砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

本当の敵 25-1


「っ!!おいっ!!マジか!?嘘だろ…ティトっ!!ティトっ!!」

満月の月明かりに照らされた砂漠をインパルスよりも速い速度で走り抜け、大黒海の後ろに回ったサンドシップとサンドバギーは、迫って来ていた砂鯨に飲み込まれてしまった

それを目の前で見ていたゲイルは、大きな窓を叩きながら膝をつく

次々に押し寄せる砂鯨だったが、大黒海があまりに巨大な為に体当たりこそするものの横へ流れ、壁を避けてグルっと回って砂漠へと戻っていく

しかしサンドシップとサンドバギーを飲み込んだ砂鯨だけ、大黒海の太い触手に捕まり身動きが出来なくなっていた

その様子をルナバーストの機関室のモニターで見ていたアマンダは、口に手をあて声も出せず、ルーペは「…ティトちゃん」と小さく呟き、瞳から溢れた涙が線を作る


「…うっ……」

砂鯨に飲み込まれたカザは一瞬意識を失いすぐに目を覚ますが、今の自分の状況が上手く把握出来ない

背中にしがみついていたティトも目を覚まし、目の前のカザに少し安心するが、全身の浮遊感に疑問を抱(いだ)かずにはいられず辺りを見渡すと、2人はジャリハートに乗ったままなのは分かるが、それ以外何も分からない

まるで深い水の中にいるような

薄ぼんやりとした空間の中を漂っていた

「おーい!カザ!!ティトちゃん!!大丈夫かぁ!?」

自分達の上の方から聞こえるシグの声に2人は見上げると、少し離れた所でタンクからふわふわと身体を浮遊させて出てきたシグが手を振っていた

「シグ!危ないですよ!!砂鯨の体内…の筈ですから!!タンクに戻って!!」

「大丈夫だよ、何かふわふわしてるし」

注意するアズーそっちのけのシグに続いてゾイまでタンクの外に出てしまう

それをガラムが慌てて止めようとするが手が届かなかった

「ねぇ、アレってシャングリラ?」

ティトの指差す方向に目を凝らすと、キラキラと無数の光の集まりがあり、光り輝く豪華なシャンデリアのようなシルエットを形作っていて、その真ん中より下の部分に青白い強い光が2つ見えた

「…距離的に…そうかもしれない。じゃあこの横のどす黒いのは」

「…大黒海…なのかな?」

見上げるようなどす黒い塊に、この水の様な空間が捕らえられているのが分かる

黒い塊の中を紫色した小さな小さな無数の光が、まるで星の様に集まり流動している

恐らくあの光の一つ一つが腐者なんだろう

「みんな!アレっ!!」

タンクから身を乗り出したバサロは、大黒海と思われるモノの中心辺りを指差す

そこにはどす黒いモヤの中から時々青白い光を放って暴れる砂鯨の姿が見えた

その砂鯨は、最初身体にまとわりつくモヤを振り払おうとしているのだと思っていたが

「………何だアレ」

カザは見つけた

どす黒いモヤの中を泳ぎ、抵抗する砂鯨をなぶるように動き回る

赤く光る小さな

『何か』を

その『何か』は、8つの触手をたくみに使ってモヤの中を泳ぎ回り、砂鯨の隙を見て触手を身体に刺しに行く

しかし青白い光と暴れる砂鯨に弾かれてをずっと繰り返している

「なぁ、アレだけおかしくねぇか?」

いつの間にかジャリハートの側まで来ていたシグは、その光景を眺めながら呟く

「もしかして、アレが大黒海のきっかけになってるとか?」

「そうかもしれません!」

ティトが何気なく言った一言に食いつくアズー

「僕にはアレが…寄生虫、のように見えます。バルウでの戦いでほとんどの腐者が消滅したのに何故復活したのか…ずっと考えてたんです。やはり腐者を呼び寄せ統括する存在がいたんだと、アレを見て確信しました!」

「でも寄生虫の癖に寄生出来てねーじゃん」

自信満々に独自の解釈を唱えたアズーを空かさずシグが覆す

「今日は満月で、『月登り』の兆(きざ)しが出てる群れに反応したんじゃ無い?」

ティトの口から博学な言葉が出て来たのにびっくりして振り返るカザ

「…何よ、私は砂鯨が好きなの!だからいっぱい勉強したの!…もう、その顔止めてよ!!」

と振り返り驚愕した顔のままのカザの顔を手で押しやるティト

「あれ?ちょっと待ってよ。緑の眷属は『月に昇ることを諦めた砂鯨』って言ってなかった?」

カザは誘う樹海で言われた言葉を思い出し口にするが、大黒海の中の砂鯨は青白い光を放ってティトの言う兆しがはっきりと現れていて、段々頭がこんがらがってきた

「…諦めて…無いギャ」

声の主のゾイをみんなが振り返る

「…気持ちが…ここに伝わってくるギャ」

と胸の辺りを両手で抑える

「帰りたいって!みんなの所に帰りたいって伝わってくるギャ!!」

ゾイの目から涙が溢れ

宙を漂う様にふわふわと散っていく

「…ゾイ……」

タンクから身を乗り出していたガラムがゾイを心配していた時だった

大黒海の太い触手であろう影に紫の小さな光の点が集まって輝きを増していく

その形状は鋭くなり

水の様な空間に迫って来た

「やばいっ!!」

カザ達は避けようにも宙に浮いている状態の為、上手く身動きが取れず、鋭い触手が突き刺さる

そう思った瞬間

横から現れた青白い別の砂鯨が触手に噛み付いてソレを防ぐ

が砂鯨に空間が押されてシャングリラの方へと一気に押し流されるカザ達

それぞれに上げる悲鳴と共に

目の前が闇に飲まれていった


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