整備士が悲鳴を上げて腰を抜かす

「こんなところまで入ってきてたギャ?」

消火器を持ったティトの横に駆けつけたゾイは、凍りついた腐者を見る

「…この部屋は温度が高い…どっかに移動出来れば良いんだけど」

そうティトが口にした瞬間

凍りついた腐者の一部にヒビが入り、そこからティトめがけて黒い液体が噴き出た

「きゃっ!!」

倒れるティト

しかし

液体を被ったのは、ティトを庇って押し倒したゾイだった

かかった液体はゾイの皮膚に染み込み、黒く変色する

「っ!!…ゾイ!!ゾイっ!!」

倒れたまま起き上がらないゾイを抱えるティト

駆けつけたアズーは、その様子を見るなり直ぐに機関部のコントロールパネルに走り出す

「ちょっ、ちょっと!!」

追いかけるルーペはアズーの隣のパネルに着いてルナバーストの起動を手伝う

「悪いけど…あの子は助からないわよ」

ルーペは横目で必死にパネルを操作するアズーに現実を告げる

「分からないじゃないかっ!!アイツを…アイツを倒せれば!もしかしたらっ!!」

ルーペの言う事はアズーも理解している

それでも必死に起動を急ぐアズーを、ルーペは黙って同じように起動を急いだ

「砂鯨が月に昇る夜に」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く